田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

広島原爆記念日のために。 横穴壕    麻屋与志夫

2015-08-06 15:09:58 | 超短編小説
46横穴壕

『鍵屋』という屋号の麹屋さん所有の山だった。
ぼくらは『かぎやま』と呼んでいた。
いまどき、麹屋などといっても知らないひとがほとんどだろう。
え、麹そのものをしらない。
そっか。こういう時代までぼくは生きてこられたんだな。
だってね、これから話そうとしているのは、62年も前のことなんだ。
まず、麹。
糀ともかく。
麹は米、麦、豆を蒸し、麹かびを繁殖させたもの。
インターネットで調べれば細かく書いてあるよ。
現物は大手のスーパーなら売っていると思う。
でも、それは白いものだ。
麹花の咲いた淡黄色になったものは見たことがないんじゃないかな。
母は麹を買ってきて、ドブロクや味噌をその麹を使って作っていた。
出来るモノは、なんでも自分の家で作っていた。
すぐに使わないで古くなると黄色いカビが繁殖した。
それを麹花と言っていたようだ。
まあ、いいか。鍵山のことにもどろう。                       
「ピカドンが落ちた。ピカっと光ってドンと音がして。広島が全滅なんだってよ」
大人たちの密やかな話がきこえてくる。
ぼくらは不安におののいていた。
そして、鍵山の山腹に穿たれた横穴壕に集合した。
奥のほうまでいくと、昼でも暗かった。
ぼくらはそこを秘密基地にしていた。
建具屋の一郎ちゃん。
洗濯屋のタダシちゃん。
とび職の和やん。
それに集団疎開の太田君たちもいた。
ぼくの家はロープ屋。
麻縄を作っていた。
ぼくらは家からいろいろなものを持ち寄った。
一郎ちゃんは建具に使う板をもってきた。
基地の入り口が人目にふれないように板で扉をつくった。
その板に泥をなすりつけた。
ほかのものがきても横穴の土壁にしか見えないように工夫したのだ。
ぼくらはいつも、その壕の最深部に作った基地で遊ぶのだった。
ぼくはその日まだ完成していないドブロクを一升瓶につめて持参した。
食糧難の時代だった。
食べ物がない。
飢えの悲しさ、苦しさ、とりわけ飢え死にするか   
もしれないという不安。
食べられるものだったらなんでも口にした。
絵の具まで食べた。
白い絵の具が一番おしかった。
学校帰りに麦の穂を摘んで食べて農家の人に追われた。
ぼくの家はありがたいことに、風船爆弾を吊るす細引きを軍に納めていたので、特別配給品があった。
飢えるようなことはなかったが、友だちと同じようにお腹をすかしているふりをしていた。
そうしないと、仲間はずれにされてしまう。
「正ちゃん、このドブロクおいしいよ。初めてこんなおいしいもの飲んだよ」
「トウキョウにも無かったんけ?  そんなにうまいんなら、ぼくの分も飲みなよ」
ぼくは大田君にぼくの茶碗のドブロクを空けてやった。
ぼくはドブロクがお酒で、飲めば酔うということを知っていた。
座繰(ざぐり)式のロープ職人は、月に二度くらいはドブロクを飲ませないと働かなくなる。
酔うと、ぼくには意味のわからない、猥褻な歌を大声で喚き散らした。
ぼくらは酒盛りをした。
ぼくは、麹を団子のようにまるめて持ってきていた。
ただ疎開の子に麹を見せたかっただけだ。
でも、それを口にしたものがいた。
太田君も「すごくうまいね」といって食べてしまった。
ぼくは食べるふりをしただけだった。
ぼくにはおいしくはなかった。
むあっとした、カビ臭いにおいが口の中に広がって飲み込むことができなかった。
そっと手に吐き出した。
後ろ手に背後の土の上に捨てた。
「見よ東海の空明けて」
一郎ちゃんが歌いだした。
みんな酔ってしまった。
ぼくらの歌声は横穴の中にひびいた。
薄闇にこだました。
大勢の仲間がいるようだった。
薄暗い横穴壕の中に反響した。
「父よあなたは強かった」
ぼくらは、軍歌を斉唱しながら壕から出た。
規律正しく二列横隊の行列をつくり歩き出した。
ともかく、はじめてお酒を飲んだので酔っていた。
酔っているということすらわかっていなかった。
楽しかった。
楽しくて、舞い上がるような気分で住宅街に練りこんだ。 
一郎ちゃんの家の前に人だかりがしていた。
「南京芝居だ。建具やの美代ちゃんが、南京芝居しちまった」 
美代ちゃんというのは、一郎ちゃんのお母さんだ。
ぼくは大人の脇から開け放たれた一間だけの家をのぞきこんだ。
鴨居から綱が吊るされていた。
綱を首に巻いて人がぶら下がっていた。
風もないのにかすかに揺れていた。
そのロープはぼくが一郎ちゃんにあげたものだった。
父ちゃんが問屋に建具届けに行く時、大八車で使う綱が古くなっちまったんだ。
そう言われてあげたばかりの真新しいロープだった。
路地のむこうから、がらがらと車の轍の音が聞こえできた。
大八車の梶棒のところに、古びたロープが束ねて下げられていた。
ああ、まだ倹約して古いのを使っているのだ。
およそその場の雰囲気とは場違いなことをぼくは考えていた。
この騒ぎがあったので、ほくらの酒に酔った行進は、誰にも見とがめられなかった。
気づかれなかった。
その夜は、ピカドン騒ぎはどこかにふっとんでしまった。
確かに操り人形のようだった。
南京芝居のようだった。
ロープからぶらさがった一郎ちゃんのお母さんは、揺れていた。
いたずらされたんだべゃ。
だれがやっただ。
学校に駐屯している兵隊だんべか。
若さもてあましてっからな。
馬鹿、兵隊さんのこと犯人だなんていったら、殺されっぞ。
そんなこと口に出したらだめだべな。
めったなこと、言っちゃいけねえぞ。
ぼくの周囲の大人たちの会話は、いつになく難解なものになっていた。
なにを話しているのか、いたずら、なんて意味はとくに判りにくかった。
そして、悲しみはそれだけではすまなかった。
一郎ちゃんが家出したのだ。
こんども、大人たちはひそひそと噂していた。
ぼくの耳に入ってくるのは、一郎ちゃんが母親にいたずらした犯人の顔を見ているのではないか。
ということだった。
そんなことはない。
だってあんなにたのしそうにぼくらと基地で遊んでいたのだ。
不安があれば態度に出ていたはずだ。
3日たっても一郎ちゃんは行方不明のままだった。
ぼくは知らなかったのだが、この間にピカドンを避けるにはもっと深い横穴壕を掘らなければならない、ということが町内会で決められた。
ぼくを、お巡りさんが呼びに来た。
サーベルのガチャガチャいう音を恐れながらついていくと、ぼくらの秘密基地に導かれた。
そこにはタダシちゃんも和ちゃんも疎開児童も全員、すで集まっていた。
もちろん、町内会の大人たちも、父もいた。ぼくは、おずおずと基地の中に入った。
異臭が鼻をついた。
淡黄色のカビが人型に盛り上がっていた。
鱗のようなカビで覆われた人型。
「なんだべ。どうしてこんなになにったんだ」
口ぐちに大人たちは囁き合っていた。
ぼくには、それがぼくらが食べ残した麹が増殖したものだと解った。
そして黄色の鱗を剥がせば、一郎ちゃんが潜んでいる……。
だってここは、ぼくらだけの秘密基地なのだから――。

●今月末に角川ブックウォーカーに発表予定の「アサヤ塾」の窓から――の中の一篇です。広島に原爆がおとされたとき、北関東の片隅、鹿沼ではわたしたちは国民学校の6年生でした。再録してみました。楽しんでください。



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夏風邪。涙。隠棲。 麻屋与志夫

2015-08-06 05:16:44 | ブログ
8月6日 木曜日

●エアコンの冷気を吸ったために喉を腫らしてしまった。
まだ治らない。
ベンザを飲んだり、イブを飲んだりしているのだが。
猛暑で体が弱っているためか、
歳で自己治癒力が弱まっているせいか、
ともかく困ったものだ。

●そのうえ、サッカーはナデシコもサムライもパットしない。
小説をかくことはかいているのだが、
じぶんでよんでも、
おもしろくない。
消去したり、かきあらためたり、ともかく苦行だ。

●ウジウジと蒸し暑い部屋でねていると、
ロクなことをかんがえない。
ともかく、歳なのだから、
もう浮世の義理は――葬祭には出席しなくていいのではないか。
こちらがあちらにヨバレルヨウナ歳なのだ。
それに最近は葬式で――、女たちがよく泣く。
号泣する。
むかしから、こうだったのだろうか。
葬式でなくても、テレビを見ていてもみんなよく泣いている。
女性の泣く姿を見るのが嫌いだ。
ほんとうに、こちらまで悲しくなる。
涙は見たくない。

●大勢集まっている場所にはめったにでない。
でてみると、話がまったく理解されないし、
相手のいっていることも価値観が違いすぎて理解はできるが、
アイヅチはうちかねる。
これはもう、隠棲するしかない。
葬祭のつきあいはやめにした。
ゴメンナサイ。


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怪談書きませんか/栃木芙蓉高校文芸部
著者麻屋与志夫
250円(+税)  (税込 270円) 

古い怪談のある栃木。いま新しい怪談誕生。恐怖、戦慄保証付き
栃木には大中寺の七不思議の伝説がある。特に『馬首の井戸』が有名だ。
上田秋成の日本吸血鬼物語の嚆矢(こうし)ともいわれている『青(あお)頭巾(ずきん)』も広く知られている。この物語も栃木が舞台だ。
―― その土地は、いま外来種ル―マニヤ吸血鬼の侵攻(しんこう)を受けている。
吸血鬼監察官の文子と龍之介は敢然(かんぜん)とその敵に立ち向かう。
龍之介のジイチャン翔太も愛する九(きゅう)尾(び)玉(たま)藻(も)と、命がけの抵抗をする。二組の恋人同士が最後にたどりついた境地(きょうち)。
1000年の時空(じくう)を超えた愛の不滅(ふめつ)の物語。
あなたは恐怖し、そして純愛に涙する。

角川ブックウォーカーで検索してください。
ジャンル文芸レーベル惑惑星文庫出版社名惑惑星






東アジアカップ、サムライもナデシコも、センセイゴールでも、後が続かず――惜敗。 麻屋与志夫

2015-08-03 05:25:10 | ブログ
8月3日 月曜日

●サッカ―の試合をみようとはやめにTVをon。
JR鹿沼駅の映像が目にとびこんできた。
雹が降っている。
涼しくなったわけだ。
家のまわりは雨もほとんど降らなかった。
「空雷雨だな」などとかみさんと話していた。
まさか徒歩で20分くらいしか離れていない駅の近辺が。
激しい雨と雹におそわれていたとはおどろきだった。
夕立は馬の背をわける、とはこのことだ。

●じぶんの住む街の様子をテレビにおしえられる。
中国での東アジアカップの試合をリアルタイムで観戦できる。
おどろきである。
終戦記念日が間近にせまっている。
GGは70年前のあの日のことを思いだしている。
世のうつりかわりにトリ肌がたつ。
GGの世代の常識などシーラカンスに食わせてやれ。

●古いとか、ズレテいる。
といわれる。
反発しないですなおに受けいれることにしている。
年齢差をかんがえたら、GGの世代には発言権はナイに等しい。
こちらの意見に同調してくれる同世代の人間がみなアチラにいってしまつている。

●ところがGGはまだあと28年は生きる気でいる。
いろいろと事情があった。
すきな小説を書く時間がなかった。
やっとつかんだ。
いまのフルタイム小説を書くことに没頭するこのできる。
環境だ。

●飲みたい酒も、断酒とはいかないが節酒。
肉もあまりたべず、
野菜をおおくとり、
散歩は欠かさず――などと、
健康に留意している。
書きたいことがありすぎて、
書きかけの作品が机上に山積していて、
とてもサッカ―などみている暇はないのだが。
『探偵の探偵』とサッカーの観戦くらい許してもらえるだろう。
その試合は北朝鮮にボロ負け。
がっかりした。
ナデシコもそうだったが、
センセイゴールで一点とつたあとの攻めがよわい。
「勝って兜の緒を締めよ」とか「やられたらやりかえす」そうした気力、
精神力を鍛えられていない若者――。
といいだしたら、GGがなにホザクといわれてしまいそうなので。
――おあとがよろしいようで――すよ、ネネネ。



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怪談書きませんか/栃木芙蓉高校文芸部
著者麻屋与志夫
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古い怪談のある栃木。いま新しい怪談誕生。恐怖、戦慄保証付き
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―― その土地は、いま外来種ル―マニヤ吸血鬼の侵攻(しんこう)を受けている。
吸血鬼監察官の文子と龍之介は敢然(かんぜん)とその敵に立ち向かう。
龍之介のジイチャン翔太も愛する九(きゅう)尾(び)玉(たま)藻(も)と、命がけの抵抗をする。二組の恋人同士が最後にたどりついた境地(きょうち)。
1000年の時空(じくう)を超えた愛の不滅(ふめつ)の物語。
あなたは恐怖し、そして純愛に涙する。

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ジャンル文芸レーベル惑惑星文庫出版社名惑惑星






葬祭場の冷房は効きすぎと思いませんか。 麻屋与志夫

2015-08-01 06:14:24 | ブログ
8月1日 土曜日

●のどをはらしてしまった。
若いとき、扁桃腺の摘出手術をうけている。
だから、つかれたり、風をひくとのどの奥のほうがはれる。
からだがだるくてつらい。
ねるほどのことはない。
キアイデPCにむかい小説をかきつづけている。

●先月は葬式がふたつもつづいてしまった。
妻の弟。
わたしの妹の夫。
わたしからすれば、ふたりの義弟の死。
悲しいことは、むろんだが、人間のはかなさをしみじみと悟った。
火葬場で骨を拾う。
無情の風がからだのなかをふきぬけていく。
けっして泣かないことを信条としているが、
このときばかりは涙腺がゆるみそうなのを堪えた。

●芥川龍之介の『手巾』ではないが、
文士志望であったら、
「こころのなかは武士なのだから、なにがあてもめそめそするな」
と先輩に教育された。
泣かないということも、ひとつの美徳であるとわたし的にはおもっている。

●葬式のやりかたも、
マニアル化されてどこの斎場で葬式をあげてもおなじようだ。
冷房の効き過ぎまでおなじ。
過剰な冷やし過ぎ。
もっとも、冷却してある故人には適切な温度なのかもしれない。
生身のわたしは、おかげでのどをはらしてしまった。
足は冷えてがくがくした。
40°近い酷暑から、北極圏に瞬間移動したように感じた。
髪の毛の薄い頭が血管の収縮で誤作動でもおこしたら命取りとなる。
ハンチングはぬけなかった。
知りあいのみなさん、どうか夏には死なないでください。
身の危険を感じ、葬式には参加できませんから――。
もっとも、わたしの歳になると、健康な体で参列する上限の年齢のようだ。

●80歳になって、やっとフルタイムの作家となることができた。
非才をかえりみず、ずっと小説をかきつづけてきた。
これからが勝負だと思っている。
健康には万全の注意をはらわなければならない。




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