田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

リルケのバラVS人狼/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-09-10 07:31:54 | Weblog
奥様はバンパイァ 48

○GとM、そして玲加が五月のバラの香りを胸いっぱいに吸いこんでいた。

でも驚いてはいけない。

あたりには誰もいない。

化沼の麻生家のバラ園では……? ない。

ここは神代バラ園。

開園までにはまだだいぶ時間がある。

○「なにか起きるっていうの」

玲加がまだ信じられない声でGに問いただす。

Gはなにを血迷っているのかしら?

「イメージがあった。バラ園が襲われていた。わが家のバラ園よりずっと広かっ

た」

それは数時間前のセリフだ。

「そして、わたしがしっているバラ園といえばここしかない」

これがいまの玲加の質問への回答だった。

ただそれだけ理由で夜を徹して高速で調布まできたのだ。

クリッパーのタイヤがバーンナウトしてしまうのではないかと心配なほどとばして

きた。

○コンクリートの天井に現れた3Dの古戦場、阿鼻叫喚の戦いを見た後なのでまだ混

乱しているのではないかしら。

玲加テキにはそう思っている。

死人の泣く声を聞いた。

恨みの叫びを聞いた。

凄惨な敗北の戦場だった。

その怨念がMのDNAに引継がれているというのがよくわかった。

そのあまりの悲しさ悔しさの現場を見て、感じとったのでGまでおかしくなってし

まったのではないか。

「神代バラ園がアブナイ」

ただそれだけの説明でわたしとMを同乗させここまでやってきたのだ。

○五月の薫風が凪いだ。

バラの花影がふいに色を失った。

バイクが騒音をあげてバラ園の裏側の林から現れた。

ラバーマスクは人狼のものだ。

でも玲加はしっている。

あれはマスクなんかじゃない。

ひきはがすことはできない。

かれらは人狼そのものなのだから!!

玲加はMに習ってリルケのバラの鞭をかまえた。

麻生家のバラ園から持参したものだ。

Mが丹精込めて育てている真紅の薔薇。

元の名前がわからなくなった。

Mはリルケのバラと呼ぶ。

真紅の薔薇を咲かせている。

人狼チェーンをジャラジャラさせて襲ってくる。

真紅のバラの鞭は金属のチェーンに勝てるのか。

     リルケのバラ
       

       
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人狼のいま/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-09-08 04:29:26 | Weblog
奥様はバンパイァ 47

○「この黒川がどうして黒川と呼ばれるようになったかしっている。血の色はね、

夜の月明りでみると赤ではなく黒く見えるのよ。わたしたち吸美のものがここまで

きたときにはみんな殺されてしまったあとだった。むごたらしい死骸がるいるいと

おりかさなっていた」

先祖の記憶がのこっているM。

そのためにこそ、怨嗟には深い悲しみがよどんでいた。

「だから……人狼への恨みは忘れられないの。この川を見るたびにおもいだしてし

まうのよ。とくにこんやは、人狼とたたかったから」

呪いのこもった声でMは語り続ける。

それであるいてここまで来たのか。

Mは闇にむかいあっていた。

暗黒に声を飛ばしている。

忘れられない恨みをこめて。

「おばさま。家にかえって休みましょう」

玲加がMをうながした。


過去の恨みは消えることはない。

復讐をはたしたとしても、恨みが消えるわけでもない。

むしろ、合成麻薬をつくっているほうがわたしには許せなかった。

麻薬を売って、利益を上げようとする行為が許せなかった。

おおくの廃残者をだしてもなお商売をつづけられる。

ひとの生き血を吸うと同じことではないか。

麻薬の販路の絶滅。

それはこれから洋子の父、麻取りのひとたちが追いかけるヤマだ。

わたしたちは、この化沼の若者を人狼の攻撃や麻薬の誘惑から守ることだ。

まだ人狼が咆哮し、舌を鳴らしている。

戦いはまだはじまつたばかりだ。

過去の恨みはそのままにしておいて、これから戦う目的が見えてきた。

じぶんたちの町は、じぶんたちで守る。

Mの寂しそうな横顔を見ながらわたしは思ったものだ。

    マチルダ
      

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清明の母は白狐/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-09-07 09:48:16 | Weblog
奥様はバンパイァ46

○「歩いて帰らない」とM。

「クリツパーはどうするの?」と玲加。

「あすとりにくればいいわよね」

さっさと駐車場を横切りながら、Mはいらいらした声でGをふりかえる。

「わたしたちの悔しさはだれにもわからない。わたしたちの恨みはわたしたちだけ

のもの……」モノローグのような口調でつづける。

「Mありがとう。洋子はぶじにもどった。ありがとう」

玲加にはMの悔恨と怨念のよりどころが理解できない。

「でも山本さんが麻薬取締官だとは思わなかったな」

「それよりあそこで大麻を原料とした合成麻薬をつくっていたとはね……」

Mはまだ苛立ちを隠しきれないでいる。

いままでいた空間での戦闘の喧騒。

天井いっぱいにくりひろげられた残虐非道な合戦絵巻からぬけだせないでいるの

だ。

「わたしテキにはね、オバサマ。歴史好きな女の子としては玉藻の前の戦いに連座

した感じ。またとない経験をしたわ」

歴女の玲加はうれしさで興奮している。

必死に抵抗する九尾族の女たち。

絶叫。

すすり泣き。

人狼の影。

後ろ足だけは人間のままで女たちに襲いかかるものたちが多かった。

狼になりきったもの咆哮。

火の粉。槍や刀、松明を手にした都からの追って。

まだ玲加の耳には戦場のセメギ合う声がひびきがのこっているのだろう。

「わたしたちユダヤ十支族がこの極東の小さな島にたどりついたとき、ほとんど武

器は使い果たしていた。武器らしい武器はもたなかった。部族のだから最強の武器

は色白の美女たちだった。美しく化粧する能力のある女たちだったの……。わたし

たちの部族はここを終の棲家とすることにきめたの。ここはシルクロードの終着

点。世界の果て。ここに定住したい。それにはこの地の先住民族に女たちをさしだ

すことしかできなかつた。阿倍晴明が白い狐を母として生まれたという言い伝えが

あるわ。玲加しってるでしょう。狐が人間の子供を産むわけないでしょう」

「じゃわたしたちの先祖が……」

「渡来人の女から生まれたということが憚られた時代のですものね」

「帰化人の色白の美女が白狐だったんだ」

「真実をかくすための寓話よ。アレゴリーなのよ。狐は損な役回りなの。人をだま

す狡猾なものの寓意として洋の東西にかかわらずむかしから記されてきたの。清明

の母といわれる葛の葉は『恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の

葉』と詠って身をひくの。まさか玲加、白狐が和歌を詠んだと信じていなかったで

しょう。むかしから、わが部族の男たちは女の縁で政界にとりいっていったのよ。

女の武器をつかって画策しなくても、十分やって行けるほど大和の国に地盤を確立

したの。最後に切り捨てられたのが玉藻の前。鳥羽天皇の寵愛を一身に集めていた

彼女を嫉妬する女官の側に、わが部族の男たちが味方してしまった。同族のものに

排除された。悲劇よね」

     マチルダ
       
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秋の感傷/麻屋与志夫

2009-09-04 21:17:49 | Weblog
9月4日 金曜日

●ひさしぶりで、小説を離れて日常生活のブログです。


秋になりました。


いつもの年より秋のくるのが速いようです。


ホリゴタツの布団をとった天板のうえにPCを置いています。


裏庭では虫の声がします。


さびしい虫の声です。


●隣の座卓の上には乱雑に本がつみかさねてあります。


わたしはこうしたとりちらかした机の上のほうがおちつきます。


カミサンはそのうち棚を組み立ててこのキタナイ机上を整頓するとはりきっていま


す。チリ一つ落ちていても気になる潔癖症のカミサンです。


わたしのこの不潔極まりない部屋には、ほとほとあきれているのでしょう。


わたしにすればここはさいごの聖域です。


乱雑未整頓。


このほうが居心地がいいのですが、あまり逆らうとおかずがでてこないと困るの


で、すべてまかせてあります。


そのうち整然とした部屋と机辺をごらんいただけるとおもいます。


●このホリゴタツのある部屋では友だちや教え子とよく楽しい時間を過ごしまし


た。秋になるとむかしの友だちや教え子のことを思いながら一合の酒を時間をかけ


てここで飲みます。


静かな酒です。若山牧水の歌などを朗唱します。


だれも聞いている人はいません。さびしいものです。


それが、この境地がわたしがのぞんできたものなのだから、心は安らぎます。


孤独が身に沁みるくらいが疾風怒濤の青春を東京ですごしたわたしにはいいようで


す。


●数10分歩けば田園地帯に出ます。


里山ももちろんあります。


雑木林の落葉がそのうちはじまるでしょう。


田舎住まいがいちばんいきいきとしてくるこの季節、ことしはどうやらいつものと


しよりながく楽しめそうです。


ひさしぶりにヌーボロマンを書き出しました。


だれにもよんでもえらえるような作品ではありません。

それでも書く。性ですかね。


●青春を回顧して純文学の作品を書くなんて、やはり秋の感傷のなせるわざなので


しょうか。


 烏瓜
   

 アイスバーグ
   

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古戦場2/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-09-04 11:18:23 | Weblog
奥様はバンパイァ 45

「やるわね。オ狐さん。なんだかチャクラが吸い取られたみたい。これがあんたら

のフォースなんだね。体に力がはいらないぞぇ」

「あのとき、わが吸美のものがかけつけるのが今少し早ければ」

「どうかなっていたと思うのかぇ」

オババは虚空に渦巻く3D映像、那須野が原でバトルを繰り広げる人狼と狐の戦いを

みあげながら咆哮した。

狐の円陣の中心には黄金九尾の狐がいた。

だがわたしには、色白の女人にみえた。

もともと狐のアレゴリーを伝説化したのは古人の知恵だろう。

○オババのハウリングに呼応して隣室から作業服のおとこたちがどってなだれ込ん

できた。

「おおすぎるは!! どうするM」

「なんの。やつらの精気は全部すいとってやる」

古戦場に遅れて着いた失敗をここで一気に挽回する気だ。

人狼は襲いかかれないでいる。

カミサンの顔が青白く透けてくる。

「美智子。むりするな」

人狼は群れてくる。

だが何処かおかしい。

人狼はオババのほえ声に呼ばれたわけではなさそうだ。

だれかに追われている。

と思ったとき、警官と背広の男たちが追いついてきた。

「関東甲信越麻薬取締官だ」

「パパ」玲加に支えられたていた洋子が大声を上げた。




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古戦場/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-09-03 15:45:01 | Weblog
奥様はバンパイァ 44

○Mの叫びに刺激されたのか。

部屋の隅に飛ばされていた作業着の男たちの顔に銀毛が生えてきた。

もみあげが毛深いというていどの発毛だが、毛はまさに、狼の剛毛だ。

そして見よ。銀色に光っている。

男たちは這いつくばったままこちらに迫ってくる。

起きあがって二足歩行するのが億劫だ。

このままのほうが動きやすい。

そんな動きで近寄ってくる。

作業着のままだから、不気味だ。

○「正体をあらわしたわね。玲加!! 油断しないで」

「くるな。くればオババを撃つぞ」

わたしはMと玲加をかばって前にでた。

拳銃をかまえた。

銀の弾丸で消滅した仲間の情報は徹底いるらしい。

それとも銀の臭いを嗅ぎとったのか。

狼面に獣化したものたちはじりじりと後ずさりする。

玲加が洋子にかけよる。

オババがそうはさせじと玲加を遮る。

Mがオババに両手から気を浴びせる。

オババの体が壁までふきとばされた。

壁に激突して、バンとはねあがる。

床にたたきつけられた。

とはいかなかった。

虚空でトンボを切り床におりたった。

「やるわね。……やるねぇ」とオババ背を伸ばす。ゆっくりと首を一回転してい

る。

このふたりはわたしなどの知らない昔から魂が争ってきているのだ。

コンクリートのうちっぱなしの天井や壁面に影が揺らいでいる。

古戦場の狼と狐の戦いが入り乱れて映像化されている。

九尾族の怨念が広い空間に渦巻いている。

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サイコキネス/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-09-01 17:43:28 | Weblog
奥様はバンパイア 43

○Mがキレタ。

JIN-ROHと今風に表記してもじんろうは人狼だ。

なにか、でもこの部屋にいる人狼は犬飼のオババをいがいはローマ字のほうが似合

うようだ。

○くやしいがJIN-ROHという表現のほうがリアルだ。

太古の遷都を来年は奈良で祝うという。

陰陽師の活躍した時代から時が流れすぎた。

人狼による九尾族のホロコーストはとうのむかしに風化している。

先祖からの記憶がDNAに刻み込まれている。

わたしは忘れることができない。

怨念が、積年の恨みがこのわたしの細胞のひとつひとつに刻み込まれているのだ。


○オババの害意を吸収したMは、その害意に滅ぼされた九尾族の怨念をプラスして

敵にたたきつけた。

両手の平を前方に突きだしている。

オババだけは微動もしない。

作業服の男たちは、Mの念動力で壁にたたきつけられたまま動けないでいる。

○Mがキレタ。

攻撃に移った。

「若者どうしを結婚させる。なにをタワゴト。わたしはこの土地にある九尾族の悲

しみを悔しさを、決して忘れない」

○作業服の男たちが部屋の隅で立ちあかれないでいる。

○「美智子。麻の臭いをかいだので昂ぶっているのだ。押さえるんだ」

「いやよ。なんのためにこの化沼に生きてきたの。なんのためにこの化沼を守って

きたの。人狼の侵攻から守るためよ」

「もういい。市民は人狼の侵略にあっているとは気づいていない。来年になったら

わたしも一緒に神代寺にいく。あまり無理をしないでこのままでもいいではない

か」

「イヤアー」



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