田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

連載再開 奥様はvampire

2009-06-12 01:54:30 | Weblog
●先ずはいままでのストーリをお読みください


奥様はvampire 1


09、4月16日

○一本の座敷箒がある。

空間に横になっている。

いつでもひらりとお乗りください。

飛び立つ準備はできています。

そんな風情だ。

箒は鹿沼特産のものだ。

もちろん、箒が飛び立ちたくてもじもじしているのは、わたしの空想の世界でのこ

とだ。

「mimaは魔法使いだよね。自由が丘まで飛んできて」

孫娘の麻耶が三歳の時だ。

麻耶はオバアチャンのmimaをお友だちとおもっていた。

いまでもそうだが。

だが、麻耶はまちがっていた。mimaは魔法使いではなかった。

彼女は吸血鬼だったのだ。彼女はマインド・バンパイアなのだ。

●夕刻、雷鳴が轟き、雹がふった。

たった一人の塾生に英語の授業をしていた。

宣伝をしないので塾生は減る一方だ。

教えているわたしがGGになったのだからしかたないか。

これからは、小説を書いて生きていきたい。

●夕日の中の理沙子(2)はへんな終わり方をした。

終わったわけではありません。

これからpart3の準備に入る。

東京の大学に通う理沙子とコウジの恋の行方。

翔太とエレナの恋。

玲菜と翔太の関係は。

宇都宮にのこったキヨミと宝木。

まだまだ書きこみたいことはたくさんある。

●印のところは現在のわたしの生活に基づいたブログです。

○はフイクション。

筋のながれとはまったく関係のない断片が混入することもあります。

例えば夕日の中……に挿入したい文章が唐突に入ることもあります。

わたしのイメージの世界。

わたしの言語空間にあなたたちをご招待します。

●+○=すべてわたしの世界。

ということでしょうか。

GGワールドをお楽しみください。

奥様はvampire 2

4月17日 金曜日

●15日(水)のこと。

T歯科に行くので「荒針回り」のバスにのった。

JR鹿沼駅の手前で左折して停留所。

駅側がすっかり更地になっていた。

なにか建物でもできるのかな? 

と見ていると、カミサンはそんなわたしにはかまわず、すたすた歩きだしていた。

その彼女のグレイのカーディガンの背に赤い亀裂。

赤い裂傷は首筋にむかって伸びていく。

「動かないで。動かないでよ」低い声で前を行くカミサンの歩行を止める。

「ムカデがはっている。動かないでよ」百足の素早さ、刺された時の痛みをわたし

は身をもって経験している。

シャツの袖で、刺されないように注意しながらさっとカミサンの背中を薙ぐ。

百足をうまく舗道に落とすことができた。

見る間に、歩道の脇の草むらにもぐりこんでしまつた。

掌サイズの長さはあった。

巨大百足。

それをみてカミサンは恐怖に呆然と立ちすくんだ。

「どこで付いたのかしら」

●昨日。千手山公園。

いつもご紹介する「恋空」の観覧車があるので有名になった公園だ。

桜の後、つつじの真紅の群落がみごとだった。

仁王門を後にして石段を下りる。

カミサンが悲鳴をあげる。甲高い悲鳴。

「蛇踏んだ」なるほど一メートルはある蛇がつつじの根元に逃げていく。

このところ何かおかしいことばかり起きる。

●そして昨夜の時ならぬ雷鳴。雹。

これはなにかのomenなのだろうか。

いいことの起きる前知らせだといいのだが。

奥様はvampire 3

○それは、長いこと孤独だった。

もう耐えられないほど長い歳月を北関東の小さな田舎町で過ごしてきた。

町は人口四万ほどのほんとうに小さな町だった。

町の名は「化沼」といった。

でもだれも正確に「あだしぬま」と読めなかった。

読めたとしても自嘲をこめて「ばけぬま」という人がおおかった。

妖怪の話にはことかかない町だ。

youkaiと表現できるような現代性のある怪談はない。

……が、街の至る所に精霊が住んでいるようだった。

街の至る所に「玉藻の前」の、九尾の狐の伝説が残っていた。

わたしはこの故郷にかれこれ50年ほど前に帰省した。

父が病に倒れたためだった。

母はすでに患っていた。

そのものは長い孤独から目覚めようとしていた。

そしてわたしと出会った。

わたしも一目で、彼女を好きになった。

○あれからまさに50年。都の身振りも話し方もすっかり忘れてしまった。

「ギャップ」の店員が店の傍らのベンチでPCを打っていたわたしのところに駆け寄

ってきた。

「ほんとに、おくさんシルバーパスを貰えるお年なんですか? 失礼ですが70歳に

なるのですか??」

「まちがいありませんよ」

「信じられない。みんなでカケをしたのです。本当だったらあのひとたちがお給料

からおくさまの買物の肩代わりをするって」

買いものは細めのジーンズたろうからたいした負担にはなるまい。

彼女は店内からこちらを注視している仲間にガツッポーズを送った。

「若さの秘訣はなんですか」

「ああ、うちの奥さんは吸血鬼なんですよ」

「エエエエ!!!!!!!!!!!!」

「いやね、わたしのカミサンは紫外線にあたらないのです。冬でもパラソルを使い

ます。だいいち昼の間はあまりであるきません」

「紫外線にあたらない。参考になりましたわ」

わたしが、先に言った「吸血鬼」なんて言葉は全く信じてはいない。

初めの言葉ではカラカワレタ。ジョークをとばされた。

後の言葉が真実を語っている。そう思っている顔だ。 

店員は頭をさげて、うれしそうに、店にもどっていった。

mimaこと、わたしのカミサンが店から紙袋を提げてでてくる。

「彼女は吸血鬼なのですよ」

そう、シラッと言えるようになるまでに。

50年の時の経緯があったことなど店員は知るまい。

○mimaは出会った時のままの美貌に、微笑をうかべてわたしに近寄ってくる。

奥様はvampire 4

○つきあいはじめてまもない頃、打ち明けられた。

「わたしは人間ではあるけど、人間のカテゴリイには、入らないかもしれないの」

「それでもいい。なんでもいい。結婚しよう」

うそだぁ。わたしのような男が、こんな美人と結婚できるわけがない。

「ほんとにいいのね。ほんとに、ほんとにいいのね」

「ああ、いい。いいよ。はやく結婚しょう」

つまりおそらくだれの場合でも同じなのだろう。

むかしからいわれてきた「結婚は人生の墓場」ということの真の意味をしらずに結

婚して、それを認知せずに死んでいったものは幸いななり。

それをしてしまって、それでも幸せに暮らせたものは、さらにさらに幸せな賢者な

のだ。

○「mima!! それって、すごいと思うよ。mimaってどんどん若くなっていくみた

い」

孫娘の麻耶がいった。

お化粧しているカミサンの後ろで鏡を覗き込んでいた。

三歳の時のことだ。

○愛とはHすること。

Hのない愛なんて「クリープのないコーヒーみたい」なものだぁ。

とわたし的には考える。

「わたしはね、麻耶。子どもをつくるときしかHしなかったの」

「それって、すごい……」

12歳なった孫に話すことではないと思ったのは、わたしだけだった。

孫からは完全理解の回答が戻ってきた。「それって、すごいと思うよ」

普通の人間は愛していればHする。

Hして。Hして。HHHHHHHHHHHHHHHHHして赤ちゃんが生まれる。

わたしは新婚初夜に子どもが欲しい時だけ……。

といわれて仰天した。

逃げるのなら今だ。

○孫の麻耶はごく普通の女の子には育たなかった。

現在完了進行形。

では……今をときめく女流作家。

それでいてT大学医学部の新入生。

これでマスコミが騒がない方がおかしい。

○「父に会いに行きたいの」

心臓が止まるほどわたしはおどろいた。

この50年というものカミサンに家族がいるなどとはきいたこともなかった。

彼女は戦災孤児だと思っていた。東京は渋谷初台の生まれだとは聞いていた。

○「50年。……だけ許されていたの。あなたとはその歳月だけ一緒にいる許可がで

てたの。いままで……それをいわずにほんとうにごめんなさい」

○永遠に生きられる種族にとっては――彼女にとっては、わたしとの50年の結婚生

活はほんの一瞬だったのかもしれない。あと一年来年薔薇が咲くころには彼女はわ

たしから離れていかなければならないらしい。

悲しいことだ。胸が張り裂けるようだ。

○カミサンの父は、神代薔薇園の園長をしていた。

これは一族のものには、既知のことだいう。

わたしは部外者だったのでしらされていなかつたのだ。

○あたりは馥郁たる薔薇の芳香に満ちていた。

いうまでもないことだが、義父はわたしよりも若かった。

○「あまり娘が嘆くので、長老会であと一年だけ延期してくれた」

「おとうさん。ありがとう」

カミサンは真珠の涙をこぼした。

カミサンが泣いたのは、子どもたちを出産したときだけだった。

○帰路。麻耶の「やがて青空」の出版記念イベントにでた。

麻耶の紹介でわたしの「孫に引かれて文壇デビュー」も売り上げを伸ばしている。

でも麻耶の人気にあやかっての売れ行きなのだ。

孫に引かれてを「孫に引かれて善光寺詣り」のモジリと理解してくれるヤングは少

ないはずだ。

○「いまこの会場に、麻耶さんのGPがおいでになっています。一言どうぞ」

司会者にふいにマイクをわたされた。

○わたしはこのブログでフイクションを書いていることを告白しそうになった。

わたしをみつめるカミサンの目が赤くひかったのでおどろいてやめた。

○いま書いていることがはたしてフイクションなのだろうか。

●印のある部分の記述はまちがいなく神に誓って事実だが――○で書くことが曖昧

になってきた。

事実と虚実の隔たりが短縮され混然としてきた。

わたしにはなにも分からなくなってきた。

カミサンとはあと一年といいわたされて気がおかしくなったのだ。

いやボケチャカボケチャカボケチャッチャツタ。

ということかもしれない。

○あと一年しかカミサンと一緒にいられないなんて……正気でいられるはずがな

い。

4月20日 月曜日

奥様はvampire 5

○「sconeは」

「あっ、忘れた!!」

バスのなかに響きをわたる声。

甲高いmimaの声が回りのひとをおどろかせた。

いっせいに乗客の視線がmimaに注がれる。

「スコーンとどけるためにでかけてきたのだよな」

わたしはscornfulにならないように最善の注意をはらってmimaの耳元で囁く。

二人で途中下車。

「また出直してこようよ」

「だってスコーンは温かなほうが美味しいもの」

停車場坂を小走りに彼女の姿は消えていった。

駅前のブックオフで時間を過した。

20分ほど待った。

なにげなくポケットに手をやった。

チリンと鈴の音、しまったキーを

渡さなかった。

あのとき、最善の注意をはらった。

侮蔑しているようにとられないように冷静に話しかけておいてよかった。

でないと逆襲をうけた。

「物忘れのひどいのはおたがいさまね」

にやりと、邪険な笑みで応酬されたはずだ。

童女のような顔に邪険な微笑みは似合わない。

わたしはあわてて家にむかった。

いまごろどうしているだろうか。

手帳に妻の携帯のナンバーを記しておけばよかった。

なんたる不手際。

なんたる不運。

妻は家に入れずどうするだろうか。

引き返してくる。

わたしが戻ってくるまでと、のんびりと庭の薔薇に水をやっている。

バスにのって戻ってくることもあるだろう。

来た。バスが来た。ちょうど、府中橋の上で止まった。

交差点のシグナルが赤だ。

妻はのんびりとこちらに背中をみせてチョコナンと座席にすわっていた。

わたしはあせってバスの窓越しによびかけた。

「ミマ―」

だめだ。密閉されているので聞こえない。

窓の外からトントンと叩いた。

さすがに気づいた。おどろいている。

「なんども同じ道、行ったり来たりしては……ナンダが恥ずかしい」

「回り道して帰ろう」

彼女が忘れっぽいのはあまりに長いこと生きているからだ。

些細なことをいちいち覚えていたのでは頭がパンクしてしまうだろう。

わたしの元を離れたら、すぐにわたしのことなど忘れてしまうだろう。 

わたしのはボケの始まりではないか。

真剣に、真面目に徹底的に心配になってきた。
 
吸血鬼のカミサンをもつと笑いありスリルありで、楽しいったらありゃしない。

4月21日 火曜日

奥様はvampire 6

○もしかしたら幻覚なのかもしれない。

○もしかしたら錯覚なのかもしれない。

カミサンが若やいで見える。

……わたしの願望からくる幻覚なのかもしれない。

錯覚なのかもしれない。

○「あの一作だけで書くのは止めるの」

彼女のいう一作というのは「孫に引かれて文壇デビュー」のことだ。

麻耶の人気のおかげで出版された。

ほどほどに売れている。

いくらけしかけられても、干からびた頭には新たな作品のイメージが浮かばない。

○「それよりまた薔薇園に行きたいな」

「わたしに気をつかわなくていいから。ねえ、どうなの? 書いてみてよ」

さわやかな五月の薫風が黒川べりの遊歩道をふきぬけていく。

ひんやりとした風が頬に心地よい。

これから作品を書くとしたら、なにをどう書けばいいというのだ。

○不景気のため「巣ごもり消費」などとう言葉がテレビで話題になっていた。

かんがえてみると、わたしたちは「巣ごもり夫婦」だったのかもしれない。

○「そのことは思い出さないほうがいいわ」

カミサンに心を読まれている。やはり錯覚なんかではない。mimaはヤッパ麻耶がい

ったように、魔女なのかもしれない。いや、魔女も、マインドバンパイアも同一の

種族なのだろう。

○「そうよ」とカミサンはけろっとしていう。

「あなたのことはいつまでも忘れないから」別れてしまえば、長い彼女の歴史の中

でわたしとのことなどほんの一瞬のこと。

忘れられてしまうだろう。

昨日わたしがかんがえていたことへの回答だった。

○「うれしいこといつてくれる」

わたしは涙ぐんでいた。

○「けっして忘れないから」

○わたしたちは会話に没頭していた。

向こうから肥満女が急速接近してきた。

太っているのにすごく速く歩いている。

どんとカミサンにつきあたった。

なんの抵抗もなく通り過ぎていく。

カミサンが一瞬消えたようだった。

いや、あの女にはカミサンが目にいらなかったのだ。

他の人には、最近の彼女が見えない。

戦慄が背筋をはしった。

○「そんなことはないわ。よけたのよ。こんなふうに」

確かに、彼女がこんどはよこに飛び退るのがみえた。

○若さがなければだめ。

売れる見込みがなければ相手にされない。

これからなにを書けばいいのだ。

わたしは立ちどまっていた。

風が心地よい。まだ生きている。

まだなにか書けるかもしれない。

彼女が消えるまでに、この一年で新作を発表したいものだ。

それには彼女とすごしたこの半世紀のことを書く。

それしかないだろう。

○五月風がふいている。河川敷の新緑が風に揺れていた。





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