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からだじゅう癌細胞に侵され、苦痛のうめき声をあげいる時いがいは、衰弱した父は嗜眠状態がながくつづくことがあった。そのときだけは喉からしぼりだすような苦しみの声をきかなくてすんだ。
父の看病をしている長姉と妻とぼくは、おたがいの存在をたしかめあうように、声をひくめてはなしあう習慣だった。
姉は街の西のはずれに嫁いでいた。
毎日のように、自転車で通ってきて父の看病をしてくれた。
眠っているのに、父は目尻をぴくぴくさせて、唇をこきざみに痙攣させよくウナサレテイタ。
悪い夢をみていたのか。
苦しかったのだろう。
看病とは父の苦しみをながびかせることなのか――。涙が深い皺のくぼみを伝っていた。
始まりは、一滴の血のしたたりだった。
純白の便座に蘇芳色の血がぽつんとこびりついていた。
その一滴の血がぼくらの生活をかえてはしまった。父の病気は末期癌。直腸を患っていた。それでなくても、母が十年も寝ていた。なんども糖尿昏睡におちいっていた。
病の両親をかかえて、ぼくは過労のはてに、失語の檻の囚人となり、増殖するはずの言葉が、日々失われていのをどうしょうもなかった。
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その一滴の血がぼくらの生活をかえてはしまった。父の病気は末期癌。直腸を患っていた。それでなくても、母が十年も寝ていた。なんども糖尿昏睡におちいっていた。
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