5月6日 火曜日
吸血鬼/浜辺の少女 28 (小説)
夏子の悲哀ともシンクロしている。
『よくもどってきてくれたわ』
という、鹿未来の思念もキャッチした。
夏子は故郷の<鹿沼土>が恋しい。だけで、もどってきたのではなかった。
『なにか起きそうなの。わたしたち大夜=大谷の一族になにか起きそうなの。ラミヤもどってきて。帰って来て。永久追放なんて、気にしないで鹿沼にもどってきて』
一族の存亡にかかわるようなこと。
とんでもないことが起きそうな予感。
だがそれが、どんな型で現れるのか。
危険な予知が棺の中の鹿未来には感じられた。
一族の命運をも……決めかねないことだ。
鹿人がこれからやろうとしていることは。
それがなんであるかはわからない。
鹿未来は悲しいかな棺の中。
夫殺しという罪状がなければ一族の女長の地位にいる鹿未来だ。
罪状認否もなしに仮死状態におとされて棺の中。それでも一族のことは心配だ。鹿人もラミヤも可愛い子どもたちだ。一族のことも気にかかる。干からびた仮死の体からラミヤにSOSを発信した。
愛娘ラミヤはその吸血鬼通信に応えてこうしてもどってきた。
隼人の血をすわせることで鹿未来を蘇生させた。
「この場はひきましょう」
「させるか」
鹿人と夏子の体が中空で交差した。
青白い炎が飛び散った。
「姫!」
雨野の声がひびいた。
「ジイ。ブジダッタノネ」
拘束を断ち切って自由の身となったのか。
リリスに助けられたのか。雨野は鹿人の背後にふいに立体化した。鹿人の腕の動きを封じた。
「レンフイルドが。従者が主人である吸血鬼に逆らうのか」
鹿人が苦鳴を上げた。夏子の黒髪で喉を締められている。
「鹿人も夏子もやめなさい」
鹿未来が母の威厳で静かにたしなめる。
始祖の黒く偉大な影は動かない。
吸血鬼の祖である影は微動だにしない。
それがひさしぶりで会った孫娘への愛か。
隼人は争いの渦の外にいる。
隼人も正眼に魔倒丸をかまえたまま動かない。
夏子をおそおうとする鹿人の配下を牽制している。
魔族は破邪の力を秘めた剣気に打たれている。
それ以上近づけない。シャシャという悪臭を吐きながら包囲網を絞ろうとしている。隼人を威嚇する。
隼人には吸血鬼を切る意思はない。隼人には吸血鬼とそのRFを切り殺すつもりはない。
こちらから切りこんで吸血鬼とRFを葬る気はない。そんなことをすれば、争いに火をつけるようなものだ。
「鹿人。あなたは幼少のころから妹をいびってきた。どうしてなの? どうして夏子を憎むの」
「蘇ったからって、おれはあんたを母として、みとめないから」
吸血鬼/浜辺の少女 28 (小説)
夏子の悲哀ともシンクロしている。
『よくもどってきてくれたわ』
という、鹿未来の思念もキャッチした。
夏子は故郷の<鹿沼土>が恋しい。だけで、もどってきたのではなかった。
『なにか起きそうなの。わたしたち大夜=大谷の一族になにか起きそうなの。ラミヤもどってきて。帰って来て。永久追放なんて、気にしないで鹿沼にもどってきて』
一族の存亡にかかわるようなこと。
とんでもないことが起きそうな予感。
だがそれが、どんな型で現れるのか。
危険な予知が棺の中の鹿未来には感じられた。
一族の命運をも……決めかねないことだ。
鹿人がこれからやろうとしていることは。
それがなんであるかはわからない。
鹿未来は悲しいかな棺の中。
夫殺しという罪状がなければ一族の女長の地位にいる鹿未来だ。
罪状認否もなしに仮死状態におとされて棺の中。それでも一族のことは心配だ。鹿人もラミヤも可愛い子どもたちだ。一族のことも気にかかる。干からびた仮死の体からラミヤにSOSを発信した。
愛娘ラミヤはその吸血鬼通信に応えてこうしてもどってきた。
隼人の血をすわせることで鹿未来を蘇生させた。
「この場はひきましょう」
「させるか」
鹿人と夏子の体が中空で交差した。
青白い炎が飛び散った。
「姫!」
雨野の声がひびいた。
「ジイ。ブジダッタノネ」
拘束を断ち切って自由の身となったのか。
リリスに助けられたのか。雨野は鹿人の背後にふいに立体化した。鹿人の腕の動きを封じた。
「レンフイルドが。従者が主人である吸血鬼に逆らうのか」
鹿人が苦鳴を上げた。夏子の黒髪で喉を締められている。
「鹿人も夏子もやめなさい」
鹿未来が母の威厳で静かにたしなめる。
始祖の黒く偉大な影は動かない。
吸血鬼の祖である影は微動だにしない。
それがひさしぶりで会った孫娘への愛か。
隼人は争いの渦の外にいる。
隼人も正眼に魔倒丸をかまえたまま動かない。
夏子をおそおうとする鹿人の配下を牽制している。
魔族は破邪の力を秘めた剣気に打たれている。
それ以上近づけない。シャシャという悪臭を吐きながら包囲網を絞ろうとしている。隼人を威嚇する。
隼人には吸血鬼を切る意思はない。隼人には吸血鬼とそのRFを切り殺すつもりはない。
こちらから切りこんで吸血鬼とRFを葬る気はない。そんなことをすれば、争いに火をつけるようなものだ。
「鹿人。あなたは幼少のころから妹をいびってきた。どうしてなの? どうして夏子を憎むの」
「蘇ったからって、おれはあんたを母として、みとめないから」
吸血鬼の話はだいすきなので、ヤフーのブログにも書いています。
そちらも是非読んでください。
麻屋与志夫/小説 吸血鬼ハンター美少女彩音です。