〈 第3章 叔父・西村正雄 〉・・ ( 西村氏の遺言 )
・私が初めて西村の執務室で会ったのは平成18年6月初旬だったが、その後何度となく会っていた矢先の、同年8月1日西村は心不全で急逝した。73才だった。
・最後に西村と会ったのは、亡くなる4日前のことだ。手元にある取材メモから、西村が安倍晋三に何を伝えたかったかを、出来る限り再現したい。
「ねこ庭」では、西村氏の意見を財界のリーダーとして相応しくないと考えていますが、松田氏は高く評価しています。
・西村のいわば遺言というべきものだが、元総理の安倍晋三の政治姿勢に対して、いささかも色褪せていない言葉の数々だ。
他人を褒めるのは酷評するのと同じくらい難しいと、言われますがその通りです。馬鹿な人間を褒めると、褒めた当人の馬鹿を晒すことになります。「ねこ庭」のブログを14年間書いて、やっとこのことに気づきました。
「ねこ庭の独り言」を冊子にして、息子たちに残したい・・・自分の意見が自己満足の産物でしかないと分かって以来、そんな思いが消えました。むしろ「ねこ庭の独り言」は、私と共にハイさようならが相応しいのです。松田氏にも伝えたいと思いながら、以下氏の説明を紹介します。
〈 西村氏の遺言 〉・・・松田氏の取材メモより
・晋三は、小泉総理の靖国神社参拝を巡り、小泉総理と同様に「心の問題だ」と言う理屈を持ち出しているが、靖国神社参拝は「心の問題」ではない。
・歴史的事実の問題だ。一銭五厘の赤紙 ( 召集令状 ) 一枚で、強制的に徴兵されて戦死した兵士と、戦争を主導したA級戦犯の職業軍人らが合祀されている靖国神社への参拝が、アジアだけでなく国際的にも、「心の問題だ」と言う方便が通用しないと言うことが、晋三には全く分かっていない。
・戦死だけではない。南方では餓死が待っていた。軍部は負けると分かっていながら、兵士を投入し大量の犠牲者を出した。
・昭和6年 ( 満州事変 ) 以降は侵略戦争だ。あの戦争で他国を侵略し、無差別に民間人を殺した。その事実を消すことはできない。
・平成18年8月15日に小泉総理は談話を出し、侵略戦争を認めているではないか。
「小泉談話」・・我が国は、かって植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して、多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて適切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明する。
・晋三はあの侵略戦争が分かっていない。
・晋三は靖国神社参拝へのアジア諸国の反発に対し、「心の問題」と言うが、犠牲者が300万人だろうが1人だろうが、侵略は侵略だ。
・歴史的事実を踏まえて、けじめをつけなくてならない。
歴史的事実を踏まえてと言うのなら、たかだか83年前の大東亜戦争からでなく、欧米列強がアジアを侵略した「東亜百年戦争」を語る必要があります。古くはスペイン・ポルトガルによる南米侵略から、イギリス、フランス、オランダによるインドを始めとするアジア諸国の武力侵略が出発点です。
鎖国をしていても、海外情勢を知っていた日本の将軍や上級武士・学者たちは、欧米列強の侵略からいかに日本を守るかに腐心し、危機感と恐怖心を抱いていた歴史を語らずして先の大戦は説明できません。
少なくとも江戸末期の170年前にペリーが軍船で訪れ、力づくで開国を迫り、不平等条約を結ばせた時からの歴史を語るべきでしょう。
犠牲者が300万人だろうが1人だろうが、侵略は侵略だと、言葉の勢いで喋っているのだと思いますが、数字に几帳面な銀行家にしては乱暴な意見です。300万人の犠牲者を出せば侵略でしょうが、1人の犠牲者では侵略になりません。
靖国参拝にアジア諸国が反対すると氏は言いますが、反対しているのは中国、韓国、北朝鮮の3国で、他の国々は何も騒いでいません。神社に政治家が参拝するかしないかは、それこそ中国が言うように「内政干渉をするな」の一言で済みます。
済まないようにしているのは、西村氏のような有力者が「東京裁判史観」を鵜呑みにし、「日本がアジア諸国を侵略した」と国内で騒ぐため、中・韓・北の3国につけ入る口実を与えているからでしょう。
「晋三はあの侵略戦争が分かっていない」と言う前に、ご自分が「東亜百年戦争」の歴史と事実を分かっているのですかと問いたくなります。
・終戦の年、広島、長崎に原爆が投下され、何十万人もの民間人が死んだ。
・沖縄では「姫百合の塔」に象徴されるように、年端もいかない数多くの女学生が自害した。まさに狂気の戦争だった。
左翼系の学者が言うように、西村氏もこんなことまで政府と軍の責任にしますが、アメリカには次のような意見を言う団体があります。
「破滅寸前の日本が何度も和平を打診して来たのに、ルーズベルトはそれを無視した。」
「何もしなくても降伏するしかない日本だったのに、トルーマンは日本に原爆を投下した。広島だけで十分なのに、長崎にまで落とした。原爆の実験を兼ねていたからだ。」
千葉の片隅の年金生活者の私でも知っている事実を、一流銀行のトップが知らないとしたら、知的な怠慢ではないでしょうか。原爆による広島の死者は20万人、長崎の死者14万人、B29による無差別本土爆撃による死者33万人ですが、文字通り女性や子供を含む民間人虐殺です。これこそアメリカによる「戦争犯罪」ですが、西村氏は目を向けません。
「まさに狂気の戦争だった」と言う言葉は、東京裁判で一方的に日本を裁いたアメリカにこそ言うべきでしょう。しかし氏の日本批判はまだ続きます。こうなりますと松田氏が紹介する氏の「遺言」は、「ねこ庭」で読むと「まさに狂気の遺言」となり兼ねません。西村氏のためには著作で紹介せず、「メモ」のまま机の引き出しに仕舞っておけば良かったのではないでしょうか。
とばっちりが私にも来て、今回も最終回にできませんでした。心の広い愛国者の方だけ、次回へお越しください。