ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『日本史の真髄』 - 120 ( 源為朝 ( ためとも )の参戦 )

2023-06-20 13:10:42 | 徒然の記

 〈  第二十一闋 朱器臺盤 ( しゅきだいばん )  「保元の乱」の複雑な内幕  〉

 驕慢とわがままの度が高じていく頼長に、いやになられた鳥羽法皇は近衛天皇がなくなった時、皇位継承を美福門院と忠道だけに相談し、忠実・頼長親子を関与させられなかった、と言うのが前回の解説でした。

 後白河天皇が即位され、後の二条天皇が皇太子になられたのですが、この皇位継承について強い不満を持たれているのが崇徳上皇でした。

 「忠実・頼長の不満は言うまでもない。それで実力者である鳥羽法皇が亡くなられると、崇徳上皇は実力による政権奪取を考える。頼長もこれに賛成する。鳥羽法皇がなくなって、わずか七日目のことである。皇室内の不平分子と、藤原氏内の不平分子が手を握り、武家の力を借りて皇位を狙ったのである。これが保元の乱の発端である。」

 渡辺氏はこのように解説しますが、皇統を複雑なものにした大本は、「月に欠ける無し」と言った藤原道長の「後宮政策」です。狂った歯車の動きが誰にも止められなくなり、ここで初めて頼山陽の詩が紹介されます。

 「このことを頼山陽は、次の五行で言う。」

  君 ( 藤原忠真 ) の朱塗の食器・食卓のことだが、

  それは君の家の相続財産なのだから、あの子 ( 忠道 ) から取り上げ、この子 ( 頼長 ) にやるのになんの難しいことがあろう

  しかし同じ食器といっても鼎や大鼎のことになると、どうしても安定し難いことが出てくるのである

  次男頼長は鼎の盛り物をひっくり返したような、長男忠通は吸い物をひっくり返したような騒ぎになる

  大鍋が沸き立ち、日本中が狂瀾怒濤のような具合になってしまった

 頼山陽の詩の説明は徳岡氏の〈大意〉でなく、渡辺氏の意訳ですが、いずれも悪文でないかと思えるほど、詩の体裁をしていません。頼山陽の八行の詩が、『保元物語』3巻分を凝縮しているというのでは、土台無理な話かもしれません。詳しい背景説明をされやっとその意味が掴めるのですから、詩を味わう境地には程遠いものがあります。

 と言うより、そもそもこの詩は味わうものでなく、摂関政治の錯綜した有様を知るめの文献なのかもしれません。八行の詩の五行までは、意味がなんとなく分かりましたが、残る三行のためにはさらに氏の解説が必要となります。文章をやめ、項目に分けて紹介します。

 ・鳥羽天皇は譲位されて34年間生きておられたが、はじめのうちは白河法皇が実権者であった

 ・白川法皇の亡き後の28年間を、絶対の権力者として院政を行なってこられた

 ・内大臣・藤原実能 ( さねよし ) は、鳥羽法皇なき後崇徳上皇が武力による復位の恐れがあるとして、鳥羽上皇へ備えを進言していた

 ・鳥羽上皇も同じ心配をしておられ、北面の武士10名を選び、美福門院得子 ( なりこ ) に忠誠を誓わせた

 ・源義朝 ( よしとも ) が、そのリストの第一番目であった

 ・崇徳上皇の乱が起こった時、この10名はすべて美福門院、つまり後白河天皇の側についた

 ・このとき、平清盛を召したのは美福門院の案であった

 氏の解説を読みますと、崇徳上皇の乱の兆しは常にあったことがわかります。平清盛の名前が、ここで初めて出て、平安時代末期の複雑な人間模様が具体的に語られます。

 「崇徳上皇と頼長は、源義朝 ( よしとも ) の父である源為義 ( ためよし ) と、その子鎮西八郎為朝 ( ためとも ) に頼った。為義ははじめ、崇徳上皇と頼長側の招きに応じようとしなかった。自分はもう年を取り軍事にうとくなっており、軍事に優れた長男の義朝がすでに後白河天皇の側についている。自分の出る幕はないと思ったのである。

 しかし無理に頼まれ、為義は子の為朝とともに崇徳側に着くことになっと言いいます。渡辺氏が為朝について説明していますので、紹介します。

 ・為朝は子供の頃からあまり乱暴だったので、13才の時九州へ追われていた

 ・15才の時、九州のほぼ全土を征服したという豪傑中の豪傑である

 ・自分の非行のため、父の為義が官位を解かれたと聞き、わずか28名の家臣を連れて上京していた 

 早速崇徳・頼長側の軍議が開かれ、この席で為朝は次のように発言しました。

 「私の敵になるのは兄の義朝だけですが、これは私の一矢でしとめます。清盛のごときは、私の鎧に触れただけですっ飛びます。」

 「何より大事なことは、直ちに夜襲をかけることです。」

 しかし頼長が、彼の提案を退けたそうです。武家の戦いを知らない頼長の判断が、勝敗の分かれ目となるのですが、スペースが無くなりましたので続きは次回といたします。

コメント (2)
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