写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

苞 落

2006年04月18日 | 季節・自然・植物
 春の長雨も一段落。桜に熱狂した人間どもも、やっと普段の落ち着きを取り戻し始める頃となった。
 
 毎日パソコンの前に座り、出窓越しに、我が家自慢の紅白の花水木の様子を窺っている。

 10日くらい前から、苞(ほう)がわずかに割れ始め、包まれている小さなねぎ坊主のような花が、顔をのぞかせているのを知っていた。

 これを書いている今現在、2分咲きといったところだろうか。昨年の満開は、26日と記している。

 枝振りを眺めていて、気になることがあった。数本の細い枝先が枯れていて、蕾も何も付けていない。

 花水木を眺めるたびに、その枯れ枝の方に目が行く。今日は天気もいい。よし、枯れ枝を切り落としてやろうと、長鋏をもって庭に出た。

 5mの高さに伸びた木によじ登った。少年時代の木登りを思い出しながら、太い枝に手をかけて登っていった。

 木から車庫の屋根に移動し、腰を折った状態で枯れ枝を見極めながら剪定する。体の向きを変えようとしたとき、セーターの背中に小枝が引っかかるのを感じた。

 はずして振り向いてみると、屋根の上に、やっと苞が開いたばかりの花が3個落ちていた。悪いことをしてしまった。

 長い間準備して、あと10日もすれば最高のときを迎えるはずであった花は、私のせいで短い命を閉じてしまった。

 罪滅ぼしのつもりで部屋に持ち帰り、きれいな水を張った小皿に乗せてみた。

 浅緋色の4枚の苞の中には、20数個の苔色をした、花には見えない粒状のものが、恨めしげに私のほうを向いていた。

 明日の朝は、どうなっているのだろう。志半ばで落とされた花を、最後までしっかりと見てやらなければと思っている。

 年に1度は、花水木の苞のことを書きたくなる。花よりも、苞のほうが目立つ花も珍しい。一生懸命咲いているのに、誤解されやすい花だ。

 現役時代、私もそうだったかもしれない。そんなことは忘れ、今の私はただ「ほう~、きれいだ……」と見とれるばかりである。
  (写真は、過失で落としてしまった「花水木」)