写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

しろうお

2005年02月20日 | 季節・自然・植物
 連日降っていた雨が、昼を過ぎてようやくやんだ。雨量は少ないがもういいと言う程何日も降り続けた。

 気晴らしに夕方買い物に出かけての帰り道、今津川沿いの四手網のやぐらにに人が立っているのを見つけた。

 70前の赤ら顔をした小柄な男が、熱心に川面を見詰めている。頼んでやぐらに上がらせてもらった。

 「今年は全然数が少ない。魚が上ってこん。やぐらを作り直すのに金をかけたが、さっぱりじゃ」と、初対面の私にまず嘆きの言葉だった。
   
 満ち潮だったが、しろうおの魚群は見えない。一回は網を上げたのだろう。水を満たしたバケツに、十数匹が元気にくるくる回って泳いでいる。

 「よう見てみい。卵を持っとらんじゃろう。まだ時期が早いんじゃ」とバケツを指差し、自らを納得させるように話す。

 昔に比べても、昨年に比べても漁が少ないと言う。「3月に入りゃ上がってくる」と、期待を込めたように男は言った。

 十数匹の水揚げでは、分けてくださいとも言えず、「寒いから風邪を引かないように」と言ってやぐらを後にした。

 地元に住んでいながら、初めて四手網のやぐらに上がってみた。狭い台から見る川の水は、透明なしろうおのように透き通って静かに満ちていった。
 (写真は、平家山より遠く今津川を臨む)