写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

最後の晩餐

2005年02月06日 | 食事・食べ物・飲み物
 毎年夫婦そろって人間ドックに入っている。昨年のことだった。妻の内臓に異常らしきものが見られるので、精密検査を受けるようにとの検査結果が送られてきた。

 精密検査を受ける日まで、日夜陰鬱な時を過ごした。妻は、悪いように悪いように考え、身の回りの整理もし始めた。

 翌日が検査となった夜、食事に出かけた。気疲れで食欲の無い私を尻目に、妻は「最後の晩餐だから」と言い大好きなステーキを、しかもその店で一番高いものを注文した。

 妻の食欲はすさまじく、あっという間に全部食べ終えた。どこが悪いのだろうと思うくらいの食欲であった。

 翌日朝早く病院へ連れて行った。駐車場で新聞を読みながら検査が終わるのを待った。穏やかな小春日和、雲もなく抜けるような青い空、そんな天気が恨めしく憎くさえ思えた。

 12時のサイレンがなった。まだ出てこない。何かあったのだろうか。1時前にやっと出てきた。指でOKサインを出し笑いながら近づいて来た。

そのまま車を飛ばしてイタメシ屋に行き、豪華なランチを注文した。 とんだ見立て違いのお陰で、何日間も心痛し散財もしたが、分かったことは、「人間、食欲のあるうちは元気だ」ということである。
   (写真は、ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」)
(2005.11.18毎日新聞「はがき随筆」掲載文)