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『漂泊の魂:クヌルプ』(読書メモ)

ヘルマン・ヘッセ(相良守峯訳)『漂泊の魂:クヌルプ』(岩波文庫)

頭が良く、容姿も優れ、身だしなみも洗練されているクヌルプ。にもかかわらず、定職にもつかず、ぶらぶらと知り合いの家を渡り歩く生活を続ける彼に、友人は言う。

「そうだ、クヌルプという男はあれでいいんだ。彼は自分の性質どおりに振る舞い、だれもかれのまねをすることはできないのだ。すべての人に子供のように話しかけては気に入られ、娘や人妻たちに美しい物語をして聞かせ、毎日をまるで日曜日のように思って暮らしている。それでいんだ」(p.29)

しかし、若いうちはそれでも良かったが、40歳を超えたころには浮浪者のようになり、肺病に侵され、死を待つ身になってしまう。

「なあ、君、君は今みたいな惨めな無宿者にならずとも、もっとちゃんとした人間になれたんだろうになあ」(p.116)

さすがのクヌルプも「自分の一生は意味がなかったのではないか」と後悔しだす。

本書のラストは、そんな彼が神と対話するのだが、なんと神様は「それがお前の生き方だ」とクヌルプを励ますのだ。

心理学者のエリクソンによれば、人生の最終段階における課題は「自我の統合(自分の人生を肯定的に受け入れること)」であるが、まさにクヌルプは、自我を統合できたことになる。

この本を通して「自分らしく生きる」ことについて考えさせられた。




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