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『オーケストラ・リハーサル』(映画メモ)

『オーケストラ・リハーサル』(1979年、フェデリコ・フェリーニ監督)

あるオーケストラがリハーサルをする模様をテレビ局が取材する、という設定の映画。

(たぶん)巨匠の指揮者は、容赦なくダメ出しするタイプで、演奏者を罵倒しまくりながらリハーサルを進める。それに対し、楽団員は文句たらたらで「民主的に進めろ」「労働者の権利を守れ」と真っ向から対立。

両者の関係が崩壊寸前のところで和解したかと思いきや…。ラストはなかなか良かった

この映画を観て思い出したのが、白洲正子さんの能の師匠である梅若実氏の教え方。教え方の下手な実氏と、教え方の上手い息子の六郎氏を比べて、白洲正子さんは次のように述べている。

「実さんは人に教えるにしても決して巧くない、筋道だった理論というものもない、ありったけの自分の持物を、そのまま未熟なものに性急に与えようとするところから、こちらは(それだけの力がないので)めちゃくちゃになり、先生の方は癇癪をおこしてしまう。そんな時六郎さんに解決を求めると、見事に割り切って説明して下さったものです。まことに重宝で完璧な先生であることは、新しいお弟子さん達がすぐ巧くなるのでも証明されますが、いまから考えてみると、そこから貰ったものは「技術」にすぎず、お能の美しさを私に教えたのは、やはり実さんの教え方のまずさであった」(『心に残る人々』講談社文芸文庫p.78)

この映画に出てくる指揮者も、梅若実氏のように、癇癪をおこしながらも「音楽の美しさ」を楽団員に伝えているのだ。

芸術の神髄を伝える際に大切なのは、「言葉」よりも「生の感情」なのではないか、と感じた。

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