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『ソクラテスの思い出』(読書メモ)

クセノフォン(相澤康隆訳)『ソクラテスの思い出』光文社古典新訳文庫

著作を残さなかったソクラテスがどのような人物で、どのような思想を持っていたのか、という問いは「ソクラテス問題」と呼ばれる(p. 349-350)。

その有力な証言が、弟子プラトンと、歴史家で軍人のクセノフォンだという。

神々を信じず、若者たちを堕落させた罪で死刑になったソクラテスだが、本書は「そんなことはない」ということを伝えようとて書かれたもの。

印象に残ったのは「神を信じる心」と「学び」の大切さ。

「ソクラテスは、人が言ったことも、行ったことも、ひそかに計画していることも、神々は何もかもご存じであり、あらゆるところに居合わせ、人間に関わりのある一切の事柄について人々にしるしを与えてくださる、と考えていたのだった」(p. 26)

そして大事なのは、神が命じたことを、全力で行い奉仕することである。

神々自身がお命じになるとおりに行うよりも、もっと立派に、もっと敬神的に神々を敬う方法がどうしてありえようか。ただし、手を抜いて己の力を下回るようなことは決してあってはならない。なぜなら、誰かがそのようにするときには、その人が神々を敬っていないことはどう見ても明らかなのだから。それゆえ、己の力を余すことなく神々を敬い、自信をもって、最大の恵みを期待することだ」(p. 289-290)

自分の力を発揮して、やるべきことをやることが神を敬う最善の方法ということになる。

本書を通してソクラテスが強調しているのが「学習と練習」の必要性。

「この世で徳と呼ばれるものは、すべて学習と練習によってますます大きくなるのだよ」(p. 147)

「生まれつきの性質がどうあれ、学習と練習によって勇気は増すと私は考える」(p. 217)

「求めずして何か欲しいものに行き当たることが幸運だと思うのに対して、何かを学習しかつ練習することによってうまくなし遂げることが成功だと考えるからだ」(p. 223-224)

「もっとも素質に恵まれ、魂の不屈さと手がけたことを成し遂げる力において抜きんでた人は、教育を受け、なすべきことを学べば、もっとも優秀でもっとも有益な人間になる」(p. 256)

ただし、忘れてはいけないのは「己を知る」ということ。

「己を知っている人々は、自分に向いていることを知っていて、自分にできることとできないことを見分ける」(p. 273)

まとめると、「神の導きにしたがい」「自分の力を知り」「学習や練習を怠らず」「全力で奉仕せよ」ということだろう。

「ソクラテス=ちょっと意地悪なオジサン」という印象を持っていたが、本書を読み、ポジティブなイメージに変わった。




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