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『大原孫三郎:善意と戦略の経営者』(読書メモ)

兼田麗子『大原孫三郎:善意と戦略の経営者』中公新書

クラレ、クラボウの創業者、大原孫三郎の評伝である。

「仕事を始めるときには、十人のうち二、三人が賛成するときに始めなければいけない。一人も賛成がないというのでは早すぎるが、十人のうち五人も賛成するようなときには、着手してもすでに手遅れだ、七人も八人も賛成するようならば、もうやらない方が良い」(p.62)と息子に語っていたという。

合意を重んじる日本企業には耳の痛い話である。

孫三郎は、企業家としてだけでなく、大原美術館、大原奨農会農業研究所、大原社会問題研究所、労働科学研究所などを設立した社会事業家としても有名だ。

しかし、孫三郎自身は社会事業家と呼ばれることを嫌っていたようだ。

「孫三郎は、一人ひとりの民衆の人間性を見る目と気配りを備えていたが、「何かを実行しようと思ったときに、算盤を持たずに着手したことはない」とも語っていた。また、社会事業家とみなされることを孫三郎は好まなかったという。孫三郎は、あくまでも経済性を追求する経済人の立場から、情と理を両立し、社会の中に共存共栄を実現しようと生涯にわたって尽力しつづけたのであった」(p.253)

情と理の両立」という考え方が響いた。

印象に残ったのは、大原奨学会。彼は、多くの有望な若者に奨学金を出し続け、人材を育成していた。そのコンセプトは「地下水づくり」である。

「地下水というものがある、雨が降ってそれが地下に落ちていればこそ、樹木や野菜、田んぼなどもみんなできるんである。ただ表面だけで流れておる川であったらそれはだめだ。かえって泥水になるより他にない。そのようなことはやめなければならない」(p.248)

これは企業の人材育成においても言えるのではないか。地下水を豊富にし、人材を育てることの大切さを感じた。
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