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『芥川龍之介』(読書メモ)

関口安義『芥川龍之介』岩波新書

大学生の頃に書いた「鼻」が夏目漱石に激賞されたことをきっかけに、華々しく文壇に登場した芥川龍之介は新進作家の仲間入りをした。その後、「芋粥」「蜘蛛の糸」「羅生門」「地獄変」などの作品を立て続けに出して注目を浴びる。

しかし、勤めを辞めて、専業作家になったとたんに、歯車が狂ってくる

女性とのトラブル、周囲からのやっかみや批判、親族の不幸が続き、作品にも一時の勢いがなくなっていく。苦しむ龍之介は不眠症になり、睡眠薬を常用するようになってしまった。

そしてついに自殺してしまうのだが、死の床の傍らに聖書があったことが悲しい。キリストに惹かれ、「西方の人」などキリストを主人公にした小説を書いていた龍之介であるが、薬漬けになった状況で、早く楽になりたかったのかもしれない。

本書を読み、芥川龍之介の人生を考えた際に思いおこされるのが、師匠である夏目漱石のアドバイスである。彼は、若い龍之介につぎのような手紙を送っている。

牛になる事はどうしても必要です。吾々はとかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです。僕のような老猾なものでも、只今牛と馬とつがつて孕(はら)める事ある相の子位な程度のものです。あせつては不可(いけま)せん。頭を悪くしては不可せん。根気づくでお出でなさい」(p.85-86)

このアドバイスは深い。

われわれは馬のように速く走りたがるが、それゆえに、自分を見失いがちである。

龍之介が牛になっていたら、後年どのような作品を書いたのだろうか。読んでみたい気がした。

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