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無我夢中と冷静さ

先日紹介した『オーケストラの職人たち』の中で、世界トップクラスのオーケストラであるウィーン・フィルハーモニーについて、おもしろいことが書いてあった。

ウィーン・フィルの本拠地はウィーン。そこでは、温かく見守ってくれる会員がいて、定期演奏会のときには、家族的な雰囲気の中で、楽団員はのびのびと演奏することができるという。いわば、サッカーでいう「ホーム」だ。

これに対し、ヨーロッパの他国に行くと状況は一変する。ヨーロッパ各国には一流のオーケストラが存在するため、他の国で演奏するときには、シビアに評価されるらしい。つまり「アウェイ」状態である。

指揮者の岩城さんが、ドイツのハンブルクで開かれたウィーン・フィルの演奏会を聴きにいったときのことを次のように振り返っている。

「さすがにハンブルクでは、客席の中に知り合いを見つけることなんかできないらしいから、コチコチではないけれど、真面目そのものの集団だった。プログラムの最後の「運命」では、あんなに無我夢中に”気が狂ったように”、われを忘れて演奏している彼らを見たことがなかった。演奏家は、オーケストラでも独奏者でも、本番である程度の冷静さを維持していないと、ときには目茶苦茶になってしまうものである。つまり、無我夢中と、冷静な客観性のバランスが、よい演奏の鍵を握る。」(p.233)

ウォームハートとクールヘッドの両方が大事であることはよく言われるが、岩城さんが言うように、「無我夢中」と「冷静さ」のどちらが欠けても、良い仕事ができないような気がする。

いかに自分をこの状態に持っていけるか。良い仕事をするポイントがそこにあるような気がした。

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