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『笛吹川』(読書メモ)

深沢七郎『笛吹川』講談社文芸文庫

『楢山節考』で有名な深沢七郎の小説である。異様な迫力に圧倒された。

時代は武田信玄・勝頼が活躍した戦国時代。武田家の領内を流れる笛吹川のほとりにある、ギッチョン籠(かご)と呼ばれるアバラ屋に住む農民たちが主人公。

この当時は、農民であってもお屋形様(殿様)のいくさで活躍すると武士にとり立てられる可能性があった時代である。だから、出世したい若者は戦に行く。

ギッチョン籠の息子たちもいくさに参加するが、武田家の没落とともに殺されてしまう。裕福な商家に嫁いだ娘も、一時は羽振りがよいが、やがて武田家に憎まれて殺される。しかし、「戦には行くな」という言いつけを守った者だけが生き残る

いくさに行った息子(惣蔵)は言う。

「この土地のものは、みんなお屋形様のおかげだ

これを聞いた親父(定平)はびっくりして心の中で叫ぶ。

「お屋形様には先祖代々恨みはあっても恩はないのである。先祖のおじいは殺されたし、女親のミツ一家は皆殺しのようにされてしまい、ノオテンキの半蔵もお屋形様に殺されたようなものである。」(p.204)

名誉や金にこだわった者は悲惨な末路をたどり、自分なりの生活を守り抜いた者は生き続ける。

なんだか、昔も今も同じだな、と思った。

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