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ラーニング・ラボ

松尾睦のブログです。書籍、映画ならびに聖書の言葉などについて書いています。

『暗約領域 新宿鮫11』(読書メモ)

2023年06月28日 | 読書メモ
大沢在昌『暗約領域 新宿鮫11』光文社

新宿鮫シリーズの第11弾。なんと文庫本で900ページ以上もある長編である。

新宿の民泊マンションで、男の銃殺死体が発見されたことがきっかけとなり、新宿署、公安、暴力団、北朝鮮工作員、アジアの国際犯罪人が絡む事件に発展するというストーリー。

どことなく、鮫島が大人しくなった印象を受けたのが残念である。

ただ、北朝鮮情勢に詳しい元公安刑事が古本屋の店主(連絡役)となって登場するのだが、彼が良かった。

北朝鮮関係の事案についてはスペシャリストであるため、キャリア警官も黙らせる迫力を持っているのだ。

とても魅力的なキャラクターだった。


『勇気づけの方法:アドラー心理学を語る4』(読書メモ)

2023年06月20日 | 読書メモ
野田俊作『勇気づけの方法:アドラー心理学を語る4』創元社

日本におけるアドラー心理学の権威、野田先生による著書。

講演録を基にしているので、語りを聞いているようだ。

タイトルにもなっている「勇気づけ」であるが、原語はencouragement。「励まし」と訳さないところにセンスがある。

「大人でも子どもでもそうなんですけれど、健康に、建設的に暮らしていこうというときに、絶対必要な要素は「勇気」だと思う。「元気」と言ってもいいし、「生気」と言ってもいい。子どもが不登校になるとか、非行になるとか、あるいは反抗的になるとか、勉強しなくなるとか、大人が夫婦喧嘩をするとか離婚をするとか、精神病や神経症になるとかいうのは、結局全部、建設的に生きていく勇気がなくなっているからだと思う」(p. 10)

野田先生は、勇気づけのテクニックとして、次の9つを挙げている。

貢献に注目する(「とても助かった」)
過程を重視する(「努力したんだね」)
既に達成できている成果を指摘する(「ずいぶん進歩したね」)
失敗も受け入れる(「努力したのにね」)
成長を重視する(「ずいぶん上手になったね」)
相手に判断を委ねる(「あなたはどう思う?」)
肯定的に表現する(「反省しているんだね」)
⑧「私メッセージ」を使う(「私はそのやりかたは好きだな」)
⑨「意見言葉」を使う(「あなたは正しいと思うな」)

ちなみに、勇気をくじくメッセージは以下の通り。

勝敗や能力に注目する(「偉い、よくやった」)
成果を重視する(「いい成績だね」)
できていない部分を指摘する(「ここがダメだね」)
成功だけを評価する(「なぜ失敗したの?」)
他者と比較する(「あの人よりあなたが上だね」)
こちらが善悪良否を判断する(「こうしたほうがいい」)
否定的な表現を使う(「気が小さいね」)
⑧「あなたメッセージ」を使う(「あなたの考えは間違っている))
⑨「事実言葉」を使う(「あなたは正しい」)

とても微妙な違いである。何が違うのであろうか?

本書の後半において、「相手を尊敬する」ことの重要性が語られているのだが、そこがポイントになるようだ。

つまり、後半の勇気をくじくメッセージは、「自分は偉い」「上から目線」の言葉がけであることがわかる。

それに対し、前半の勇気づけのメッセージは、対等の人間として相手を尊重する言葉がけとなっている。

本書を読み、「相手との関係意識」に気をつけて「勇気づけ」の言葉を使いたい、と思った。



『秘密』(読書メモ)

2023年06月13日 | 読書メモ
池波正太郎『秘密』文春文庫

果し合いで家老の息子を切り殺してしまった片桐宗春は、敵討ちに追われながら、江戸で医者として暮らしている。
(父親が医者だったために、技術は持っているという設定)

いつも「少し軽い小説」が多い池波正太郎作品の中では、味わい深いものがあった。

なぜなら、宗春がいろいろな人に支えらて隠れ暮らしているため、人情が身に染みるからである。

ただ、敵討ちに追われる宗春は、あるとき開き直る

こうした姿勢は、つらい運命に直面したときに大切になるな、と感じた。

『留魂録』(2回目の読書メモ)

2023年06月01日 | 読書メモ
吉田松陰(全訳注:古川薫)『留魂録』講談社学術文庫

2015年に読んだ『留魂録』を読み返した。

1回目に響いた「人間にはふさわしい春夏秋冬がある」という箇所はやはり一番感銘を受けたが、古川薫氏の「解題」で紹介されていた、高杉晋作への手紙が良かった。

「君は問う、男子の死ぬべきところはどこかと。私も昨年の冬投獄されていらいこのことを考えつづけてきたが、死についてついに発見した。死は好むものではなく、また憎むべきものでもない。世の中にはいきながらえながら心の死んでいる者がいるかと思えば、その身は滅んでも魂の存する者もいる。死して不朽の見込みあらば、いつ死んでもよいし、生きて大業をなしとげる見込みあらば、いつまでも生きたらよいのである。つまり私の見るところでは、人間というものは、生死を度外視して、要するになすべきことをなす心構えこそが大切なのだ」(p. 51)

「なすべきことをなす」とは、使命やミッションのことだろうか。

どんな人にもそれぞれに「なすべきこと」があり、それを見つけ、実践できたら幸せになるのだろう、と感じた。


『津田梅子:女子教育を拓く』(読書メモ)

2023年05月29日 | 読書メモ
高橋裕子『津田梅子:女子教育を拓く』岩波ジュニア新書

新しい5千円札の肖像となる津田梅子の評伝である。

梅子は7歳のときに、女子留学生(3名)に選ばれ米国に渡り、ホストファミリーであるランマン家で育てられ、18歳で帰国する。華族女学校の教授になった後、再び米国に留学しブリンマー大学を卒業して、36歳のときに津田塾大学の前身となる学校を開設。生徒は10名だったという。

まず驚いたのは、小さい女の子を長期間留学させるという国の方針。これは、留学を企画した森有礼や黒田清隆が「米国の生活習慣や価値観の総体」(p.31)を身に着けさせようと考えたため。

しかし、帰国した梅子は日本語をすっかり忘れてしまい、家族ともコミュニケーションできなくなってしまった。完全に米国人になっていた当時の梅子は「移植された木のようで変な感じがします」(p.75)と言っている。

少し考えればわかりそうなものなのだが、中途半端な教育では意味がないということかもしれない。

なお、梅子の活動を支えたのは、愛情を注いで育てたランマン夫妻、盟友アリス・ベーコン、女性学者のロールモデルとなったブリンマー大学のトマス先生である。

本書を読み、「親、友、師」の影響力の大きさを感じた。

『葉隠入門』(読書メモ)

2023年05月20日 | 読書メモ
三島由紀夫『葉隠入門』新潮文庫

武士道というは、死ぬ事と見付けたり」で有名な『葉隠』を三島由紀夫が解説した書。

ちなみに、『葉隠』は江戸中期、佐賀藩の山本常朝によって口述筆記された武士道の本。

過激な内容かと思いきや、『葉隠』自体も、三島の解説もバランスのとれた深い内容だった。

なぜなら、「いつでも死ぬ覚悟を持って生きろ」というだけでなく、「1回だけの人生なんだから、楽しめ」とも言っているからである。

「『武士道といふは、死ぬ事と見付けたり』は第一段階であり、『人間一生誠に纔(わずか)の事なり。好いた事をして暮らすべきなり。』という理念は、その裏であると同時に奥義であり、第二段階なのである。『葉隠』は、ここで死と生とを楯の両面に持った生ける哲学としての面を明らかにしている」(p. 38)

この他にも、「死に物狂いで取り組め」「毎日死ね」という言葉もあれば、「15年先を考えよ」「部下をほめよ」といったことも書いてある。

後半には、葉隠の現代語訳(抜粋)があり、これが面白かった。

普通のサラリーマンが読んでも参考になる処世術も書いてあり、『葉隠』に親しみを感じた。

『完全なる人間:魂のめざすもの【第2版】』(読書メモ)

2023年05月11日 | 読書メモ
アブラハム・H・マスロー(上田吉一訳)『完全なる人間:魂のめざすもの【第2版】』誠信書房

欲求階層説で有名なマスローの本。

理論書というより哲学書に近い内容だった。

意外なことに、経営学や心理学のテキストに出てくる「5段階の欲求階層説」についてはあまり書かれていない(少しだけ書かれてあるが)。

むしろ、「安全の欲求が満たされないと、自己実現できない」といった2段階の階層説が強調されている。

安全性がが確かめられると、より高い欲求や衝動を発現させ、優勢にする。安全が脅かされると、とりもなおさず、一段と基本的な基礎に退行する(中略)安全欲求は成長欲求よりも優勢なのである」(p.63)

これは、今流行りの「心理的安全」の考え方である。

もう一つ驚いたことは、自己実現の考え方。

「わたくしの見出したところでは、自己実現する人間の正常な知覚や、平均人の時折の至高経験にあっては、認知はどちらかといえば、自我超越的、自己忘却的で、無我であり得るということである。それは、不動、非人格的、無欲、無私で、求めずして超然たるものである。自我中心ではなく、むしろ対象中心である」(p. 99)

ここまで来ると「悟り」の状態に近い。

ただ、違う箇所では、次のように説明されている。

「自己実現はさまざまなかたちで規定されるが、確たる一致点もみられる。すべての定義には、(a)精神的な核心あるいは自己を受け容れ、これを表現すること、すなわち、潜在的な能力、可能性を実現すること、「完全にはたらくこと」、人間性や個人の本質を活用すること、の意味が含まられている」(p. 249)

こちらの説明のほうがわかりやすい。

しかし、次の一節には驚かされた。

「自己実現は、原理的には容易であるとしても、実際には、ほとんどおこるものではない(わたくしの基準では、大人の人口の1パーセントにもきたないことは確かである)」(p. 258)

そこまで難易度を高めなくていいように思うが、自己実現する人の創造性についての次の説明は良かった。

無教養で貧しく、終日家事に追いまわされている母親である一婦人を例にとると、彼女はこれらの慣習的な意味での創造的なことは、なにもしていなかった。にもかかわらず、素晴らしい料理人であり、母親であり、妻であり、主婦なのである。わずかのお金で、その家はともなくもつねに小綺麗であった。彼女は完全なおかみさんなのである。彼女の作る食事は御馳走である。彼女のリンネル、銀食器、ガラス食器、せともの、家具に対する好みは、間違いがない。彼女はこれらすべての領域で、独創的で、斬新で、器用で、思いもよらないで、発明的であった。わたくしはまさに彼女を、創造的と呼ばざるを得なかったのである」(p.172-173)

この例を見て、マスローが言いたかった自己実現の意味がわかったような気がした。


『永すぎた春』(読書メモ)

2023年05月02日 | 読書メモ
三島由紀夫『永すぎた春』新潮文庫

三島由紀夫のコミカル物

T大学(東大)法学部の学生である郁雄は、官僚の父をもつお坊ちゃん。大学の正門前にある古本屋の娘、百子と婚約するが、「卒業まで結婚しない」という条件つきである。

卒業までに、いろいろなトラブルがあって、二人がそれを乗り越えていくという物語。

ちなみに、ゴタゴタが起きるたびに郁雄が相談に乗ってもらう相手がいる。

それは、28歳ですでに結婚している宮内という同級生である。

「二十八歳・・・・・俺の歳を考えてごらん。この歳で俺は五十の男にふさわしい経験をもっているんだが、それもこの若禿のせいさ」(p.112)

障害を乗り越えながら、郁雄と百子の絆が強くなっていくのだけれども、危ないときにアドバイスをするのが宮内なのだ。

なんでも相談できる友人の大切さがわかった。

『魂の精神科訪問看護』(読書メモ)

2023年04月26日 | 読書メモ
西島暁子『魂の精神科訪問看護』幻冬舎

本書のカバー写真が厳しい表情なので、キツイ方かと思って読んだところ、とても謙虚でソフトな語り口だった。

精神科における訪問看護は効果が高いという。なぜか?

それは、患者がどのような生活をしているのか、家族がどういう人かがわかるからである。そうした生活情報から、病気の原因や対応策を練ることができるわけだ。

本書を読んで印象に残ったことは「自立をサポート」するために「関わりすぎない」という点。いつまでも支援し続けると、依存心が生まれ、患者が自立できないのだ。

これは、人材育成にも共通する重要ポイントである。

ちなみに、著者の西島さんは、病院勤務時代、仕事をし過ぎてうつ病になり、措置入院をしたことがある。その時、主治医から言われたことがその後の指針になっているという。

「主治医は私に、自分で思っているほどのキャパシティが自分にはないこと、そして自分は弱い人間であることを知るように言いました。さらになんでもイエスと言ってはいけない、自分のキャパシティの80%の力でやりなさい、などこれまで私が一度も言われたことがないようなアドバイスを次々にくれたのです」(p.66)

精神科訪問看護ステーションを経営するようになってから、自分自身に、そしてスタッフにも「80%の力でやりなさい」と伝えているらしい。

タフな仕事ほど「8割主義」でやらないと続かない、といえる。








『うつ病九段』(読書メモ)

2023年03月30日 | 読書メモ
先崎学『うつ病九段:プロ棋士が将棋を失くした一年間』文春文庫

羽生さん世代の天才棋士、先崎学さんのうつ病記録である。

うつ病のリアルな世界が伝わってきた。

先崎さんがうつ病になってしまったのは、将棋界を盛り上げようと、棋士として戦いながら、将棋映画『3月のライオン』の監修やエッセイ執筆をして、働きすぎたことが原因らしい。

本書で一番印象に残ったのは、精神科医である先崎さんのお兄さんのアドバイス。

「うつにとって散歩は薬のようなものなんだ」(p.42)

「医者や薬は助けてくれるだけなんだ。自分自身がうつを治すんだ。風の音や花の香り、色、そういった大自然こそうつを治す力で、足で一歩一歩それらのエネルギーを取り込むんだ!」(p. 63)

必ず安定します」(p. 136)

そして、本書を書くことを勧めたのもお兄さんである。

「学ぶが経験したことをそのまま書けばいい、本物のうつ病のことをきちんと書いた本というのは実は少ないんだ。うつっぽい、とか軽いうつの人が書いたものは多い。でも本物のうつ病というのは、まったく違うものなんだ。ごっちゃになっている。うつ病は辛い病気だが死ななければ必ず治るんだ」(p. 161)

誠実なプロフェッショナルがそばにいるということの大切さがわかった。