拝島正子のブログ

をとこもすなるぶろぐといふものを、をんなもしてみむとてするなり

いっそう高く(いっそう馬鹿っぽく)

2015-06-20 18:24:15 | 音楽

(承前)では、リヒァルト・シュトラウスのオペラのテナーはどんなか?ルチア・ポップは、「シュトラウスはテナーが嫌いだったんじゃないか」と言ってる。やたら音が高くて、性格的で、いつもキーキー言ってる感じ。サロメのヘロデ王とか、エレクトラのエギストとか。アラベラのマッテオも音が高い(そのマッテオをちゃんと歌えるザイフェルトにポップは惚れた)。バラの騎士の「イタリア人歌手」のアリアはなかなかかっこいいが、やはり音が高くて(クライバーのミュンヘンのビデオは、アライサに気の毒なことに音がひっくり返った日のものが収録されている。)、結局、オックスが書類をばたんとたたきつける音で中断される(日本を代表する名テノールの某さんがメトでこの役を歌う直前にNHKのニューイヤーオペラに出たとき、司会者に「メトでバラの騎士をお歌いになるんですよね。役は?」と聞かれて、もごもごしてたら「主役ですね♥」とフォローされてたが、正確な表現ではない。そんなシュトラウスの描くテナーの中で、私が好きなのは「ナクソス島のアリアドネ」のバッカス。繊細さのかたまりのようなツェルビネッタのアリアの後に、バッカスがまるで正反対の笑っちゃうくらい馬鹿っぽい歌で登場する。「ツィールツェ、ツィールツェ」(♯ドー♯ソ、ドーソ)って感じで。その後、女声が繊細な重唱を歌って、反省するかと思ったらとーんでもない。いっそう声を張り上げて(いっそう馬鹿っぽく)、「ツィールツェ、ツィールツェ」(シ(!)ーミ、シーミ)!ううー、そそるー!天が私にヘルデンテナーの声を与え賜うたら、この部分を思いっきり馬鹿っぽく歌うんだ!ありゃ、楽譜見たら、この部分、「ミーシ」でもいいことになってるぞ。さすがに高い(しかも伸ばす)と思ったか。でも、聴衆は楽譜がそんなことになってるなんて知らないもんね。もし「ミーシ」なんて歌ったらブーイングの嵐だ。ちなみに、第九のテノール・ソロの締めの部分も楽譜上はシ♭を2回出すのと1回だけのと二通りある。普通は二回だろうが、ベーム&ウィーン響(「フィル」ではない)のレコード(CD)では1回。まあ、この部分、合唱が入るとソロの締めの部分はあんまり聞こえないけど(ということで、今回のブログのシュトラウス三部作はおしまい)。

オックスは人格者!?

2015-06-20 13:29:23 | 音楽

(承前)そのオックス男爵、「すけべじじー」と言われて評判は散々だが、結構見習うべきところがある。例えば、「die Fraeulein mag Ihn nicht.」(お嬢さんはあなたのことが嫌い)と言われても(「mag nicht」なんてあまりに直接的)、ぶふぉふぉと笑い飛ばして「直に好きになる」とか言ってる。器が大きい。「頭きたっ、やめてやるっ」なんて言わない(別の言い方=鈍感)。それから、情報を持ってきたアンニーナにチップを催促されても「Das spaeter」(あとでな)と言って取り合わない。経済観念に長けている(別の言い方=けち)。なんと言っても、粘り強い。「ネヴァー・ギヴ・アップ」の精神にあふれている。あんだけやっつけられといて、まだゾフィーとの結婚の可能性を模索している(別の言い方=往生際が悪い)。そんなオックスに最後の一撃を下したのはマルシャリン。「Versteht Er nicht,wenn eine Sach’ein End hat?」(物事には終わりがあるということをお分かりにならないの?)。ここは毅然と歌うところ(写真の楽譜)。「End hat?」にオケ(前奏曲を三拍子にアレンジしたもの)がかぶる。楽しいような、もの悲しいような、何とも言えない最高の部分。これ、マルシャリンは自分自身にも言い聞かせてるんだろうね(若いツバメを手放すという)。まあ、こんな具合に、バロン・オックスも当初このオペラの題名になりそうだったくらいだからなかなかの人物なのだ。それに、設定は35歳くらいだからジジーではないのだ。過去、オットー・エーデルマンがあまりに下品に(=あまりに上手に)演じたもんだからジジーのイメージがついてしまったんだろう。最近オックスをやってるギュンター・グロイスベックなんか、まるでロバート・レッドフォード。これならゾフィーもなびくかも知れない(続く)。

歌劇「オックス」(当初の予定)

2015-06-20 09:47:59 | 音楽

リヒァルト・シュトラウスのオペラのソプラノ・パートが素晴らしいことは言うを待たない。ルチア・ポップはこれを称して「お砂糖」と言った。これに伍して重要なパートを歌うのは、多くの場合、テナーではなくバス又はバリトン。「サロメ」のヨハナーン、「エレクトラ」のオレスト、「アラベラ」でヒロインと魅惑的な二重唱を歌うマンドリカ、「無口な女」で最後に「Wie schoen ist doch die Musik」と感動的に歌うモロズス卿。そして、「バラの騎士」のバロン・オックス。これ、すけべジジーの役だけど、でずっぱりでとっても重要。当初、このオペラの題名は「オックス」になるはずだった(と言っても鉄人28号は出てこない)。なにしろ、例の「ワルツ」はオックスに与えられて、ワルツに乗って鼻歌まじりで「Ohne mich, jeder Tag Dir so lang.」(ボクがいないと毎日が長いよ)とか「Mit mir,keine Nacht Dir zu lang.」(ボクと一緒なら長すぎる夜はないよ)とか歌う。さあ、その後です。オケがトゥッティで全力でこのワルツを奏でる(写真の楽譜)。このヴァイオリンの音の高いこと。ウィーン・フィルはこれにビブラートをびりびりつけて弾く。失神しそう。クライバー&ウィーン国立歌劇場の来日公演で、一番しびれたのはこの場面だった。10m先にクライバーの背中。そのクライバーの棒に合わせてオケのみか舞台上のオックス(クルト・モル)も踊る。クライバーの棒が右に振れると(シ♯ソソー)オックス(クルト・モル)は左にステップ、左にいくと(シ♯ファファー)右にステップ、まさに「im Paradies」な気分であった(続く)。