暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

「女ひとり 70歳の茶事行脚」に寄り添って (その3 琵琶マスと漁師)

2016年08月08日 | 暮らし

                   比叡山から琵琶湖を望む

(つづき)
☆ 2014年7月
今回の旅で半澤鶴子さんは、
「お茶に馴染のない方に茶事を楽しんでもらいたい・・・」
という思いを胸に、琵琶湖方面へバンを走らせます。
ここで茶事が出来たら最高と思える場所(東屋?月見台?)と出合い、そこで野宿することにしました。
「山水風月の息遣いを実感する旅でもあるので、それには野宿は最高。
 自分の方から自然の中へ入り込んで気配を感じ取るのです・・・」

                  
                           琵琶湖の月

野山を歩き、過酷な旅を続けることで、日頃忘れかけ眠っていた野性が徐々に目覚め、自然の気配やサウンドに心が研ぎ澄まされていく・・・そんな実感を暁庵も四国遍路の1人旅で得たことがあります。
善根宿(お遍路さんを無料で泊める宿泊所)や野宿も頭を横切りましたが、その体験がないのが残念です。
お茶の稽古で生徒さんを迎えるとき、茶室の中に如何に自然の息遣いや季節の変化を感じてもらえるか、毎回頭を抱えながらも心掛けます。
それは一見、全く次元の違う世界のようですが、根っこのところは同じだと思うのです・・・。


                  
                      琵琶湖だけに生息する琵琶マス

さて半澤さん、琵琶マスを釣る漁師さんと出合いました。
琵琶マスは琵琶湖にだけ生息する美しい鱒です。
淡水魚ですが臭みがなく、美しいサーモンピンクの身はお刺し身や塩焼きにも美味だそうです。
琵琶マスの漁師さんをお客さまとして茶事をやってみよう・・・と半澤さんは秘かに決意しました。

緋色の毛氈を引き、茶道具を並べ、行きずりの方をお茶に誘って、茶事のお客さまを捜します。
紺地の夏大島(?)、白地の帯、帯にはさんだ帛紗と毛氈の赤がアクセントになって、そのシーンの半澤さんは美しく、気迫がみなぎっていました。
お客さまとのご縁をいかに繋ぐか、一番大変で難しい課題と思われました。

半澤さんの努力の甲斐あって、琵琶マスの漁師さんたちが茶事へ来てくださることになり、準備に取り掛かります。
・・・しかし、うまくいかない時もあるものです。
38度の熱が出て、とうとう寝込んでしまいました。

                  

茶事当日、準備の遅れを取り戻そうと、朝5時から取り掛かります。
熱は下がらないままですが、でも辛い顔は見せられません。
やっと準備が出来て、お客様(男性5名)を茶席へ案内しますが、定刻を15分過ぎていました。
その日は懐石も思うようにいきませんでした。
向付は、当日漁師さんが釣ってきてくださった「琵琶マスの洗い」、氷でしっかり〆めたかったのですが、暑さで氷が融けてしまいました。
猛暑で用意していた野菜もダメになって使えず、メインディッシュの煮物椀は「トウモロコシ豆腐」と青柚子だけのさびしいものになりました。

発熱、猛暑、準備不足、熱のために身体が思うように動けません・・・。
それでも、流石に茶事のプロ!です。
「いろいろ不都合ばかりだったけれど、不都合を厭わないでやり続けました。
 客人に楽しんでもらう事だけに集中して4時間の茶事を終えました・・・」

                  
                   藪ミョウガの花 (季節の花300) 

予期せぬ失敗や不都合がいろいろ出てくるのが茶事で、それをいかに乗り切るかも茶事の面白さです。
でも、体調不良の時は頑張らずに、お客様にお話しして延期(または中止)するのがよろしいのではないでしょうか。
主客の体調を調えて臨まないと、茶事の醍醐味である、心と心を通わせる至福の時はやって来ないように思います。
どうぞ、落ち込まないで、失敗を糧としてリベンジしてください。
 


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