今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

726 高松(香川県)静寂と清潔に漂うカフカ君

2016-10-22 21:05:52 | 香川・徳島
「四国に行こう」ということになった。 彼女にとって四国は、瀬戸大橋を渡って丸亀駅前の猪熊弦一郎美術館に立ち寄った、その1時間ほどの経験しかない未知の国なのだ。何度か旅している私にしても、 知らない街はまだたくさんある。5日間の日程で、できるだけ四国を感じ取れるようにと「まず高松に入り、高知に出て四万十川を遡り、西海岸から松山へと回る」コースを考えた。直撃が心配された台風は、日本海に逸れて行った。



県庁最上階の展望ルームで街を俯瞰する。空港からの途中に寄って来た栗林公園が眼下に見える。外国人観光客でにぎわっていた。四国らしい穏やかな丘陵が海の近くまで延び、街は限られた平地に稠密な姿を広げている。暮らす市民は42万人。香川県の人口は97万人ほどだから、県民の40%がこの街に集中していることになる。だから街は海へと溢れ出し、埋め立てて港が築かれ、住宅は渚まで広がっている。高松は7年ぶりになる。



ミラノのガレリアを参考にしたのかミラノが真似をしたのか知らないけれど、アーケード街が十字にクロスする天井に大きなガラスのドームが載って、華やかな空間を創っている。ここが街の賑わいの中心で、おしゃれな店が並んでいる。このドームから丸亀町へと続くアーケード街は、商店街活性化の成功例として全国に知られており、地方の街では少なくなった賑わいがある。ただこの7年で、ショップの撤退が増えたようにも感じる。



ガラスのドームに不思議なオブジェが浮かんでいる。丸く、あるいは細長い、赤色をした風船のような固まりだ。何だろうと見上げ、三越の包装紙だと気がついた。この街出身の猪熊玄一郎のデザインによる、あの包装紙だ。すぐ近くに三越高松店があるけれど、数日後に始まる瀬戸内芸術祭後期の作品なのかもしれない。三越高松店は、長期不振の百貨店業界にあって数少ない活況店らしい。デパ地下ではその包装紙が活躍していた。



高松は村上春樹『海辺のカフカ』の舞台だ。なぜ作者がこの街を選んだのか知らないし、読んだときは高松でなくとも、どの街でも成立するストーリーのように思えたものだ。だが改めて高松を歩きながら考えると、なるほどこの街が似合っているファンタジーなのだと納得した。理由は、東京から四国までの距離が必要であることと、四国の中でも、高松という街が醸し出している「清潔さ」が作品に不可欠だったからだと私は考える。



支店経済の街と言われる高松は、コンビナートが黒煙を上げているわけでもなく、大きな漁港が生臭い熱気を立ち上らせてもいない。つまり瀬戸内の穏やかさに包まれて、ホワイトカラーが静かに働く街の印象である。作品を読む限り、村上春樹という作家は極めて清潔好きだと思われる。そのことは『海辺のカフカ』にも滲み出ている。作中の不思議な私設図書館は、栗林公園か高松城址の日本建築のイメージから生まれたのではないか。



高松に似ている街はどこだろうと考え、仙台が思い浮かんだ。地域の中核として国の機関や企業の支店が集中している街には、共通する空気というものがあるのかもしれない。そして二つの街とも戦災で焼け野原になっている。復興に向け街路が整備され、整然とした街並が生まれた。碁盤目状の街区は視覚的に硬く私の好みではないが、アーケードや並木で通りを繋ぎ、街にリズムを持たせていることでも高松と仙台は似ている。(2016.10.5)









コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 725 松代(長野県)大本営掘... | トップ | 727 屋島(香川県)源平は庵... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

香川・徳島」カテゴリの最新記事