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新潟地震(1964年)のトラウマで、地震過敏症になっていた私は、翌年から始まった長野県松代町の群発地震に強い関心を持った。ただ地図で詳しくその位置を確認する努力は怠り、新聞の大雑把な図で町の在所を知ったつもりになっていた。以来、松代町は「いつか行ってみたい町だけれど、正確にはどのあたりに存するのか判然としない」という、私の中では中途半端な街になっていた。その松代に、ついに分け入る時が来たのである。
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改めて調べると、松代町は合併により、1966年に長野市に編入されていた。どおりでこのところ、名前を聞くことが少なくなっていたわけだ。長野市の南東端に位置し、街の中心域は千曲川の右岸にあって、善光寺平の東縁にあたる位置だ。私はどういうわけか、山の中の町なのだろうと思い込んでいたのだけれど、川中島古戦場のはずれと言ってもよさそうな平坦部である。だから私は、ほぼ50年にわたって勘違いしていたことになる。
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山に囲まれた小盆地、といったメリハリはない。従って「分け入る」という表現は的外れで、どこからが「真田10万石」の領地になるのかも判然としない。気がつくと真田邸や松代城(海津城)址が点在する観光エリアにいて、大河ドラマに誘われてやってきたらしい観光客の流れの中にいる。道路もよく整備されているけれど、観光地としては小布施などの雑踏はなく、10万石というささやかな城下が今も保たれているようである。
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そうした街並みの真ん中に「池田満寿夫美術館」がある。満州で生まれ、長野市で育った池田の、初期の版画から晩年の土の造形まで、なかなか楽しめる美術館である。ただ極めて整然とした施設は、伝統的でありすぎるような印象が漂い、奇才「池田満寿夫」には似つかわしいとは思えない。荒々しい制作現場が復元されていたりすれば、有り余る才能を爆発させた作家をもっとよく理解することができるのに、などと考えながら鑑賞した。
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それにしてもこれほどの美術館が、同じ敷地に店を構える菓子舗の設立・運営によるものだとは驚きだ。本店を小布施に置く竹風堂で、栗菓子や「栗おこわ」が有名だ。地域を代表する菓子舗ともなると、その財力は大したものになるようで、帯広の六花亭など、美術館運営による社会貢献の例は多い。私などは旅先でその恩恵を受けることが多く、この日の昼食はせめてものお返しと、栗おこわにマスの甘露煮を添えた定食をいただいた。
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真田10万石に興味がない私は、Masuo芸術を堪能すると、街外れの気象庁地震観測所を目指す。ただ私が見たいのは観測所ではなく、観測用に利用されている地下壕である。太平洋戦争末期、本土空爆が避けられない情勢になって、東条内閣は皇居と大本営など政府中枢機能を移転させようと、松代の3つの山中に総延長10キロ余の地下壕を掘り進めた。国民を見捨ててまでも戦争を遂行しようとする、軍国官僚の狂気の残骸である。
舞鶴山の壕入口は、鉄柵が閉じられ入ることはできない。覗き込むとアサギマダラが1匹(頭)、ひらひらと舞い出してきたのには驚いた。もう一つの坑道は皆神山に掘られたが、20年後、この山を震源として群発地震が発生した。つまり松代は、甲斐と越後の軍団が激突し、真田の長兄が徳川に付いて命脈を保ち、佐久間象山が幕末の国論を揺るがし、一時は「首都」になりかかり、5年間に71万回の地震に襲われたのである。(2016.9.24)
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改めて調べると、松代町は合併により、1966年に長野市に編入されていた。どおりでこのところ、名前を聞くことが少なくなっていたわけだ。長野市の南東端に位置し、街の中心域は千曲川の右岸にあって、善光寺平の東縁にあたる位置だ。私はどういうわけか、山の中の町なのだろうと思い込んでいたのだけれど、川中島古戦場のはずれと言ってもよさそうな平坦部である。だから私は、ほぼ50年にわたって勘違いしていたことになる。
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山に囲まれた小盆地、といったメリハリはない。従って「分け入る」という表現は的外れで、どこからが「真田10万石」の領地になるのかも判然としない。気がつくと真田邸や松代城(海津城)址が点在する観光エリアにいて、大河ドラマに誘われてやってきたらしい観光客の流れの中にいる。道路もよく整備されているけれど、観光地としては小布施などの雑踏はなく、10万石というささやかな城下が今も保たれているようである。
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そうした街並みの真ん中に「池田満寿夫美術館」がある。満州で生まれ、長野市で育った池田の、初期の版画から晩年の土の造形まで、なかなか楽しめる美術館である。ただ極めて整然とした施設は、伝統的でありすぎるような印象が漂い、奇才「池田満寿夫」には似つかわしいとは思えない。荒々しい制作現場が復元されていたりすれば、有り余る才能を爆発させた作家をもっとよく理解することができるのに、などと考えながら鑑賞した。
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それにしてもこれほどの美術館が、同じ敷地に店を構える菓子舗の設立・運営によるものだとは驚きだ。本店を小布施に置く竹風堂で、栗菓子や「栗おこわ」が有名だ。地域を代表する菓子舗ともなると、その財力は大したものになるようで、帯広の六花亭など、美術館運営による社会貢献の例は多い。私などは旅先でその恩恵を受けることが多く、この日の昼食はせめてものお返しと、栗おこわにマスの甘露煮を添えた定食をいただいた。
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真田10万石に興味がない私は、Masuo芸術を堪能すると、街外れの気象庁地震観測所を目指す。ただ私が見たいのは観測所ではなく、観測用に利用されている地下壕である。太平洋戦争末期、本土空爆が避けられない情勢になって、東条内閣は皇居と大本営など政府中枢機能を移転させようと、松代の3つの山中に総延長10キロ余の地下壕を掘り進めた。国民を見捨ててまでも戦争を遂行しようとする、軍国官僚の狂気の残骸である。
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舞鶴山の壕入口は、鉄柵が閉じられ入ることはできない。覗き込むとアサギマダラが1匹(頭)、ひらひらと舞い出してきたのには驚いた。もう一つの坑道は皆神山に掘られたが、20年後、この山を震源として群発地震が発生した。つまり松代は、甲斐と越後の軍団が激突し、真田の長兄が徳川に付いて命脈を保ち、佐久間象山が幕末の国論を揺るがし、一時は「首都」になりかかり、5年間に71万回の地震に襲われたのである。(2016.9.24)
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