万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

EUと尖閣諸島棚上げ論―国境がなくなるという誤解

2013年08月14日 15時33分49秒 | アジア
英領ジブラルタル スペインの出入国制限検討を非難(産経新聞) - goo ニュース
 最近に至り、ジブラルタルをめぐり、俄かにイギリスとスペインの関係が険悪になっているそうです。両国とも、EU加盟国なのですが、この現象は、EUをモデルとした地域統合を実現すれば、尖閣諸島の問題など消えてなくなるとする楽観論に冷や水を浴びせています。

 報道によりますと、歴史作家の半藤一利氏とアニメ映画監督の宮崎駿氏が対談した際に、半藤氏は、”尖閣諸島は棚上げすべき”と提言したそうです。あと○十年もすれば、EUのように東アジアも統合され、国境がなくなるので、領土に関するもな対立くなると…。どうやら、氏は、世界連邦主義者の一員のようですが、この見解、EUを誤解しているのではないかと思うのです。EUは、EC時代から独仏の和解の象徴ともされ、ヨーロッパ大陸に平和をもたらしたことは、高く評価されるべきことです。しかしながら、EUの誕生には、戦後、(1)加盟国が共に西側陣営の一員となったこと、(2)共通の価値として、民主主義、自由、法の支配…を掲げていること、(3)市場経済が定着していること…といった特別の条件がありました。この条件が、そのままアジアに適用できるのか、と申しますと、かろうじて(3)を満たすぐらいであり、中国の現状などを見ますと、それも、かなり怪しい限りです。好条件に恵まれたEUですら、国境が消えたわけではなく、防衛等に関する主権的な権限は、加盟国の手にあります。このため、英西間に領土をめぐる緊張が走っても、この問題をEUが解決できるわけではないのです。

 仮に、EUをモデルに!と主張するならば、中国に対しては、民主化や自由化を積極的に求めなければなりませんし、韓国に対しも、法の支配の徹底を要求しなければなりません。しかも、政策権限の一部をアジア版EUに委任することになるですから、中国にとりましては、一党独裁国家の終焉をも意味するのです。○十年先の理想をかざし、尖閣諸島の棚上げを主張することは、それが実現する保証はどこにもないのですから(仮に実現しても、国境も領土をめぐる緊張もなくならない…)、甘言を以って日本国民を騙すことになるのではないでしょうか。

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コメント (6)
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