駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇月組『川霧の橋/Dream Chaser』

2021年10月28日 | 観劇記/タイトルか行
 博多座、2021年10月11日15時(初日)、12日12時、23日16時。

 江戸隅田川の領国に近い茅町に「杉田屋」という大きな大工の棟梁の家があった。棟梁の巳之吉(夢奈瑠音)とお蝶(夏月都)の間には子がいなかったこともあって、子飼いの職人の中から次の棟梁が決められることとなり、幸次郎(月城かなと)、半次(鳳月杏)、清吉(暁千星)の中から幸次郎に白羽の矢が立つ。照れ性で口も悪いが心優しく、職人気質で周囲からの信頼も厚い幸次郎。その後見に着くことになった兄弟弟子の半次は分を弁えるが、我慢ならない清吉は上方へ出る決意を固めて…
 原作/山本周五郎、脚本/柴田侑宏、演出/小柳奈穂子、作曲・編曲/寺田瀧雄、音楽監督・編曲・録音音楽指揮/吉田優子、振付/尾上菊之丞、若央りさ。90年に当時の月組トップコンビ剣幸・こだま愛の退団公演として上演され、好評を博した日本物の待望の初再演。新生月組トップコンビのプレお披露目公演。

 初日雑感はこちら
 初日は2階席前方どセンター、2回目は1階席後方どセンター、マイ楽は3階席上手端から観劇しました。マイ楽はなんと初演主演コンビのウタコさん、ミミさんご観劇で、カテコで少しも早くご紹介したくてたまらないとシッポ振り振りワンコ状態だったれいこちゃんが見られて、「ブラボー!」と言ってくれたウタコさんの声が聞けて、「ブラボーいただきました」と喜ぶれいこちゃんの笑顔が見られて、幕が降りたあとも万雷の拍手で客席に会釈しながら退場してくれるウタミミの姿がちらりとでも見えて、幸せな観劇となりました。
 今、原作のひとつである『柳橋物語』を読み始めているのですが、この作品をああしたか、と唸らされることしきりです。そして舞台の台詞も素晴らしいですが、原作の文章はあたりまえですがさらに素晴らしく、もちろんわからない言葉や知らない言葉、習慣や風物など出てきて勉強になるのも楽しく(文庫の註はとても丁寧です)、こういうことも全部観劇の醍醐味だよなあ、と思ったりします。小柳先生の今回の演出は初演リスペクトで大きな変更はほぼほぼなく、橋の装置が新調されて盆が回って全部出るようになったこともむしろいい方に出るものだったと思います。柴田作品の新演出が任される演出家は固定されてきている気もしますが、怖いけどヨシマサとかにも一度担当させてみるといいと思いますよ、そして勉強してよヨシマサ…と思いました。そうすれば自作のあのあまりにも雑な台詞にも好影響が出ることでしょうよ…ともあれ、今回は小柳先生の確実な、誠実な、しっとり丁寧な演出が生きて、博多座の雰囲気にもハマり、いい公演になったのではないかと思います。私はこのあとライブ配信も見る予定でしたが、千秋楽のつもりでいたら土曜日の回だったのね…別の観劇予定と被ったわ、残念。映像ではどう見えるのか、見てみたかったんだけどなあ…ともあれよりたくさんの人に見ていただき、愛されていく作品に仕上がるといいなと思っています。

 十兵衛先生にも思ったけれど、幸次郎みたいないい男もなかなか造形できないものですよ。そりゃ口下手、というか口にしなくともわかってもらえるつもりでいたこの男が悪い。こういうの、ホント男の悪い癖です、甘えです。
 でも、総じて本当にいい男です。縁談が断られてからの未練がましさとか、でもお光(海乃美月)に他に想い人がいると知ってヘンに逆恨みしたりしないでちゃんと退くところ、でもつきあいは続ける優しさ温かさ、でもそのつきあいも控えたいときっちり言われてしまってからのしょんぼりしつつも潔く弁えるところ、けれど火事のピンチとなれば駆けつけるところとか、ホントたまりません。火事の際も、最後は川に流されちゃったけどそれまではやはり頼りになったし、その後も杉田屋再建に大車輪で働く一方でお光の行方を懸命に捜し回ったことでしょう。そして浮き世の義理で迎えることになった嫁に対しても、お光を想ってときおり視線を宙に浮かばせることはあったにしても、それを悟られぬよう、ちゃんと愛し慈しみ大事にしたんだと思うんですよね。だからおよし(結愛かれん)は何も知らないままに、ただ幸せに、けれど健康に恵まれずに早死にしていったのでしょう。そして清吉が死んだとなって、お光に再会して、つい熱い想いを再び口にしちゃうんだけれど、あとはずっと待つよと優しく、潔く言う。そして毎月15日に橋に行く…今までも、これからも、きっと「ご妾宅」なんざ持つことのない男でしょう。小りん(晴音アキ)に対しても、あくまで社交の場での座持ちのいい頼れる芸妓さん、ってなもんで、その想いに気づくことなぞてんでないのでしょう。だがそこがいい、それでいい、それが幸さんなんですよね。本当に素敵なキャラクターです。
 それからするとヒロインのお光はキャラというよりはその流転のドラマに魅力があるキャラクターで、親を早くに亡くしたわりにはヘンに大人びることなくおぼこく育ったところから、清吉にがつがつアプローチされて舞い上がり、その返事になかば縛られるようにしてのちの変化の波を被り、愛も恨みもやっかみも絶望も後悔も知って、友達の死を見送り、そして橋へ向かう…幸さんとなら、蛍を捕ってとせがんだ、無邪気な子供の頃に帰れる。そしてこれからの人生も共にしていける…見事な一代記です。トップ娘役のとってつけたような銀橋ソロ、なんてものとは全然違う一場面、大曲もあるのも実はなかなかないことで、素晴らしいお役です。
 幸さんの後見ふたりのキャラ立てとその後のいくたても素晴らしい。身分違いとわかっていても止められない思慕と、当てつけで横からさらうような恋のかすめ方と。報われない、という僻みからますます転落していく清吉に引きずられるように堕ちていく半次が、それでも最期まで気遣ったお組(天紫珠李)の、乳母日傘のお嬢様からの転落と昇天も。夜鷹のお甲(麗泉里)や、火事で記憶をなくしたお光を面倒見る家の少女お秋(詩ちづる)まで、もちろんお姉さんチームの含めて、素晴らしい女性キャラクターたちの数々。そして杉田屋ボーイズ(笑)始め、鳶も飛脚も町役も、屋台の主人まで、男性キャラクターたちも多士済々で素晴らしい。
 火事のアバンとお祭りのプロローグという始め方から、半次と清吉の最期を見せないところ、そして「もう、どこへも行くな」と素晴らしいカゲソロまで、構成も完璧だと思いました。
 生徒たちにも勉強になり、また携われて役者冥利に尽きる、名作名上演になったかと思います。観られて本当によかったです。観劇後のお友達たちとのごはん、も戻ってきた博多の街も本当に楽しかったです。またちょいちょい博多座公演がされますよう、祈っています。


 「-新たな夢へ-」とサブタイトルが追加されたスーパー・ファンタジーは作・演出/中村暁。
 ま、やっぱり、特にライフあたりとか、まるっと新場面をひとつくらい作ってくれてもよかったのでは?とも思いますが、まあそれは次の本公演お披露目オリジナル・ショーでのお楽しみに、ということにしておきましょうかね、という感じでしょうか。よりれいこちゃん仕様のお衣装、歌、ダンス、場面などが用意されることでしょうしね。マイ楽の2階席から観るプロローグ衣装なんかはやっぱり「あ、この人、美貌お化けだけどスタイルお化けではないんだったっけそういえば」とかちょっと思ってしまって残念だったので…でも、なんせ真ん中に置いてまったく危なげないトップスターさんだと思うので、これからもいろいろな期待をしています。バウ組合流も楽しみです。改めて新生月組プレお披露目、おめでとうさございました。
 そうそう、2階席からはフォーメーション後列の生徒も被らずよく見えるので、プロローグから詩ちづるチェックが楽しかったのも印象的でした。アンビエンテもいい位置にいたし、ミロンガはさすがに見ている暇はなかったけど、娘役群舞のボニータに入れたのもすごく嬉しかったです。スタイルいいし、表情の作り方の特徴を覚えてしまったのでわりとすぐ見つけられるようになってしまいました。星組に行ってもがんばるんだよー! 応援してるよー!!
 そしてみちるが加わって、さらに楽しみになりそうです。
 まずは千秋楽まで、無事に、事故なく楽しく元気に、上演されますよう祈っています…!!!





コメント
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