基本的には従来の作品で用いられたHD(ハードディスク)レコーディングという手法なのだが、それがPC上で展開され、視野の圧倒的に広いPCディスプレイに波形(wave form)として表され、サンプリング音源と同様に波形編集が可能となる。これまで、音として耳でしか判断の出来なかったものが視覚的に映像となって現れてくることから、従来比であまりにも客観的な状況に置かれる。つまり、演奏がズレてしまった箇所等は波形のタイミングで誰がズレているのかが一目瞭然となる。ベースが録音に臨んでいる時に、ズレているかどうかの判定となった時にPCの画面に定規を当てて(笑)、”どの程度ズレているか”を(冗談にも)測定していたこともあり、これが音楽的かどうかは別の議論としても、プレイヤーとしては全くの逃げ場がない状況となる。その一方で、修正も時間をかければかけるほど精巧なものが可能であり、究極では、それが音楽的であるかは別としても、完全にタイミングや音程が一致した”打ち込み”のような生演奏も可能であろう。このようなレコーディング環境については、1)HDレコーダーを選択した時に感触、つまり機能的には全てが同一であり、使用目的別に特化した商品のラインナップになっていること、2)PCソフト事情をみても、機能的に大差はないこと等を考慮すれば、技術的にほぼ限界・飽和状況になっているように思われる。個人的な感想を言えば、これまでのHDレコーディングにおける1作目「Out-and-Out」では、パンチイン・アウトの方法を習得するのが面倒(当時は2週間で録音した!)で、トラックを違えて対処していた(よって細かい単位での修正はきかず、少なくとも数十小節全部録り直しという事態になる)のだが、2作目「Point of View」でパンチイン・アウト技術を習得。ここではインであるA地点とアウトするB地点を予め波形等をみながら設定してオートパイロット状態にして録音する方法であり、これでさえ、10年以上前のカセットMTR(マルチトラックレコーダー)時代とは隔世の感を禁じ得なかったのだが(この時はマニュアルでココ!と思われる場所で"出し入れ”していたことに加えて、失敗は許されず、間違えると録音内容が消失する)、ProToolsにおけるパンチはA-B地点の設定さえ不要で、パンチ部周辺を適当に録って、後で波形を考慮してパンチ部を自由に編集でき、さらにUndo・Redoも実質何回でも可能となっている点にもっとも先進性を感じた。
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