第一の手記
恥の多い生涯を送って来ました。自分には、寝そべったままハンズフリーでスマホを見たい、という欲望がどうしても抑えきれなかったのです。そうしたいと思ったのは、よほど最近になってからのことでした。自分はその欲望を満たす商品は、世の中に普通に存在するものだとばかり思っていました。しかも、かなり永い間そう思っていたのです。そのような気のきいたサーヴィスは世の中に普通に提供されるものとばかり思っていたのですが、のちにそれを完璧に満たすものはなく、実利的な段階にあるものはないのを発見して、にわかに興が覚めました。自分は子供の頃からテレビをみることは少なく、つくづく、それをつまらないものだと思い、それが案外に実用品だった事を、五十歳ちかくになってわかって、人間のつましさに暗然とし、悲しい思いをしました。つまり自分には、人間の営みというものが未だに何もわかっていない、ということになりそうです。そこで考え出したのは、これからはテレビをみたい、できることなら、寝そべったままハンズフリーでスマホでテレビを見たい、ということでした。お茶目。自分は、所謂お茶目に見られる事に成功しました。これを作り出す事に成功しました。けれども作り出したものは、そんなお茶目さんなどとは、凡そ対蹠的なものでした。購ったのはショートブームマイクスタンドでした。ドラムのスネアやバスドラを蓄音するさいに使う、マイクスタンドです。ショートブームというのがポイントです。これまでは床に肘を立てた格好で、仰向けにスマホを見ていました。しまいに血流が下り、痺れをきたして、これでは永くはもちません。肘から手首までの長さは、足の裏の長さと同じ、というトリビアがあるようですが、これがまさにショートブームの部分の長さになります。なんだ、ベース奏者がショートブームのマイクスタンドを購ったのか?へえ?お前はいつドラマーになったんだいと嘲笑する人も或いはあるかも知れませんが、安物のスマホスタンドへの不信は、ドラマーへの道に通じているとは限らないと、自分には思われるのですけど。(続)