松竹大歌舞伎 「近江のお兼」「曽我綉俠御所染」「高坏」 (7月16日・春日井市民会館)
恒例、歌舞伎の夏巡業。今回は初めての会場「春日井市民会館」でチケットを取ってみた。春日井にはJRの駅と名鉄(小牧線)の駅があり、会場はJRの駅に近いが、東濃を除く岐阜方面からだとあまりアクセスが良くなく、結局金山まで出て、乗り換えて春日井駅へ。名古屋からだと近いんだなァ。この日は酷暑が続く連休の最終日。39度という体温より高い気温で、外に居るだけで止めどなく汗が流れ不快なことこの上ない。いつものように街を少しでも知るためにと駅から1.5kmほどの距離を歩いてみたが、暑いのなんの…。着物を着て観劇のご婦人方は大変だろうナ。会場はこじんまりとしていて客席は1階席だけのよう。ステージも遠くなく地方公演を観るにはちょうどいいサイズだ。
一幕目は梅枝が踊る「近江のお兼」。暴れ馬を高足駄で踏みとどめたという怪力の田舎娘お兼の説話を基に制作された義太夫の舞踊化。2人の漁師を跳ね飛ばす踊りが滑稽。同時に年頃の娘の切ない恋心をも描いているはずだが、その辺りのニュアンスは少し感じづらい。二本の晒(さらし)を手にダイナミックに舞う姿が見事。
続いて二幕目は「曽我綉俠御所染」(そがもようたてしのごしょぞめ)。題からはいわゆる”曽我物”のようだがそれらしき「曽我兄弟」の物語は出てこない。主人公と敵役が揃って登場。白地の着物を着た菊之助が凛々しい。菊之助は相変わらず口跡も迫力があって白塗りの顔にも華がある。この役(五郎蔵)では少し品の良さが出過ぎている気がしないでもないが、女形の時の艶やかさも一等だし、立役でもいい。よく考えるとそういう役者ってあまり居ない。女形をやると途端に醜女(しこめ)になってしまう役者が多いもんなァ(誰とはいいません・笑)。最初の説明台詞の場面では変化が乏しく、船を漕いでいる人も多かったようだ。取り巻きの台詞で”春日井”をくすぐったり、W杯で話題になった「半端ない」を台詞に入れたりして笑わせてくれた。こういうのも地方公演で楽しいところ。歌舞伎ならではの様式の詰まった演目だが、物語としてはかいつまんでいる箇所もあるようでちょっと面白味に欠けたり、あっさりし過ぎて感情移入しづらい場面もあったかな。にしても米吉が綺麗だ(←毎回言ってる)。
三幕目はおもしろおかしい「高坏」。太郎冠者、次郎冠者で笑わせる松羽目物。ただし背景は老松ではなく満開に咲いた桜の樹。6世尾上菊五郎が初演(昭和33年頃)というから比較的新しい(現世、つまり菊之助の父は7世)。初役だという菊之助には”うつけ”の役のイメージが無いがなかなか可愛らしかった。高足(下駄)を履いて踏み鳴らす音をタップダンスのように演奏とシンクロさせる。これ、6世が初演当時流行り始めたタップダンスを取り入れた演目なのだとか。今でいったらヒップホップ系のダンスを取り入れたって感じか。当時から進取の気風があったんだねェ。こういう楽しい演目で終わるのはいい気分。さて、また灼熱の屋外へと…。
一、近江のお兼(おうみのおかね)
近江のお兼 中村 梅枝
河竹黙阿弥 作
二、曽我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)
御所五郎蔵
御所五郎蔵 尾上 菊之助
星影土右衛門 坂東 彦三郎
皐月 中村 梅枝
逢州 中村 米吉
梶原平蔵 中村 萬太郎
花形屋吾助 市村 橘太郎
甲屋与五郎 市川 團蔵
久松一声 作
三、高坏(たかつき)
次郎冠者 尾上 菊之助
高足売 中村 萬太郎
太郎冠者 市村 橘太郎
大名某 市川 團蔵