ハリーの「聴いて食べて呑んで」

日々増殖を続ける音源や、訪問した店、訪れた近代建築などの備忘録

一八 @名古屋市南区・大江 (※閉店)

2023年09月13日 | 名古屋(港区・南区・緑区 老舗)

名鉄常滑線の大江駅近くの麺処「一八」。創業して73年というから昭和25年(1950)だろうか。名古屋を中心とした伝統ある系譜「一八会(一八のれん会)」と関係しているかは不明。店の裏にある駐車場に車を停めて裏口から店内へ。開店してすぐの時間だったがすでに何組も客が居て、後からも絶え間なく客が入ってくる盛況ぶり。給仕の女性に小上がり席を案内され腰を下ろした。卓には組み込みの鋳物コンロがある。こちら表の看板にあるように「釜揚げきしめん」が名物。ふと顔を上げた壁には古い看板が掛かっており(写真下)、年季が入って読み辛くなっているが、墨の筆文字で曰く、

  「奥三河ノ峰々ニ
  雨ガ降ル
  三河安城平野ニ
  実ルムギ
  △△良イ所ダケ
  刈リ取リ
  名古屋二持ッテ来テ
  コネテ見ルト
  腰ノ強イきしめんト成リ
  オカゲデタノシイ
  名物ガ出来マシタ
  一八」

(△は読み取り出来ず)

とあった。もちろん注文は名物の「釜揚げきしめん」。すぐに給仕女性が仕度をしてくれる。用意されたのは大きな特製の二重釜と、真ん中に穴の開いた木蓋。湯が沸いたら生麺が投入され、硬さを訊いてくれる。”普通”でお願いした。途中穴から茹で湯が沸き上がってくると給仕女性が穴に氷水を差し、またしばし茹でが続く。目の前で調理されているっていうのが楽しい。碗に入った熱いつゆ、生卵、薬味(刻みネギ、おろし、擦り生姜)も用意された。都合3回差し水をして出来上がり。

早速箸で釜の中の麺を手繰り、しっかりつゆに浸し啜る。あぁ、旨い。しっかりとした張りのあるきしめんはちょうどいい硬さに茹だっている。つゆは少し甘さを感じる懐かしい風味。きしめんのつゆといえばやっぱりこの甘さが必要だ。釜揚げのつゆは薄くなりがちだが、濃さも麺を食べ切るのにちょうどいい塩梅。薬味を足したり、溶いた卵にくぐらせたりして楽しんだ。もう少し食べたいぐらいの麺量もちょうどいい。用意されていた木製の大きな匙で茹で湯を少しつゆに足して飲んで、了。まだ後客が入ってくるので席を譲る。

勘定してもらうと調理場の女将が「ありがとうございました!9月末で店を閉めますので。」と声をかけて下さった。ご主人が病気になり閉めることにしたのだとか。2階で暮らすのが難しいそうなので店舗を住居スペースにするのかな。去年から双子の姉妹が跡を継いでいると聞いていたんだけれど、完全に止めちゃうのかな。もう一度来られるかどうか分からないが、旨い名物きしめんを食べることが出来て良かった。(勘定は¥1,300)

 

手打めん処 一八

愛知県名古屋市南区加福本通3-47

※令和5年9月30日を以って閉店されました

 

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山忠商店 @名古屋市南区・道徳

2023年05月02日 | 名古屋(港区・南区・緑区 老舗)

平日に休みが取れたある日、以前から地図を見て気になっていた区割りや古い建物を確認しにバスで南区の道徳近辺へ。気になっていた区割りとは「七福湯」のある辺り。下の地図の通り、中村区大門のように花街で特徴的な区割りが見て取れるので、ひょっと妓楼建築や古い建物が沢山残っているかなと行ってみた。しかし残念ながらめぼしい建物は見つからず。

散策後、近隣の「七福湯」や「道徳温泉」はまだ開いていなかったので、開くのが少し早い「東温泉」まで足を延ばした。銭湯で汗を流した後、乾ききった喉を潤しに寄ったのは酒屋「山忠商店」。こちら所謂”角打ち”が出来る酒屋。しかも建物は名古屋市の登録地域建造物資産にも指定されているので以前から観てみたかったのだ。平屋だが店に入ると天井が高く、土間に卓が用意されていて立ち飲み出来るようになっている。出ていらしたのは若女将。ご高齢の方が出ていらっしゃると思っていたので意外だった。ここで呑ませてもらうことを告げて背後の冷蔵庫から缶ビール(キリン一番搾り)を取り出す。グラスを出してくれ、勘定は後払いとのこと。

プシュッと缶を開け、グラスに注ぐ。カラッカラの喉に冷たいのをグイッと。ウメー。”道徳”で昼間っから不道徳な一杯が嬉しい(笑)。まだ銭湯で体が火照っているのですぐに汗が噴き出してくる。卓の上の魚肉ソーセージももらいつつ、若女将に建物のことを訊くがあまり詳しく知らない様子(→昭和30年代の建物らしいのだが)。店は主人で3代目だとのこと。2000年の東海豪雨までは入口のサッシ扉も木戸だったんだとか。台風で瓦が飛んだりと維持も大変だそう。若女将曰く、日曜以外なら朝から呑めるとのこと。ご高齢の方が集まるらしい。まだどれだけでも呑めるが、この後に用事があったのでもうバスに乗らないといけない。後ろ髪引かれつつ勘定してもらい、再訪を誓った。(勘定は¥420)

 

 


 

↓ 路地の中にある「東温泉」。後から知ったが女優の松原智恵子の実家なんだとか。サウナもあったが体に柄のある方達が何人かで占有していらっしゃったのでさすがに使えず。というか自分以外は皆そっちの方々だった(笑)。いい湯だった。

 

↓ 付近で唯一見つけた古い建物(建築詳細不明)。もう少し艶っぽい建物があるかなと期待したんだけれど。ここまで痕跡が無いってことはそういう街ではなかったんだろうか(→でも後から調べてみるとかつて遊里だったことは間違いないらしい)。

 


 

 

山忠商店

愛知県名古屋市南区観音町1-7

 

( 名古屋 なごや 道徳 どうとく 山忠商店 酒店 酒屋 立飲み 立ち呑み かくうち 登録地域建造物資産 近代建築 銭湯 )

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菊屋茂富 @名古屋市緑区・鳴海

2023年01月12日 | 名古屋(港区・南区・緑区 老舗)

創業安政4年(1857)という長い歴史を持つ和菓子屋「菊屋茂富」へ。店は東海道41番目の宿場町、鳴海宿の街道沿い、ちょうどクランクになった所にある(←「曲尺之手(かねのて)」と呼ぶらしい)。裏手に駐車場があることを知らなかったので少し離れたコインパーキングに車を停め、雨の中傘をさして店に向かった。この店の建物は昭和元年(1929)に建てられ、名古屋市の「登録地域建造物資産」にも指定されている。店内はガラス・ショーケースの中に様々な菓子が並ぶ。出ていらした主人にお願いしたのは上生菓子の「もみじ」「秋錦」「菊」「おみなえし」(訪問11月)、それに「ふくさやき」と「利休饅頭」、干菓子の「鳴海潟」。女将さんも出ていらして包んでもらい、家に持ち帰った。

帰ってすぐ抹茶を点てて妻と分けて上生菓子からいただく。「もみじ」は葉の形をしていて中にこし餡が。ほろほろと崩れるような食感が旨い。「秋錦」は緑、黄、柿、赤という色の練り切りのグラデーションが美しい。中にはこし餡。「菊」は薄紫色のもち米の皮。少しニッキのような風味もあって中にこちらもこし餡。これが何で菊なんだろう。「おみなえし」は花の色を思わせる薄い黄色でほろほろとした口当たりの皮。これも中はこし餡。「ふくさやき」はどら焼のような生地を四角く畳んでつぶ餡を包んである。川には”東海道”と焼き印が入っている。こちらの代表的な菓子だという「利休饅頭」は丸い形で、きれいな艶のある黒糖羊羹でこし餡が包んである。含むと黒糖の風味と甘さが口に拡がって旨い。「鳴海潟」は波と千鳥を描いた干菓子。干菓子はどれも同じような風味かと思いきや、こちらのはとても口溶け良く、妻も特に気に入ったそう。やっぱり違いはあるんだなァ。まだまだ色々な菓子が並んでいたので、次は違う菓子を選んでみよう。(勘定は¥1,600程)

 

 


 

↓ 店と道路を挟んだ隣にある土蔵のある家(建築詳細不明)。後方には風情ある板塀も見えるが広い敷地内の全貌は分からない。かつては街道側に商店が並んでいたようだ。

↓ 街道沿いで気になった建物(建築詳細不明)。日本家屋の敷地内に門を挟んで下見板張りの洋風な建物が隣接している。かなり軒天が深い。

 

 


 

 

和菓子司 菊屋茂富

愛知県名古屋市緑区鳴海町相原町28

 

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餅文総本店 @名古屋市南区・道徳

2022年02月25日 | 名古屋(港区・南区・緑区 老舗)

南区の東海通沿いにある「餅文総本店」へ。創業は万治2年 (1659年) というとてつもない歴史がある店。元は餅屋文蔵という人が錦三(きんさん)辺りで創業したのだとか。堀田方面から自転車で来てみたが、この辺りに土地勘が全く無いので遠く感じる。店は大きな建物でピンク色の暖簾が掛かっていた。店内は大きなガラスショーケースに沢山の種類の菓子が並べられているが、こちらで有名なのはもちろん「ういろ」。ういろだけでも色々な種類と味があり、数えきれないほど。あまり大きなのを買うと食べ切れないので「献上ういろ・黒」と季節限定の「さくらさくら」というののハーフ・サイズを購入した。袋に入れてもらい持ち帰る。「(コロナ禍で)お茶も出せませんで。」と小さな「桜餅ういろ」をおまけで付けてくれた。

「献上ういろ」は最高級の米粉を使用しているとのこと(ただこの上にまだ”極上”というランク有り)。箱とビニール袋から出して、適当な大きさにカットしていただく。生地は透明感がありプルプルとした弾力がある。口にいれてみるともちもちとした食感で、ほのかに黒糖の風味が口に残る。なるほど旨い。「さくらさくら」は春限定の味。表面には桜の葉が施してある。「献上ういろ」と比べると軟らかく、口に入れるとねっとりとした食感。塩漬けの桜葉の風味が鼻腔に残って、これもいい感じ。若い頃は全然旨いと思わなかった「ういろ(ういろう)」も自分で抹茶を淹れたりするようになってからだんだん好きになってきた。(勘定は¥1,080)

 

 

餅文総本店

愛知県名古屋市南区豊2-36-24

 

( 名古屋 なごや 餅文 ういろ ういろう 外郎 献上ういろ 和菓子 餅屋文蔵 老舗 )

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大黒屋 @名古屋市南区・内田橋

2018年03月22日 | 名古屋(港区・南区・緑区 老舗)

かつてはかなりの賑わいだったという南区内田橋の商店街。東海道の交通要所「宮宿(熱田宿)」からすぐなので足を延ばしてみた。広い幹線道路に挟まれた商店街は日曜ということもあってかシャッターの閉まった店が多く、かなり静か。そんな中にしっかりと暖簾が掛かった店があった。昭和初期に創業したという麺類食堂「大黒屋」。現在は3代目だという歴史のある店で、ご高齢の夫婦で商っていらっしゃる。店に入ると鮨屋のようなカウンター上の冷蔵庫があるが、ここには天種が並んでいる。”天麺”と謳っているくらい天ぷらが評判のようだ。大小のテーブル席がある店内には演歌が流れ、閑散とした周囲とは裏腹に結構な客入り。家族連れの客が多かった。品書きには麺類とご飯物の色々な組み合わせが載っており迷ったが、その時の気分でざるそばとミニ天丼の「ミニミニセット」という老舗らしくない名称(笑)のものを注文した。

しばらくして盆にのったセットが運ばれる。ミニミニといってもそばの量はしっかりと1人前ある。刻み海苔がのったそばは喉越しの良いもの。つゆはやや甘めだが濃くはない。もちろん趣味蕎麦とは違うので練りわさびもつゆに溶いちゃって食べて差し支えない感じのもの(実際こういうそばにはそれも嫌いじゃない)。天丼には小さめの海老と南瓜と大葉の天ぷらがのっている。濃いめのつゆをくぐっていて老舗の天丼らしい。こちらはずばりミニのサイズ。どちらも美味しくいただいた。次は暖簾にも書かれていて品書きの先頭だったきしめんと天ぷらの盛り合わせのセット「天めん」にしよう。(勘定は¥900)

 


 

↓ かつて東海道の重要な交通要所だった宮宿(熱田宿)の「七里の渡し(宮の渡し公園)」を山崎川河口から望む。

↓ 河口近くにあった粋な建物「笑和」(建築詳細不明)。現在は老人ホームとなっているが(このパターン多い)、往時は客で賑わったのだろう。

 

↓ 「宮の渡し公園」の船着き場の周辺には250軒もの旅籠が並んでいたそうな。破風も立派な以前旅籠だった建物「丹羽家住宅」(建築詳細不明)

 

↓熱田宿に残る「旧・魚半別邸(洋館)」(大正13年・1924・建造)。観音開きの鎧戸が錆びて不気味だが、今のうちに錆び止めしておかなくていいのかな…。

 

↓ 屋上は展望台となっていて地下には浴室があるのだとか。現在はNPO法人によって管理されているようだ。ただ手作り感は溢れるが、少々乱雑な建物周りが残念。

 

 

 


 

 

天麺 大黒屋

愛知県名古屋市南区内田橋1-5-10

 

( 名古屋 なごや 内田橋 うちだばし 内田橋商店街 だいこくや 天麺の大黒屋 天めん てんぷら 天麩羅 天婦羅 麺類食堂 饂飩 うどん 蕎麦 そば 近代建築 )

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