はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

小さな大冒険

2021-03-15 11:25:33 | はがき随筆
 ある有名な川の源流。そこか ら湧き出る澄みきった神秘的な 水ー。そうした映像をふとし たきっかけで見た。「源流」と いう言葉など知らない小学生時分の小さな大冒険が胸をよぎる。
 それは単純な疑問から始まっ た。この小川の上流はどうなん だろう、そこへ行ってみよう、 と深く考えもせず向かった。今 にして思えば無謀極まりない。
 親や先生にばれてしまえば、厳 しく叱られるかもしれなかった。だが、そんな心配はつゆほどもしなかった。 山も小川も、畑や雑草の広場も、全て遊び場で怖さなどみじんもなかった。
 山の麓で川に入り、浅い流れの中を上流へ進む。二つの砂防ダムを越える。勾配は次第にきつくなる。 だがさして苦ではなかった。 しばらく行くと、谷幅は狭くなり勾配が増した。 両側の山肌から垂れ下がる木の枝や背丈以上の雑草に阻まれて、進めなくなった。
 そこら辺りまで、うっすらと記憶に残っている。 子どもだから、割とあっさり諦めて引き返 したのかもしれない。だから記憶にないのかもしれない。
  小川は、子どもにとってはフナを釣る遊び場だった。 大人の社会では、錦帯橋の架かる本流の錦川へ届くまで、家庭用の井戸水や途中に広がる稲田の大切 な水源だった。 
 その稲田。今は幹線道路が通り、広い商業地帯となっている。  かつてをしのぶものはない。 散歩の折、小川の源流を目指して山を見上げる。 遠い山は昔のままで変わらない。
  無職 片山 清勝(80)=岩国市 ひといき欄掲載 岩国エッセイサロンより


 疱瘡の感染対策学ぶ

2021-03-15 11:04:27 | はがき随筆
 新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が10都府県で1カ月延長されることに なった。 厳しいけれど改めて外出を控える重要性に心するとともに、1月4日付「天風録」を思い出す。
 その中に「疱瘡が流行した江戸時代、岩国藩は患者用の生活費も負担して隔離政 策を採ったという」との一節があった。疱瘡とは天然痘のこと。 私はこのことをおよそ10年前に知り書き留 めていた。
 岩国藩は疱瘡を恐れ、藩主を守るためさまざまな方策を取った。発病した本人 はもちろん、家族や患者と接した者は、定められた地域に隔離された。隔離後は家族といえども接近すらさせなかった。 また、患者の家に対しては隔離療養の費用を支給したという。 江戸時代、はやり病につ いてどれほどの情報と知識 があったのだろうか。そう した中で、感染症である疱瘡との闘いの基本が隔離で あり患者との非接触であった。現代医学の下でのコロ ナ対策と類似していることに驚いている。 
  (岩国市) 無職 片山 清勝8歳

孫娘の笑顔の写真

2021-03-15 10:47:13 | はがき随筆
 関西に住む孫娘は今春学業を終え、社会人の仲間入りをする。大学の4年間は学校、バイト、留学など学生でしかできない多くの経験をして悔いのない学生生活を送れた、と喜びを知ら せてきた。私ら夫婦は安堵 し、よかったと心から喜ぶ。
 新型コロナウイルス禍で 卒業旅行も帰省もできない。そんなこともあり、今 は就職後の配属によっては自炊になるかもしれないと いうことで食事作りを練習 しているという。時々その出来栄えの写真をLINEで送ってくる。先日は「卒業式の前撮り、写真屋さん にスマホで撮ってもらっ た」と送ってきた。 スマホ 撮りとは思えないプロの構 図と写りに驚く。早速プリ ントして額に入れた。
 わずか2枚だが、コロナ 禍で自粛中の家の中が、写 真の笑顔でにわかに明るい 感じに変わった。写真を眺 めながら、息子夫婦の喜ぶ 顔が浮かぶ。お世話になっ た多くの方々への感謝を忘 れないようにと返信した。
無職 片山 清勝(80) (山口県岩国市) 岩国エッセイサロンより