はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

鶴渡る里

2021-03-21 16:18:47 | はがき随筆
  鶴渡る出水の地に生まれ70年になるが、今年ほど鶴に思いを寄せて見たことはなかった。
 世の中はコロナ禍で人と人が会えない、集まれない。人間の一番大切な部分が制限された。そして鶴にも鳥インフルエンザの危機が迫った。
 親子で寄り添う姿、群れで憩う光景はまぶしく、どうか無事でありますようにと祈るような思いで眺めた。青空に舞う鶴にも同じ思いで手を振った。
 夕方鳴きながらねぐらへと帰る長い鶴の竿。夕日に影を置き神々しい。遠い昔からの美しい冬の風景である。永遠に鶴の渡り来る里でありますように。
 鹿児島県出水市 塩田きぬ子(70) 2021/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載


しんきろうの島

2021-03-21 16:10:46 | はがき随筆
「往診の道すがら見ししんきろう」。句碑の建つ山道から、 眼下に見える下甑島瀬々野浦集落。沖にナポレオン岩がそびえ立っている。
 コミック「Dr.コトー診療所」を読んでいる。 診療の角を右に曲がると公民館があり、橋を渡るとい50㍍先に我が家の住む集合住宅があった。20年ほど前に3年間住んでいた。 
  Dr. コトーのモデルになった先生は、わらじを履いて診察をしていた。島の暮らしは、当 時小学生だった3人の息子たちの人生を色濃く彩っている。もう一度、堤防から見える夕日を見てみたい。
 鹿児島県霧島市 白坂功子(63) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載 

2を見落とし

2021-03-21 08:48:46 | はがき随筆
 尿意で目覚める。薄暗がりで見たデジタル時刻は348。 5時間ぐらい眠ったなとトイレに向かう。腕時計を確かめるとまだ11時8分。なんだこりゃ、故障かと思ったが、針は確実に時をを刻んでいる。部屋に戻り見直すとデジタル表示は2350。なんと2の見落としだった。わずか1時間の眠り、日付も変わっていなかったわけ。
 まだ暗い3時や4時に目覚めるのはごく普通なので、無意識 のうちに3時と思い込んだのだろう。こんなこと、高齢化に伴い誰でも起こるのか、寝ぼけ眼ミスか。 交通事故もそうだが、見落としに注意と反省しきり。
 熊本市東区 中村弘之(84) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載



旅と音

2021-03-21 08:35:34 | はがき随筆
 60歳代のとき、年に数回海外旅行に行った。美しい風景などのほか、意外と現地で聞いた音が思い出として残っている。
 イスタンブールでは、街中に鳴り響いた、お祈りが始まる合図「アザーン」。スイスのルツェルンでは、散歩中に上から降ってきた、とんでもなく大きかった教会の鐘の音。シルクロードの街カシュガルでは、バザール中に響いていた、ウイグル族のおじさんのかけ声。
 旅の思い出はさまざまあるが、この三つの音は今でも鮮やかによみがえってくる。そして、そのとき一緒にいた、亡くなっ た兄を思い出す。
 熊本市北区 岡田政雄(73) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載


闘魂

2021-03-21 08:25:02 | はがき随筆
 食事中に何気なくテレビを見 ていたら数秒のニュースの中で アントニオ猪木の療養姿が映った。腰が悪くてリハビリしている覇気のない姿に驚いた。
 今から40~50年前、彼のプロレスに憧れ、三拍子のリズムにのって「ガン」「バレ」「イノキ」と声援をおくった。その気持ちを仕事に置き換えて頑張っ 。 
 弱音をはいたり壁にぶち当た ったりすると、彼の闘魂を思い出し、人生を乗り切ってきた。
 まだ78歳。人は老いるが猪木だけは違う気がする。 若い頃に活力をもらった。早く元気になって活躍する姿を見たい。
 宮崎県日南市 桑原健二(72) 毎日新聞鹿児島版掲載

お陰さま

2021-03-21 08:12:46 | はがき随筆

 散歩の帰りに近所の方にばったり会い、新型コロナウイルスの話になった。 彼いわく「ステ イホームで石油ストーブがどんどん売れて在庫がないらしい」と。我が家では石油ファンヒー ターに替えて30年以上たつ。石油ストーブのよさを思い出し、欲しくなった。家に帰り、夫に相談して買うことに。量販店2  軒目に小ぶりのものが一台あった。
 居間兼台所に置き、さっそくお芋も焼いた。そういえば、亡 き母はやかんの余ったお湯をお風呂に入れていたっけ。 外に出て、彼と話したお陰でコロナ下 の生活に変化が生まれた。
 鹿児島縣いちき串木野市 奥吉志代子(72) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載