はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

脳トレ

2021-03-22 16:52:36 | はがき随筆
 脳の活性化を意識して、毎日新聞のはがき随筆書きやカラオケを楽しんでいる。
 しかし、昨今は脳の老化が進んでいるらしくて、物忘れが酷くなったなあと痛感している。
 随筆の原稿を書いていると漢字のど忘れが多いので、辞書を手元に置いているありさまである。私の随筆が新聞に掲載されていると、この次もまた投稿するぞ、と元気が出てくる。
 脳を鍛えて老化を遅らせる。すなわち脳トレが目的である。心身共にまだ健康だし、年齢には関係なく、毎日新聞に感謝しながら、適当な題材を探して書き続けようと思っている。
 熊本市東区 竹本伸二(92) 2021/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載

鶴渡る里

2021-03-21 16:18:47 | はがき随筆
  鶴渡る出水の地に生まれ70年になるが、今年ほど鶴に思いを寄せて見たことはなかった。
 世の中はコロナ禍で人と人が会えない、集まれない。人間の一番大切な部分が制限された。そして鶴にも鳥インフルエンザの危機が迫った。
 親子で寄り添う姿、群れで憩う光景はまぶしく、どうか無事でありますようにと祈るような思いで眺めた。青空に舞う鶴にも同じ思いで手を振った。
 夕方鳴きながらねぐらへと帰る長い鶴の竿。夕日に影を置き神々しい。遠い昔からの美しい冬の風景である。永遠に鶴の渡り来る里でありますように。
 鹿児島県出水市 塩田きぬ子(70) 2021/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載


しんきろうの島

2021-03-21 16:10:46 | はがき随筆
「往診の道すがら見ししんきろう」。句碑の建つ山道から、 眼下に見える下甑島瀬々野浦集落。沖にナポレオン岩がそびえ立っている。
 コミック「Dr.コトー診療所」を読んでいる。 診療の角を右に曲がると公民館があり、橋を渡るとい50㍍先に我が家の住む集合住宅があった。20年ほど前に3年間住んでいた。 
  Dr. コトーのモデルになった先生は、わらじを履いて診察をしていた。島の暮らしは、当 時小学生だった3人の息子たちの人生を色濃く彩っている。もう一度、堤防から見える夕日を見てみたい。
 鹿児島県霧島市 白坂功子(63) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載 

2を見落とし

2021-03-21 08:48:46 | はがき随筆
 尿意で目覚める。薄暗がりで見たデジタル時刻は348。 5時間ぐらい眠ったなとトイレに向かう。腕時計を確かめるとまだ11時8分。なんだこりゃ、故障かと思ったが、針は確実に時をを刻んでいる。部屋に戻り見直すとデジタル表示は2350。なんと2の見落としだった。わずか1時間の眠り、日付も変わっていなかったわけ。
 まだ暗い3時や4時に目覚めるのはごく普通なので、無意識 のうちに3時と思い込んだのだろう。こんなこと、高齢化に伴い誰でも起こるのか、寝ぼけ眼ミスか。 交通事故もそうだが、見落としに注意と反省しきり。
 熊本市東区 中村弘之(84) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載



旅と音

2021-03-21 08:35:34 | はがき随筆
 60歳代のとき、年に数回海外旅行に行った。美しい風景などのほか、意外と現地で聞いた音が思い出として残っている。
 イスタンブールでは、街中に鳴り響いた、お祈りが始まる合図「アザーン」。スイスのルツェルンでは、散歩中に上から降ってきた、とんでもなく大きかった教会の鐘の音。シルクロードの街カシュガルでは、バザール中に響いていた、ウイグル族のおじさんのかけ声。
 旅の思い出はさまざまあるが、この三つの音は今でも鮮やかによみがえってくる。そして、そのとき一緒にいた、亡くなっ た兄を思い出す。
 熊本市北区 岡田政雄(73) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載


闘魂

2021-03-21 08:25:02 | はがき随筆
 食事中に何気なくテレビを見 ていたら数秒のニュースの中で アントニオ猪木の療養姿が映った。腰が悪くてリハビリしている覇気のない姿に驚いた。
 今から40~50年前、彼のプロレスに憧れ、三拍子のリズムにのって「ガン」「バレ」「イノキ」と声援をおくった。その気持ちを仕事に置き換えて頑張っ 。 
 弱音をはいたり壁にぶち当た ったりすると、彼の闘魂を思い出し、人生を乗り切ってきた。
 まだ78歳。人は老いるが猪木だけは違う気がする。 若い頃に活力をもらった。早く元気になって活躍する姿を見たい。
 宮崎県日南市 桑原健二(72) 毎日新聞鹿児島版掲載

お陰さま

2021-03-21 08:12:46 | はがき随筆

 散歩の帰りに近所の方にばったり会い、新型コロナウイルスの話になった。 彼いわく「ステ イホームで石油ストーブがどんどん売れて在庫がないらしい」と。我が家では石油ファンヒー ターに替えて30年以上たつ。石油ストーブのよさを思い出し、欲しくなった。家に帰り、夫に相談して買うことに。量販店2  軒目に小ぶりのものが一台あった。
 居間兼台所に置き、さっそくお芋も焼いた。そういえば、亡 き母はやかんの余ったお湯をお風呂に入れていたっけ。 外に出て、彼と話したお陰でコロナ下 の生活に変化が生まれた。
 鹿児島縣いちき串木野市 奥吉志代子(72) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載


 大道 芸

2021-03-20 16:38:32 | はがき随筆
 大道芸の若い外人さん。「ワタシでんまーく人デス」。長い風船で中学生をさして「ハァイ、 アナタ、でんまーくノ首都ハ?」「コペンハーゲン」。即答に拍手が起きたコロナ禍前。
 ワタシは (デン助さんはコペンとハゲる) と教えた、遠い日の妹を思い出した。 デン助さんはハゲのかつらの、その頃売れていたコメディアンだ。 
 街頭から大道芸が消えた。 外 人さんもデン助さんも記憶の中で消えかかる。
 「はぁい、皆さん。新型コロナ大変だったですね」――。そんな言葉で始まる大道芸が、きっと復活すると信じている。
 宮崎市 岡田政雄(73) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載

マスクはいつまで

2021-03-20 16:32:37 | はがき随筆
 「あんた誰け」「私じゃが」 |顔を見合わせ、マスクを顎ま でずらして大笑いしている。
 北方町運動公園で、高齢者の グラウンドゴルフ大会が開催さ れた。100人ほどの男女が年 1回の大会を楽しみに集まる。
 気温も上がった。上着を脱い だり、マスクに手をやったりする人が目立つ。外したいのだろうか。 それでもコロナウイルスの怖さを知っているから誰も外 さない。「三密、三密」と苦笑 いしながら距離を取る仲間がいた。冗談だと分かっているから 笑って済む。コロナ騒動が持ち 上がって1年が過ぎた。 素顔に 戻れる日はいつくるのだろう。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(76) 2021/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆の2月度

2021-03-19 10:17:19 | はがき随筆
はがき随筆 2月度の受賞は次の皆|熊本皆さんでした。 (敬称略) 
月間賞に廣野さん(熊本)
佳作は川畑さん(宮崎)、山下さん(鹿児島)、西さん(熊本)
一 神さん」西洋史―熊本市北区



 【月間賞】19日 「時間」廣野香代子県八代市
【佳作】27日「明るい出会い」川畑昭子=宮崎市
△2日 「シャンプー」山下秀雄=鹿児島県出水市
△28日「天神さん」西洋史=熊本市北区
 
 私たちの生涯は、一つの歴史といえます。歴史は時間といってもかまいません。廣野さんの「時間」は、そのような観点から、自分のために使う時間と、他人のために使う時間との関係の難しさをとり上げた優れた文章です。
 母は、夫や祖母や親類という他者にばかり時間を使って、自分のためには使わず、年老いた。娘は意を決して、祖母と父とを施設に預けた。娘にも母にも当然うしろめたさは残る。しかし、母はようやく自分の時間を自分で使う、安穏の生活を得た。高齢化社会の中の私たちを待ち構えている問題が、簡潔な文章のなかに暗示されています。
  「明るい出会い」は、散歩の途中で支援学校の子供たちに出会った時の感想です。その中の一人が、自作らしい浪曲のような物語をつぶやいていたので、褒めてやると明るい返事が返ってきて屈託がない。 昨今のニュースなどでは、何らかの意味で心身が不自由な弱者を排斥するなどの、社会の余裕のなさが感じられます。確かに、私たちの社会が弱者にも寛容さを保つように努めたいものです。
 「シャンプー」は、本を読み通せないという悩みに、理容院のご主人は少しずつ読めばそのうちに読みおおせていると言い、シャンプーも少しずつ使うが、いつの間にかなくなっていると教えてくれた。そういえば、私の髪の毛もいつの間にやわせかくなりかかっている。飛躍と比喩とがうまく活かされ、最後のユーモアがみごとな文章です。
 「天神さん」は、孫に、梅干しの種を割って天神さんというらしい核を食べることを教えたら、自分の家でも祖父母の家のその他の食習慣を取り入れ出した。そのことを手放しで喜んでいる祖父の様子が彷彿とする、ほほ笑ましい文章です。 昨今の私たちの家庭で、 孫と交流があること体が恵まれたことかもしれません。
 この他に、永井ミツ 子さんの「小さな幸福」、秋峯いくよさんの「練炭火鉢」、相場和子さんの「隠れ蓑」が印象に残りました。
鹿児島大学名誉教授 石田 忠彦

◆係から
廣野さんの月間賞を 巡るインタビューが28 日 (日) 午前7時10分からのMRT宮崎放送ラジオ番組「潤子の素敵に朝!」で放送予定です。番組再編でインタビューは今回が最後です。「宮崎ほっとタイム」(水曜午前9時15分から5分間)の中でも掲載作が朗読されることがあります。
 また、MBC南日本放送ラジオでも、掲載作が27日 (土) 午前9時半ごろから朗読され ます。「二見いすずの土曜ラジオ!」のコーナー「朝のとっておき」です。

2021-03-19 10:08:55 | はがき随筆
 今でも忘れられない友達がいます。若い時から何でも話し合える友達でした。その友達が、大恋愛をして親から大反対されました。それはそうです。 相手は旅回り劇団の雑用が仕事とのこと。友達のAさんは親が許さないなら阿蘇山に飛び込むというので仕方なし。2人は結婚しました。相手の人は苦労人で良く人の世話をされていました。 Aさんはあの人が死んだら私もすぐに死ぬと言っていました。 2人は子供、孫ができました。 風の便りに主人が亡くなられたと聞き、1カ月後にAさんの死を知りました。人生の不思議な縁を感じずにはいられません。
 熊本県八代市 相場和子(94) 2021/3/19 毎日新聞鹿児島版掲載

刃の山

2021-03-18 08:50:33 | はがき随筆
 高隈山系では炭焼き跡があちこちで今でも見られる。7年前 までに3回ほど登っていたが、 山仲間と久しぶりに挑戦した。 数年前の垂水洪水で木々が倒 れ、岩肌が出ている。地元の山の会が設置したアルミのはしごも流されている。その代わり岩 にはクサリが設置されており、どうにか登れた。急登に息を弾ませ、仲間と遅れてようやく山 稜に出た。岩峰の展望台ではガスで見えなかった。 引き返して第2展望台の大岩にて昼飯 で、ガスも消えて満足なり。しかし5時間以上の山登りは、この山では体力面から最後であろう。その山の名は刀剣山なり。
 鹿児島市 下内幸一(71)  2021.3.18 毎日新聞鹿児島版掲載

夫のボサボサ髪

2021-03-17 22:06:32 | はがき随筆
  12月最後の日曜日、髪はボサボサ、ひげも伸びている。喫茶店で斜め向かいに座った主人をまじまじと見てしまった。 サー私が「散髪行ったら」と言っても「行かない」と言うだけだろう。黙っていよう。 自宅に帰 ると、主人が「散髪行ってくるわ」と自転車で出ていった。珍しい。自発的に行くとは......。
  「おぉー寒い寒い」と言いな がら、散髪から帰ってきた。 顔もさっぱりつるつるしている。 「わぁーお正月がきたみたいね。いいね」と、思わず主人の顔をのぞきこんでしまった。 私もや っとスイッチが入った。とり急 ぎ掃除機をかけよう。 |
 宮崎市 鶴園真知子(58)  2021/3/17 毎日新聞鹿児島版掲載


#わきまえない

2021-03-16 10:13:10 | はがき随筆
 「女性の役員が多い会議は長くかかる」という森元総理の言葉を私はぼやーっと聞いて女性は正すべき事を正し熟議するという誉め言葉だと勘違いしてしまった。よく聞いたら真逆だった。この方は女は立場をわきまえて黙っているべきとお考えなのか。早速#わきまえない女性たちが声を上げ始めた。 |
 しかし裏返せば男性ばかりの会議ではなあなあで直ぐ終わるという事か。男性は意見を言う勇気も能力も無いという事になる。これって目下の男性への蔑 視じゃないのか。だから付度なんかも起きる。 #わきまえない 男性も声を上げてほしい。
 熊本市中央区 増永陽(90)   2021.3.16 毎日新聞鹿児島版掲載


小さな大冒険

2021-03-15 11:25:33 | はがき随筆
 ある有名な川の源流。そこか ら湧き出る澄みきった神秘的な 水ー。そうした映像をふとし たきっかけで見た。「源流」と いう言葉など知らない小学生時分の小さな大冒険が胸をよぎる。
 それは単純な疑問から始まっ た。この小川の上流はどうなん だろう、そこへ行ってみよう、 と深く考えもせず向かった。今 にして思えば無謀極まりない。
 親や先生にばれてしまえば、厳 しく叱られるかもしれなかった。だが、そんな心配はつゆほどもしなかった。 山も小川も、畑や雑草の広場も、全て遊び場で怖さなどみじんもなかった。
 山の麓で川に入り、浅い流れの中を上流へ進む。二つの砂防ダムを越える。勾配は次第にきつくなる。 だがさして苦ではなかった。 しばらく行くと、谷幅は狭くなり勾配が増した。 両側の山肌から垂れ下がる木の枝や背丈以上の雑草に阻まれて、進めなくなった。
 そこら辺りまで、うっすらと記憶に残っている。 子どもだから、割とあっさり諦めて引き返 したのかもしれない。だから記憶にないのかもしれない。
  小川は、子どもにとってはフナを釣る遊び場だった。 大人の社会では、錦帯橋の架かる本流の錦川へ届くまで、家庭用の井戸水や途中に広がる稲田の大切 な水源だった。 
 その稲田。今は幹線道路が通り、広い商業地帯となっている。  かつてをしのぶものはない。 散歩の折、小川の源流を目指して山を見上げる。 遠い山は昔のままで変わらない。
  無職 片山 清勝(80)=岩国市 ひといき欄掲載 岩国エッセイサロンより