はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

最期のとき

2017-12-05 17:07:57 | 岩国エッセイサロンより
2017年12月 4日 (月)
   岩国市   会 員   片山清勝

 5年ほど前、妹の連れ合いが難病と診断された。全快の約束はなく、妹たちはそれなりの心構えをした。痛みの緩和はもちろん、余病の併発にも注意を払いながら、入退院を幾度となく繰り返していた。
 ある日、主治医から複数の延命策について説明があった。義弟は延命治療を望んでいなかったものの、それでも妹は、3人の子どもとしっかり話し合った。「夫の厳しい症状を考え、延命治療は受けないことにした」。そう決めた妹の表情は、苦渋に満ちていた。いつかはこうなると覚悟し、心の準備はしていたが、いざ直面すると、皆、沈黙した。
 夫として、父として、そして祖父として…。妹たちは、これまでに義弟から受けた深い思いやりに感謝し、手を握り、体を優しくなでながら、最期のときを見守った。傍らにいて胸を打たれた。
 義弟は73歳で生涯を終えた。闘病の苦しみを感じさせない、寝顔のように穏やかな表情に救われた。
 妹の長男は、会葬者を前に、遺族としてしっかりとした内容のあいさつをした。聞いていて「義弟は安らかな気持ちで彼岸へ旅立った」と私は信じた。

   (2017.12.04 中国新聞「明窓」掲載)