はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

花も生きている

2017-12-14 08:58:56 | はがき随筆


 今年も大好きなビオラ約40本を無事植え終えた。今は葉に照りがでて株も太くなりつつある。正月に合わせて一斉に咲かせる。それまではつぼみを付けるビオラと「まだよ」と摘み取る私とのいたちごっこが続く。
 咲き始めると花がら摘み、水やり、肥料やりは欠かせない。これに応えて厳寒から春までけなげに咲き誇ってくれる。
 朝一番に花たちに会いに出る。とりどりの優しい色を眺める。とても癒される一時である。実はここ数年無残にも花株を抜き取られてしまう。残念無念。せめて今年はこんな被害にあわない事を願っている。
  鹿屋市  日高美代子  2017/12/14  毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆11月度

2017-12-14 08:03:11 | はがき随筆
 はがき随筆の11月度月間賞は次の皆さんでした。
 【優秀作】4日「疑心暗鬼」若宮庸成=志布志市有明
 【佳作】20日「一人前」野崎正昭=鹿児島市玉里団地
▽30日「遊んでから」秋峯いくよ=霧島市溝辺町


 「疑心暗鬼」は、深夜にジェット機の音で目を覚まし、半睡の中で、米国の爆撃機が空爆から戻る音かと想像したら、眠れなくなったという内容です。現下の両国の宣伝戦だけでなく、ミサイルが飛ぶ事態は、私たちの意識下に危機感を植えつけるようです。戦時中の空襲警報や空襲を体験した世代には、ことは深刻です。
 「一人前」は、人生に対する興味深い解釈です。人には成人や就職や結婚など「一人前」と呼ばれる時期が数回あって、その最後は天命を全うしたときだと言う。その意味では、生きている間は「半人前」ですが、半人前でも生きていたいというのも、人情です。
 「遊んでから」。小学生のとき、同級生の家に月刊雑誌を見せてもらいに行くのが楽しみだった。ところがなかなか見せてくれない。遊ぶだけ遊んで帰る間際に、やっと見せてくれる。それでも、すでに亡くなった彼女の思い出は懐かしい。雑誌というか活字というか、それへの渇望があの時代には確かにありました。読んでいても懐かしい内容です。
 この他に3編紹介します。
 年神貞子さんの「家庭菜園」は、トマト栽培の話です。脇芽を摘んで差し芽したら、茎はどんどん伸びるが肝心の実がならない。園芸雑誌によると、トマトは暑過ぎると結実しないとのこと。確かに涼しくなったら、大きな実がなりだした。新しいことを知るのは楽しいですね。
 畠中大喜さんの「直角と草」。戦時中、空襲がはげしくなると、神社などに避難しての授業だった。拝殿の板の間に座り、小さな黒板の前で学んだためか、直角と草の漢字を習ったことははっきり覚えている。漢字を学んだ記憶と時代の状況の変化とを、並行して、うまくまとめた文章です。
 胡蘭之さんの「鹿児島での暮らし」は、中国人留学生が鹿児島の人々の優しさに触れた印象記です。テレビ番組でも最近よく、外国人による日本の好印象が流されていますが、戦前の軍国日本の悪印象に逆戻りしないことを願うばかりです。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦  201712/13 毎日新聞鹿児島版掲載

魅せられて

2017-12-14 07:30:08 | はがき随筆


 隣家の金木犀の香りが漂い、優雅な香りに思いをとどめる。華麗さと奥ゆかしさが重なり、風が立つと香りが風に乗って右に左に揺れる。木に話しかけるように人情味がじわっとにじみ出る。辺りの空間は金木犀色に深まる。もったいない。魔法の香りは何か取り置きができるなら、金庫にでも袋に詰めてでも懐に温め包んでしまいたい。可憐な花弁を女児の髪に飾ってあげたい。小さな喜びが小さな瞳にあふれ出る。一枝を頂戴した。グラスに差した。シンプルな食卓は鏡のごとくまぶしく光った。黄橙色の花弁は夢の中の淡いベールに包まれた。
  姶良市  堀美代子  2017/12/13  毎日新聞鹿児島版掲載

似顔絵

2017-12-14 07:15:43 | はがき随筆
 元毎日新聞の記者で大学でも教鞭をとっていた、S氏からメールが届いた。20年ほど前までは、朝鮮半島情勢というと、この人がほとんどテレビなどで解説していた。
 なぜ私にと通信文を読むと、私が以前週刊誌に投稿した、彼の似顔絵の使用依頼た。「来年4月開講のインターネット大学の授業で使いたい」と。これまでも学生に見せていたそうだ。「毛が3本の絵と、彼らにからかわれましたが、可愛く描いていただき」と感謝していた。デフォルメし過ぎた絵と心配したが、本人が気に入ってくれているので、OKですと返信した。
  鹿児島市 高橋誠  2017/12/12 毎日新聞鹿児島版掲載

野外散策

2017-12-14 07:06:52 | はがき随筆
 台風一過の秋晴れの中、田園の小道を園児たちが列を成して歩いてくる。私の家の門前で先生が列を整えている。布団干しの妻が垣根越しに何やら園児に笑顔で声を掛けている。
 その光景を二階の窓から見ている私は、自分と重ね合わせた。虚弱な私を母は、どんな思いで保育園へ送り出したのか。
 乳母車に乗っている子、泣いている子、笑顔の子、後ろから歩く子、おしゃべりの子。どんな子に私は似ていたのだろうか。園児たちに「みんな大丈夫だよ」と胸中で言った。私が、この年までなんとか生存しているから。
  出水市  宮路量温  2017/12/10 毎日新聞鹿児島版掲載

出水地域文化祭

2017-12-14 06:59:20 | はがき随筆
 汗と、ひたすらと、積み重ねがあった。
 10月28日と29日に出水地域で開かれた文化祭。展示発表部門と芸能発表部門を見た私の感想である。
 理科記録展で熱心に研究記録を見ている小学生がいた。「あなたの作品?」と聞くと「お姉さんの!」と言う。
 私は、姉を参考にして学んでいくんだ、と思った。
 短歌の色紙、書、絵画、写真、焼物、茶道などなど見られた。日本舞踊も見た。私の作詞の「ふるさと出水」を舞ってもらった藤間流の、しっとりした立ち方の舞にも心を打たれた。
  出水市  小村忍  2017/12/9  毎日新聞鹿児島版掲載

砂浜の老夫婦

2017-12-14 06:46:14 | はがき随筆
 「年はとりなくないわねえ」
 病院嫌いのカミさんも78歳、最近ではこんな言葉を口にするようになった。この日は咳がなかなか止まらないため診察を受けた。午後4時前に処方箋薬局へ車で送った。薬を受け取ったカミさん「お医者さんに歩くように言われたから、海岸を少し歩こうかな」というので花里浜に向かった。カミさんは歩き始める。沖の方に釣り船らしき小舟が2隻浮かんでいる。久々に顔を見せた太陽を仰いで砂浜を歩いて、カミさんは「気分爽快」。つえをつきながらでも、少しは歩いてみようか……81歳の私もそんな気にさせられた。
  西之表市  武田静瞭  2017/12/8  毎日新聞鹿児島版掲載


なんで今ごろ

2017-12-14 06:37:30 | はがき随筆
 聞こえるのは風雨と波の音、早朝4時を過ぎたところです。前日のゴルフが心地よい疲れとなり深い眠りを与えてくれました。台風は北上中で、上陸が心配される10月末の台風です。
 一人起きて新聞に目を通し、物思いにふけるのも楽しいひとときです。80年近く生きたのですから、思い浮かぶことに事欠きません。若気の至りや単なる思い込みで、思いだしたくないこともありますが、今の幸福に至るにはすべて必然の出来事であり、経験だったのでしょう。
 上陸が危惧される台風ですが、記憶に残ることなく通過してほしいものです。
  志布志市 若宮庸成  2017/12/7 毎日新聞鹿児島版掲載

補助輪

2017-12-14 06:30:33 | はがき随筆
 ようやく息子は自転車の補助輪を外した。齢7歳の秋である。ハンドルを構え、姿勢を整え、こぎ始めさえクリアすれば、あとはバランスを取るだけた。風を切る彼の後ろ姿は全能感に満ちていた。翌日には吹上浜のサイクリングコースを猛スピードで駆け抜け、同級生に乗り方の指導までしていた。
 遺伝子は姿形や体質は伝えるけれど、知識や技術までは引き継がない。もしかすると、それは、獲得の喜びを味わうために生物が作りだした知恵なのかもしれない。補助輪のない自転車が彼に教えたのは、新しい扉の開き方なのかもしれない。
  鹿児島市  堀之内泉  2017/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

手編みの青年

2017-12-14 06:17:52 | はがき随筆
 金木犀の香る頃、バス停でうつむき、熱心に三角ストールを編み続ける青年と出会った。勇気を出して話しかけてみた。以外にも明るく好青年だった。手は休むことなく、煩わしい質問にも答えてくれた。誰のために編むでもなく親から教わり、慣れた手つきで、図柄も頭の中にインプットされているようだ。手の動きが早いのには驚いた。母親から譲り明けた年季の入ったカギ針を自慢げに見せてくれた。そう言えば、私にも手編みに夢中な頃があった。見知らぬ青年に元気をもらい、帰路に就いた。爽やかな秋の風が心地よく、疲れも一気に吹き飛んだ。
  鹿屋市 中鶴裕子  2017/12/4 毎日新聞鹿児島版掲載

スクラップ脱線

2017-12-14 06:09:28 | はがき随筆
 私の部屋にひと月前からの毎日新聞が積んである。特集記事や連載小説などをスクラップする宝の山だ。私用だけでなく、仕事にも利用し重宝したのも1.2度ではない。スクラップ中読み込んで時間がたってしまうことも度々。最近の例では衆議院総選挙がそう。新しい野党の誕生で与野党逆転も予測されたが、選挙後の新聞に目を移せば与党の大勝が報じられている。つのだじろうの漫画「恐怖新聞」は、未来の出来事が書かれた新聞が午前零時に届く。恐怖新聞を読むと寿命が縮むが、将来の社会情勢が事前に分かったらもっと寿命が縮んだりして。
  垂水市 川畑千歳 2017/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

母の文章

2017-12-14 06:00:47 | はがき随筆
 ある時、母の文章を目にした。母は筆まめで、よく便りをくれた。達者な字で、いつも近況を添え私たちの健康や安全を気遣うものだった。
 しかし、その文は違っていた。「足、足、足というほど足が痛く、びっこを引いています」「誰か治療法を知りませんか?」とある。25年前、同窓会の会報に寄せられたもの。その頃から腰が曲がり、つえをつき、ついには歩けなくなった。私は見守ることしかできなかった。娘には言えなかった親の思い、苦しみが母の年になり深く骨身にしみる……静かに時雨が降り秋が行く。
  出水市 伊尻清子  2017/12/3 毎日新聞鹿児島版掲載

折り鶴

2017-12-14 05:47:58 | はがき随筆


 中学の同窓会の席に3羽の折り鶴が飾られた。Kさんが折った、すてきな猪鹿蝶の絵柄の鶴だった。写真を送ると、彼女から折り鶴と折り紙が送られてきた。その夜、妻と夢中になって鶴を折った。子供の頃は戦争で折り紙などなかったので、新聞紙で飛行機やかぶとを折ってよく遊んだ。折り鶴とだまし船は母にせがんで折ってもらった。
 上毛新聞社が創刊130周年を記念して、折り鶴になる新聞を出した。手紙を出すと、世界の国旗をデザインした紙面が届いた。カラフルな紙面を折ってみると、大きな鶴となり、群馬からの使者が舞い降りてきた。

シカ君の頭蓋骨

2017-12-14 05:40:05 | はがき随筆
 帰省した娘と栗野岳周辺を散策し、帰りに寄った物産館でのこと。「お父さん、ちょっと来て」と娘が呼ぶ。行ってみると立派な角を付けたシカの頭蓋骨を挿して「これ買いたいけどどう思う?」と。「欲しいなら買いなさい。どこにでもあるものではないと思うよ」
 「んだ、まあ! そよ買て何よすっとお?」。頭蓋骨をしっかり抱いてレジに並んでいる娘に周囲のおばあちゃんたちの驚きの声。角だけはよく見るが頭蓋骨付きとは――。娘と考えた。「猟師魂かなあ、何かしらシカ君への敬意を感じるね。生前の表情が見えてくるみたいだ」
  出水市 中島征士 2017/12/1 毎日新聞鹿児島版掲載

遊んでから

2017-12-14 05:32:08 | はがき随筆
 中卒時の同級生321名。卒業とともに再会かなわぬ友が多い。菓子店の子だったN子ちゃんもそんな一人だったが、東京で既に亡くなっているという。
 彼女の家へ行くとおいしそうな菓子がガラスケースに並んでいたが、私のお目当ては彼女が毎月買ってもらう雑誌だった。見せてほしくて行くのだが、なかなか見せてくれなくて、さんざん遊んで暗くなりかけた頃にやっと本を出してくれるのだった。毎日少しずつ読ませてもらったのか借りて帰ったのか、はっきり思い出せない。早く読みたい心を押さえて遊んだ小6の頃が、彼女とともに懐かしい。
  霧島市 秋峯いくよ  2017/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載