はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

スカイプ

2016-10-18 07:12:50 | はがき随筆
 昔の家族間の連絡は電話であり、声だけではあったが、それで満足したものだ。
 娘一家が宮崎に異動になり、その連絡方法はスカイプである。自分と妻の共通の休みである火・土曜は何よりの楽しみがある。それはテレビ電話で孫2人と画面を見ながら話すことができるからだ。もうすぐ4歳になる孫は幼稚園での出来事をおもしろく話してくれるが、1歳過ぎの孫はアーアーと言うだけである。孫は必死に何かを伝えようとする。画面での表情がたまらなく可愛いのである。
 スカイプという文明の利器に感謝あるのみである。
  鹿児島市 下内幸一 2016/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載

これって何っ?

2016-10-17 19:49:58 | はがき随筆
 けだるい夏、事務室の電話がジャンジャン鳴るので受話器を取ると「こちらはマルです」と言いやがる。しゃくにさわって「こちらは三角ですよ」と言った。隣に座っていた部長が「何を言っているんだ」と聞くので、「いや、電話でマルだマルだと言うもんですから」と答えると、「バカッ、それは得意先だっ」と叱られた。私はそこで目が覚めた。私は若い頃の夢をみていたのですね。
 「ワー!」っと家のテレビが大声を出したので、見ると広島カープの丸がホームランを打ったところだった。「ウソッ」。私は完全に目を覚ました。
  鹿児島市 高野幸祐 2016/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

初の公式戦

2016-10-16 07:35:47 | はがき随筆
 次男が垂水中央中のソフトテニス部に入部した。小学4年から始め、迷わず入部を決定。練習を重ね、8月の県中学校姶良大会1年の部が初の公式戦になった。初戦は3ペア一番手で会場はいつもの外と違い体育館で練習もなし。本人は緊張していたが相手のミスに乗じ公式戦初勝利を挙げチームに貢献。
 次の出番は準決勝。コート2面の同時進行でプレッシャーがかかる。一進一退の試合展開に息を凝らす。ゲームカウント2対2で最終ゲームに進み決勝進出を期待するも及ばず3位。
 試合後に顧問の話に集中する目は次の大会を見据えていた。
  垂水市 川畑千歳 2016/10/16 毎日新聞鹿児島版掲載


いつでも傍らに 

2016-10-15 06:48:04 | はがき随筆
 父の命日は8月14日である。お盆の最中で、菩提寺の法要は毎年混雑している。法要の最後にお説法があった。
 ある父親が息子をお盆の墓参りに誘ったところ、「行かない。だって、今は家に帰ってきていて、お墓にはいないんでしょう」と言われ、返す言葉がなかったそうだ。その親子の会話に「仏様はいつでもみなさんの傍らにいらっしゃるんですよ」とのお坊さんのお話を聞き、涙があふれて仕方がなかった。
 「そうだよね。お父さんはいつも傍らにいるんだよね」と亡き父に話しかけた。父が笑顔で私を見ている気がした。
  鹿児島市 天野芳子 2016/10/15 毎日新聞鹿児島版掲載

77年目の日の出

2016-10-15 06:42:32 | はがき随筆
 暦の上では秋だが、8月下旬は夏の空気。早朝5時は暗く、熱帯夜の余波を感じながら走り出す。今日から77歳、喜寿である。予感も脈絡もなく思い浮かぶ事事を追いながら走るのはいつものことで、どうしても来し方行く末に思いが行く。旅の事、恋の事、生き方など頭をよぎるに任せているが、悔恨の念にとらわれる事は無い。青春も謳歌した。家庭を持ち、子供たちも独立した。残された時間は考えない。最後の一日まで妻と笑顔で走る姿しか浮かばない。
 6時前、鼓舞するように燃える太陽が顔を出す。その輝きに向け健やかな一日を祈願する。
 志布志市 若宮庸成 2016/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載


隣のヒノキ

2016-10-14 21:08:18 | 岩国エッセイサロンより


2016年10月14日 (金)
    岩国市   会 員   吉岡賢一

 隣の空き地のヒノキが枯れた。地主のご夫婦が苗を植えてかれこれ20年、高さ約8㍍、幹の直径約30㌢にまで成長していた。
 てっぺんはヒヨドリの展望台であり見張り台だった。茂った枝葉はスズメの避暑地だった。他にも多くの小鳥たちが寄ってきて、まるで木全体がサロンのようになっていた。
 この夏は連日の猛暑に加え、雨が少なかった。そのため、元気盛んなヒノキの若木も熱中症に侵されていたのかもしれない。
 隣のご夫婦は苗を植えた当時、耕運機で雑草を取り除くなど手入れを欠かさなかった。しかし、今はもう亡くなられている。後継者のいない600平方㍍もの土地は荒れ放題だ。
 これまでヒノキの成長を楽しみ、優しい緑に目の保養をさせてもらったお礼に、新たな苗木を植えて小鳥たちのサロンを取り戻そうかー。さまざま考えてもみるが、他人さまの土地では手を出すこともままならない。このまま放置して荒れすぎると、害獣もすみ着くことになりかねない。
 速やかな対策を行政にお願いする一方、向こう三軒両隣が協力して空き地被害を食い止める方策を講じる必要がありそうだ。
 ただ、空き地に接する7軒のうち、1軒を除いては紛れもない高齢者ぞろい。自衛活動も思うに任せない。それでも、自らの安心安全を守るためには、住民同士の協力体制をつくり上げ、行政との協働体制を構築するのがいいのかな、と考えている。

     (2016.10.14 中国新聞セレクト 「ひといき」掲載)

のくる

2016-10-14 21:05:35 | 岩国エッセイサロンより


2016年10月14日 (金)
岩国市  会 員   沖 義照
子どもの頃、10月に入ると家族総出で焚き木取りに連れ出された。小枝を小さな束にして背負わされ山を下る。家までの中間点まで運んだところで荷を降ろす。再び上って行き、また荷を背負って中間点まで運ぶ。少し休んだ後、今度はそこから家まで2回運んで全てを持ち帰る。 
このような運び方を父はのくると言っていた。「さあ、のくって帰るぞ」と聞くと、子ども心に「よし、頑張ろう」という気持ちが湧いた。苦労して持ち帰った焚き木で風呂を沸かしご飯を炊く。台風一過、山道に落ちた小枝を見ると、子どもも働き手だった幼い頃を思い出す。
   (2016.10.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

アレルギー体質

2016-10-13 13:07:31 | はがき随筆
 十余年の間に腰痛の手術を3度体験しているが、ここにきてまた痛みだした。もう手術はないだろうとは思ったが、恐る恐る診察を受けた。よい薬が出ていると処方してくれた。身体の一部に貼るテープ式だが、その日のうちに痛みが消えた。ところがその翌日、激しい吐き気に見舞われたのだ。私のアレルギー体質が原因だった。
 何を口にしてもすぐ戻してしまうのだが、唯一みそ汁だけが胃袋に収まった。関東育ちの私に、種子島生まれのカミさんが作った、関東風味の豆腐のみそ汁なのだ。結婚50年たった今もカミさんサマサマである。
  西之表市 武田静瞭 2016/10/13 毎日新聞鹿児島版掲載

鏡とにらめっこ

2016-10-12 06:12:36 | はがき随筆
 突然右目に違和感があり、まぶたの中が真っ赤だ。目頭には血腫のようなものがある。
 折しも病院は連休だった。どうしたもんじゃろかい。ため息まじりで鏡の中の赤目とにらめっこする事しきり……。結膜下の血管が破れて出血している。
 思いあたることがなくても起こる事があるが、自然に吸収されるとの説明を受けた。しかし年齢のせいか回復は遅く、気分まで晴れない。結膜下の出血から、なんとなく視力までもやもやして細かい活字が見えづらい。
 今は朝の「おはよう」はまず鏡とにらめっこから始まる。
 鹿児島市 竹之内美知子 2016/10/12 毎日新聞鹿児島版掲載


父の卒論

2016-10-12 05:58:50 | はがき随筆
 妹が断捨離をしていたら、母が大切と書いた亡父の卒論があったと持ってきた。昭和4年、日本語と英語の手書きで下水道の研究。全くびっくり、読もうとしたがわかりません。
 父は鹿児島の旧家に生まれ、早くに父親を亡くし、母親に甘えられる気のよいボンボン。勉強だけは七高、東大と進学。まあ気楽な学生生活を送れたらしい? 卒業時近く、東京に嫁いだ姉の不幸の世話に追われ、卒論が間に合わず苦労したみたい。その後母と結婚、人並みの生活。昭和18年、同窓生にだまされ、軍属としてスマトラ島に行き、母の苦労が続きました。
  鹿児島市 津田康子 2016/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

元気をもらう

2016-10-11 16:22:47 | 岩国エッセイサロンより
2016年10月10日 (月)
岩国市  会員   横山 恵子

 先日、幼稚園で行われた敬老参観日に出席した。孫のクラスは21人。その数以上の祖父母たち。
 先生が「おじいちゃんたちに聞きたいこと、ありますか?」と言われると元気よく2人が「僕たちくらいの頃、どんな遊びをしていましたか?」「おばあちゃんは何歳ですか?」に一同大笑い。孫と向かい合って歌に合わせ、肩をたたいたりハグしたり。最後は「目をつむって」と言われプレゼントされたのは色紙に孫の写真と奴の折り紙。
 仏壇に「元気をもらって帰ってきたよ。うらやましいじゃろ」と言いつつ目の奥が潤んだ。   
     (2016.10.10 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

もの思う秋

2016-10-09 07:09:38 | 岩国エッセイサロンより
2016年10月 7日 (金)
    岩国市  会 員   吉岡 賢一

 天井からぶら下がる裸電球をあっちこっちに引っ張って明かりを分かち合い宿題や読書にいそしんだ遠い昔が懐かしい。多少の不便を感じながらも、あの柔らかな橙色には家族のぬくもりがあった。
 この度、古くなった蛍光灯をLEDシーリングライトに替えた。「点灯」「消灯」はもちろん「蛍光灯」「図書館」「食卓」など明るさや色を変える12もの機能がリモコンーつで自由自在。目に優しい明るさや便利さは超一流でありがたい。
 このありがたさや便利さは、家族のぬくもりを忘れさせる魅力を秘めているということか。
    (2016.10.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

しおり

2016-10-09 07:08:23 | 岩国エッセイサロンより
2016年10月 7日 (金)
   岩国市  会 員   山下 治子

 暦の上ではもう消えたはずの暑さと台風に耐え、彼岸も過ぎたある日、絵はがきが届いた。風に揺れてほほ笑むような都忘れの花を手触りのよい和紙に描いている。
 5ヵ月前、大動脈瘤の手術から復帰した50年来の親友からだ。彼女は丸10年間、父親の介護と脳腫瘍のご主人の看護で休む時を持たなかったが、この2年のうちに2人を送った。彼女にとっては、ぎりぎりセーフの手術だった。 
 「夫と父が守ってくれている。これからは一病息災を心して」と書き添えてある。私は絵はがきの四隅を丸く切り、端に穴を開けリボンをつけて日記に挟んだ。
    (2016.10.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

こころ残り

2016-10-09 07:01:19 | はがき随筆
 孫たちがこの夏も計画を立てて来てくれた。妻の、御飯よ! 宿題は! と弾む声の日々の中、孫娘が庭石に躓き右足を引きずっている。病院へ直行。軽い足首捻挫で済んだが、計画していた霧島まほろばの里でのグラススキーは中止と私は伝えた。
 孫たちはゴーカートに乗るから行きたいとせがむ。行ってみたら、数人が滑る光景に、孫娘は「痛くないから滑りたい」と哀願した。愛し子からの願い、足の負担……。葛藤の末「我慢して」と心を鬼にした。孫娘に霧島連山が「また来いよ」と言ってると励ますが、滑らせたかったと私の思いは募った。
  出水市 宮路量温 2016/10/9 毎日新聞鹿児島版掲載

柏州和尚

2016-10-09 06:49:01 | はがき随筆
 「柏州の掛け軸、志布志・大慈寺に150年ぶり帰郷」と地元紙が7月に報じた。我が家にも和尚の掛け軸がある。「魚藍観音」が描かれ、「大慈八十四世八十二歳柏州拝写
」とある。
 原口泉先生に掛け軸をお見せしたら、8月に大慈寺で先生の「柏州和尚と薩長同盟」の講演があり、紹介していただいた。
 曾祖父の弟は6歳で大慈寺の柏州和尚に就いて修行し、得度。21歳で亡くなり、お墓も境内の一角にある。住職は「後で掛け軸を差し上げたのでしょう」と話された。柏州和尚と先祖との不思議なご縁。掛け軸は表装して大慈寺にお納めしたい。
  鹿児島市 田中健一郎 2016/10/8 毎日新聞鹿児島版掲載