はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

隣のヒノキ

2016-10-14 21:08:18 | 岩国エッセイサロンより


2016年10月14日 (金)
    岩国市   会 員   吉岡賢一

 隣の空き地のヒノキが枯れた。地主のご夫婦が苗を植えてかれこれ20年、高さ約8㍍、幹の直径約30㌢にまで成長していた。
 てっぺんはヒヨドリの展望台であり見張り台だった。茂った枝葉はスズメの避暑地だった。他にも多くの小鳥たちが寄ってきて、まるで木全体がサロンのようになっていた。
 この夏は連日の猛暑に加え、雨が少なかった。そのため、元気盛んなヒノキの若木も熱中症に侵されていたのかもしれない。
 隣のご夫婦は苗を植えた当時、耕運機で雑草を取り除くなど手入れを欠かさなかった。しかし、今はもう亡くなられている。後継者のいない600平方㍍もの土地は荒れ放題だ。
 これまでヒノキの成長を楽しみ、優しい緑に目の保養をさせてもらったお礼に、新たな苗木を植えて小鳥たちのサロンを取り戻そうかー。さまざま考えてもみるが、他人さまの土地では手を出すこともままならない。このまま放置して荒れすぎると、害獣もすみ着くことになりかねない。
 速やかな対策を行政にお願いする一方、向こう三軒両隣が協力して空き地被害を食い止める方策を講じる必要がありそうだ。
 ただ、空き地に接する7軒のうち、1軒を除いては紛れもない高齢者ぞろい。自衛活動も思うに任せない。それでも、自らの安心安全を守るためには、住民同士の協力体制をつくり上げ、行政との協働体制を構築するのがいいのかな、と考えている。

     (2016.10.14 中国新聞セレクト 「ひといき」掲載)

のくる

2016-10-14 21:05:35 | 岩国エッセイサロンより


2016年10月14日 (金)
岩国市  会 員   沖 義照
子どもの頃、10月に入ると家族総出で焚き木取りに連れ出された。小枝を小さな束にして背負わされ山を下る。家までの中間点まで運んだところで荷を降ろす。再び上って行き、また荷を背負って中間点まで運ぶ。少し休んだ後、今度はそこから家まで2回運んで全てを持ち帰る。 
このような運び方を父はのくると言っていた。「さあ、のくって帰るぞ」と聞くと、子ども心に「よし、頑張ろう」という気持ちが湧いた。苦労して持ち帰った焚き木で風呂を沸かしご飯を炊く。台風一過、山道に落ちた小枝を見ると、子どもも働き手だった幼い頃を思い出す。
   (2016.10.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)