はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

いつでも傍らに 

2016-10-15 06:48:04 | はがき随筆
 父の命日は8月14日である。お盆の最中で、菩提寺の法要は毎年混雑している。法要の最後にお説法があった。
 ある父親が息子をお盆の墓参りに誘ったところ、「行かない。だって、今は家に帰ってきていて、お墓にはいないんでしょう」と言われ、返す言葉がなかったそうだ。その親子の会話に「仏様はいつでもみなさんの傍らにいらっしゃるんですよ」とのお坊さんのお話を聞き、涙があふれて仕方がなかった。
 「そうだよね。お父さんはいつも傍らにいるんだよね」と亡き父に話しかけた。父が笑顔で私を見ている気がした。
  鹿児島市 天野芳子 2016/10/15 毎日新聞鹿児島版掲載

77年目の日の出

2016-10-15 06:42:32 | はがき随筆
 暦の上では秋だが、8月下旬は夏の空気。早朝5時は暗く、熱帯夜の余波を感じながら走り出す。今日から77歳、喜寿である。予感も脈絡もなく思い浮かぶ事事を追いながら走るのはいつものことで、どうしても来し方行く末に思いが行く。旅の事、恋の事、生き方など頭をよぎるに任せているが、悔恨の念にとらわれる事は無い。青春も謳歌した。家庭を持ち、子供たちも独立した。残された時間は考えない。最後の一日まで妻と笑顔で走る姿しか浮かばない。
 6時前、鼓舞するように燃える太陽が顔を出す。その輝きに向け健やかな一日を祈願する。
 志布志市 若宮庸成 2016/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載