はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

もの思う秋

2016-10-09 07:09:38 | 岩国エッセイサロンより
2016年10月 7日 (金)
    岩国市  会 員   吉岡 賢一

 天井からぶら下がる裸電球をあっちこっちに引っ張って明かりを分かち合い宿題や読書にいそしんだ遠い昔が懐かしい。多少の不便を感じながらも、あの柔らかな橙色には家族のぬくもりがあった。
 この度、古くなった蛍光灯をLEDシーリングライトに替えた。「点灯」「消灯」はもちろん「蛍光灯」「図書館」「食卓」など明るさや色を変える12もの機能がリモコンーつで自由自在。目に優しい明るさや便利さは超一流でありがたい。
 このありがたさや便利さは、家族のぬくもりを忘れさせる魅力を秘めているということか。
    (2016.10.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

しおり

2016-10-09 07:08:23 | 岩国エッセイサロンより
2016年10月 7日 (金)
   岩国市  会 員   山下 治子

 暦の上ではもう消えたはずの暑さと台風に耐え、彼岸も過ぎたある日、絵はがきが届いた。風に揺れてほほ笑むような都忘れの花を手触りのよい和紙に描いている。
 5ヵ月前、大動脈瘤の手術から復帰した50年来の親友からだ。彼女は丸10年間、父親の介護と脳腫瘍のご主人の看護で休む時を持たなかったが、この2年のうちに2人を送った。彼女にとっては、ぎりぎりセーフの手術だった。 
 「夫と父が守ってくれている。これからは一病息災を心して」と書き添えてある。私は絵はがきの四隅を丸く切り、端に穴を開けリボンをつけて日記に挟んだ。
    (2016.10.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

こころ残り

2016-10-09 07:01:19 | はがき随筆
 孫たちがこの夏も計画を立てて来てくれた。妻の、御飯よ! 宿題は! と弾む声の日々の中、孫娘が庭石に躓き右足を引きずっている。病院へ直行。軽い足首捻挫で済んだが、計画していた霧島まほろばの里でのグラススキーは中止と私は伝えた。
 孫たちはゴーカートに乗るから行きたいとせがむ。行ってみたら、数人が滑る光景に、孫娘は「痛くないから滑りたい」と哀願した。愛し子からの願い、足の負担……。葛藤の末「我慢して」と心を鬼にした。孫娘に霧島連山が「また来いよ」と言ってると励ますが、滑らせたかったと私の思いは募った。
  出水市 宮路量温 2016/10/9 毎日新聞鹿児島版掲載

柏州和尚

2016-10-09 06:49:01 | はがき随筆
 「柏州の掛け軸、志布志・大慈寺に150年ぶり帰郷」と地元紙が7月に報じた。我が家にも和尚の掛け軸がある。「魚藍観音」が描かれ、「大慈八十四世八十二歳柏州拝写
」とある。
 原口泉先生に掛け軸をお見せしたら、8月に大慈寺で先生の「柏州和尚と薩長同盟」の講演があり、紹介していただいた。
 曾祖父の弟は6歳で大慈寺の柏州和尚に就いて修行し、得度。21歳で亡くなり、お墓も境内の一角にある。住職は「後で掛け軸を差し上げたのでしょう」と話された。柏州和尚と先祖との不思議なご縁。掛け軸は表装して大慈寺にお納めしたい。
  鹿児島市 田中健一郎 2016/10/8 毎日新聞鹿児島版掲載


旅の続き

2016-10-09 06:34:23 | はがき随筆
 先の旅行で、ご一緒した方と偶然お会いした。そのときは、家族5人、知的障害者の息子さんを連れての旅だった。以前は車での家族旅行を楽しんでいたとか。私たちのバスの同情者も誰一人として嫌な顔もせず、旅の終わりまで何事もなかった。皆に気遣いされ、家族仲良く、静かに食事をされていたのが印象的だった。
 自分からアプローチすべきだったのかもしれないが、なぜか気後れした。障害者との共生、理解はするが、お互いの遠離を感じた。またどこかでお会いできればと笑みを交わして別れ、お元気でと祈った。
鹿屋市 中鶴裕子 2016/10/7 毎日新聞鹿児島版掲載