はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

消えた百円

2008-10-22 23:02:33 | はがき随筆
 「あっ、それ私のです」
 その一言が言えなかった小3の暑い夏の日。
 結核を病み家で療養していた父は、何かと用事を言いつけた。精米所に裸麦を持っていき、押し麦にしてもらうようにと10㌔入りの袋と百円札を手渡された。やせて小さい体に10㌔は重くて、途中で一休みした。
 前かがみになり腰を下ろした時、ワンピースの三角形の胸ポケットから百円札が抜け落ちた。拾わなければと見ているうちに、4年の担任の先生が通りかかり、さっと拾ってポケットに入れて行ってしまった。
 極貧時代の、苦い思い出。
   薩摩川内市 森 孝子(66) 2008/10/22 毎日新聞鹿児島版掲載 

勇気?

2008-10-21 14:41:17 | はがき随筆
 平成13年5月、イタリアへ行った。最後のミラノ観光の朝のこと。スカラ座やドゥオーモの林立する尖塔に見とれ、移動してスフォルツェスコ城へ。城壁の等間隔の穴は何か、など聞きながら城門をくぐって右側の館へ。ここは中庭を囲む回廊のある所で、音や反響も考慮されている。「試してみましょう。どなたか一曲」とガイドの誘導。しばらくたっても誰も試さないので手を挙げ「私、大隅長持唄を……。もろたもろたよよか嫁を……」。要は反響の有無だけなのだとうたい始めた終わると軽々な勇気に一同の拍手をいただき恐縮。67歳の旅でした。
   東郷久子(74) 2008/10/21 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はスフォルツェスコ城nebokeさんより

子ども劇場

2008-10-20 21:30:40 | かごんま便り
 さまざまな年齢層の子供たちに生の舞台に接する機会を提供し、併せて地域での自然・生活体験を通してお互いが育ち合う“場”をつくる──。「子ども劇場」はそうした願いから生まれた団体だ。66年に福岡市で発足し、全国にその輪を広げている。
 鹿児島の子ども劇場は今年で35周年。その節目の年に初めて海外から劇団を招き現在、県内で巡回講演の真っ最中であることは16日付の鹿児島面で紹介した。離島も含めて25カ所の公演を支える実行委員会の主体は中高生たち。彼らが一堂に会して先日、鹿児島市の武中学校で催された「劇団サダリ」(韓国)の歓迎会にお邪魔した。
 各公演会場のチラシ、ポスターなどはいずれも実行委メンバーの手づくり。会場確保に始まり、事前のPRやチケット販売、当日の準備と後片づけもほとんど中高生が担う。各実行委はおよそ10人前後の規模で全県では300人近い子供たちが巡回公演にかかわっているというから驚く。
 サダリの来日を仲立ちした福岡市の劇団「風の子九州」理事長の林陽一さんによると、鹿児島の子ども劇場は現在、本家?の福岡もうらやむ活発さ。子供たちを中心に保護者や地域の大人がサポートしつつ劇団の巡演を実現する「子ども芸術祭典」と題した一連の取り組みは「全国に誇れる」と林さんは絶賛した。
 さて今回の演目「時計が止まったある日」は戦争と平和という児童劇にしては重いテーマ。新婚の夫が徴兵され、新妻と引き裂かれてドラマが始まる。目の前の平土間で繰り広げられる無言劇は迫力十分。セリフがない分、俳優の個々の身のこなしが実に雄弁で、場面ごとに変転する音楽の妙も耳に残った。引き込まれるうちに気がつけばフィナーレ。終演後に観客が参加する演出?も心憎い。これ以上は詳しく書きません。ぜひ、親子でご覧になってください。
鹿児島支局長 平山千里
2008/10/21毎日新聞掲載

あったかい桜島

2008-10-20 16:00:07 | はがき随筆
写真は孤高の人さんより

 お彼岸の墓参りに隼人に帰郷。鹿児島中央発「はやとの風」の乗り心地最高。真向かいに桜島が見えた。「よく帰ってきたね」と出迎えてくれたような気持ちになる今朝の桜島だ。10人目の孫が心臓に穴があき、ダウン症で生まれた。生命の危機に遭い、私は100日余り眠れなかった。5月2日、心臓の手術が成功。現在7ヶ月で体重7㌔。すくすく育っている。名前は陽葵(ひまり)。もう安心だ。亡き母に、元気になった報告の墓参り。ほっとして見る桜島。嫁ぐ日まで朝に夕に見た桜島に、母の胸に抱かれたような親近感を覚えた。
   山口県光市 中田テル子(62) 2008/10/20 毎日新聞鹿児島版掲載

心の糧

2008-10-19 18:29:50 | はがき随筆
 9月中旬、36年ぶりに再会したテル子ちゃんが「中学時代の一番の思い出は鹿屋肝属地区合唱コンクールに出たことよ」と感慨深げに言った。指揮棒を振った彼女。私はピアノ伴奏に自信がなく、本当は逃げ出したかったと初めて明かした胸の内。
 指導の先生が途中で求職という非常事態に。しかし出馬を辞退せず、生徒だけで練習に励んだ。忘れもしない「歌の翼に」と「わが子よの2曲」部員32名の美しいハーモニーが公民館いっぱいに響き渡ったはずなのに入賞ならず。それでも、大きな舞台に立てたことは、皆の心を糧になっている。ずっと。
   鹿屋市 田中京子(57) 2008/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載

大麻問題

2008-10-19 18:17:12 | はがき随筆
 日本相撲協会の理事長交代にまで発展した外国人力士の大麻問題は、角界を大きく揺るがす大事件となった。
 私は時々、早朝に鴨池日枝神社を参拝する。北の湖理事長辞任の翌朝、ふと社殿の横に掲げてある小さな懸垂幕を見て驚いた。「お伊勢さま、氏神さまの『大麻』(おふだ)をお受けしましょう」と書いてあるのだ。視力の弱い私はフリガナが見えにくく、神社がなぜ大麻を?と思った。よく見ると「おふだ」と書いてあり安堵した。「大麻」はお札という意味ももつらしい。
 大麻問題は角界だけでなく、私自身にも起きた。
   鹿児島市 川端清一郎(61) 2008/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

悪戦苦闘

2008-10-18 18:48:04 | はがき随筆

写真はコボシBotanical Gardenさんより

 夫が好んで植えたツツジ類、果樹の間にたちの悪いスギナ・コボシ・カヤの3点セットが入り込んでしまった。春から草取りに追われて、ついに7月にはシルバーさんを頼んだ。きれいになって安堵したのもつかの間、すぐに勢いを盛り返した。
 根こそぎ退治しようとスコップと山くわで掘り起こす。深い根は地中でつながって四方へ、地下へと伸びている。今日はこの一画を退治したぞ!と思っていると、2.3日後には、特に雨の後には、柔らかくなった土に、憎らしくコボシの目がツンツンと出そろっている。あきらめと焦りと挑戦の日々だ。
   霧島市 秋峯いくよ(68) 2008/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載



秋のひとこま

2008-10-16 12:48:59 | はがき随筆
 コスモスの花が揺れる昼下がり。私は団地の道を歩いていた。あるマンションの前にさしかかった時、1階の駐車場から婦人と男の子が飛び出してきて、外の階段を上がっていった。
 歩き方がいやに不自然だったので、何事だろうと暗い駐車場に入ってみた。見ると何台かの車の奥に、1人の少女が壁に向かって目隠しをしている。なあんだ隠れんぼかと私は、そーっと少女の後ろに寄って小さな声で「2人とも階段を上がったよ」と教えて駐車場を出た。
 「キャー、キャー」という笑い声を背中に聞いて、私は一人ほくそ笑みバス停へと急いだ。
   鹿児島市 高野幸祐(75) 2008/10/16 毎日新聞鹿児島版掲載

伝説の道真公

2008-10-16 12:41:01 | はがき随筆
 菅原道真は、本当に太宰府で亡くなったのだろうか。
 確かめるため、東郷町の藤川天神の宮司に伺った。なんと幸運にも、公の自画像と伝えられる古い肖像画を見せていただいた。あせて、顔や目の輪郭もはっきりしないが本物のよう。さらに、西方となりの湯田口で、逃亡時に船をつないだという「船つなぎ石」も探し出した。道真愛用のすずりも、鹿児島市のM家にあるという。
 ひょうとしたら、道真は藤川天神で死んだのかもしれない。
 幼いころ「ここはどこの細道じゃ。天神さまの……」と歌った童謡が、なお謎めく。
   出水市 小村 忍(65) 2008/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は海太郎さん

ウミガメの涙

2008-10-15 16:13:01 | はがき随筆

 40年前の夏。「ウミガメは涙を流して卵を産むんだ」と浜育ちでカメ通の夏夫。目を輝かせたK中3年A組の級友たち。夏夫は産卵時の案内を約束した。
 7月初旬夜9時、内之浦町K浜。少年少女13人は岩陰に潜み海を見つめて上陸を待つ。光る波、潮風。尽きないひそひそ話。若者の時間は早く流れてたちまち門限の11時。残念、解散。
 その深夜。「先生、今来てる」と夏夫。再び浜へ。ウミガメはもう水際にいた。初めて見る大きな背! そっとさわった。2人でずっと見送っていた。思えば懐かしい夜。「夏夫、ウミガメの涙をまた見たのか!」
   出水市 中島征士(63) 2008/10/15 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はsarawakさん

夏の終わりに

2008-10-13 21:37:41 | アカショウビンのつぶやき




 種まきから挑戦して、過保護すぎるくらいに可愛がって育てたミニトマト。
私にしては上出来の成長ぶりで、これなら収穫期は(*^_^*)…と楽しみにしていたのに、夏の体調不良のため、2ヶ月半ほったらかしにしてしまった。
 結果は散々…。もうだめだなぁと諦めていたのに、涼風が吹き始めた頃から、葉の色が良くなり、ぽつぽつつぼみがつき始めた。でももう秋だしやっぱり難しいかな…と見守り続けていた。今日葉っぱのかげをそっとのぞいたら、健気に実を太らせている。「もうしばらく夏の太陽がほしいねえ」。

 一方、フェイジョアは、剪定をサボっているので枝が絡み合い、すごいことになってはいるが、今年は台風被害がなく、大きな実をいっぱいつけた。
 「あのナントカは、どうなってる」ややこしい名前を思い出せない友人も、心待ちにしてくれる我が家ご自慢のフルーツなのだ。
 これから毎朝、蜘蛛の巣だらけになりながらフェイジョアの収穫が始まる。だってこの樹は、枝を揺すって落ちた実が一番おいしい食べ頃なんだもの…。


エッセイ仲間と

2008-10-13 21:17:06 | アカショウビンのつぶやき
 エッセイ仲間の同好会「毎日ペンクラブ鹿児島」の大隅地区交流会が久しぶりに計画された。いつもの合評会形式の勉強会ではなく、新しい趣向で楽しもうという会らしい。

 最初に生誕100年を迎えた世界的な絵本作家「八島太郎」について学ぶ。彼の生誕地・南大隅町の図書館で、作品を見学してから生誕地を巡って足跡をたどる。

 その後、近くの錦江町大滝公園に移動、食事しながら交流する。第2部では何か楽しい計画もあるようだが、それは当日のお楽しみとか…。
ペンクラブ会員以外の方も自由に参加できるので是非、この機会に仲間になりましょう。

日 時 10月26日(日曜)午前10時30分より
場 所 南大隅町、根占町図書館に集合
参加費 無料(食事代は各自負担)
※ 集合場所が分からない方は、午前9時30分までに鹿屋市役所駐車場にお集まり下さい。

母ちゃんの幸せ

2008-10-13 20:56:08 | はがき随筆
 「母ちゃん、しっかりつかまっててね。全力で走るから」
娘の小学校生活最後の運動会で11歳の娘に背負われた。
 全員出場の親子競技。6年生113人の中で、親を背負って走ったのは娘と、もう1人の女の子だけだった。
 お父さんの出場が8割で、娘がいくら全力で走っても、ビリになるのは分かっていた。だが問題じゃなかった、そんなこと。夫は半身マヒだし……。
 娘よ10㌔も軽くて小さな私をいたわり、おんぶして走ってくれて幸せ。手をつないでゴールに走りながら涙がいっぱい出た。
   鹿児島市 萩原裕子(56) 2008/10/13 毎日新聞鹿児島版掲載

新しい命を

2008-10-13 15:57:55 | はがき随筆
 夫が亡くなって8ヶ月間、励まし続けてくれたMさんは「限られた命を大切に」の言葉を残して世を去った。涙も出ない。私はどうしたらいいの?
 庭の草花も今は雑草園になり、芝生もまだらになりつつある。片手は使えるが苗を求める店もない。
 中学校の老人宅訪問交流活動のおかげで種を手にした。体力がないので小さなスコップで土を掘り、石灰を混ぜ小さな畝を作った。花の種の他に、ピンクの豆の種と野菜の種も植えた。
 新しい命(発芽)を願って水をたっぷりかけた。Mさんに感謝しつつ。
   薩摩川内市 上野昭子(79) 2008/10/12 毎日新聞鹿児島版掲載

へんてこな夢

2008-10-10 12:13:39 | はがき随筆
 退職して3年にもなろうというのに、いまだに職場の夢を見る。その夢がへんてこなものばかりで、私はいつも夢の中で動き回って汗をかいている。
 ある学級の進みが遅れているので急ぎ教室へ出向いたら誰もいない。あわてて生徒を捜し回っていると終わりのチャイムが鳴ってがっかりする夢。「先生の教科の問題用紙がありませんよ」と突然言われ、引き出しやロッカーをかき回して「ない、ない」と焦っている夢。
 ああ夢よ、気まぐれであるというのなら、たまには初恋の人でも登場させて、すっかりさび付いた鼓動を高鳴らせておくれ。
   大口市 山室恒人(62) 2008/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は桜香さん