はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ある暑い日

2006-08-19 23:50:19 | はがき随筆
 夏の炎天下を老人が2人。放置自転車の整理に歩いている。映画館の横筋で1人がつぶやく。「近ごろ西部劇がないねえ」「インディアン嘘つかないなんて、ついぞ聞いた事がないなあ」。ひと回り歩く。歌でも歌わなくては暑くてやりきれない。「君がみ胸に、抱かれて聞くは」小声で歌う。蘇州夜曲である。もう1人が言った。「支那の夜は歌えないんだな」「そうなるのかな。ギスギスした世の中になったもんだ」。2人は2回廻って汗びっしょり。「もう1回廻ったらひと休みしよう」「そうだね。三べん廻ってたばこにしようか」。しかし灰皿は近くにない。
   鹿児島市 高野幸祐(73) 2006/8/19 掲載