夏の炎天下を老人が2人。放置自転車の整理に歩いている。映画館の横筋で1人がつぶやく。「近ごろ西部劇がないねえ」「インディアン嘘つかないなんて、ついぞ聞いた事がないなあ」。ひと回り歩く。歌でも歌わなくては暑くてやりきれない。「君がみ胸に、抱かれて聞くは」小声で歌う。蘇州夜曲である。もう1人が言った。「支那の夜は歌えないんだな」「そうなるのかな。ギスギスした世の中になったもんだ」。2人は2回廻って汗びっしょり。「もう1回廻ったらひと休みしよう」「そうだね。三べん廻ってたばこにしようか」。しかし灰皿は近くにない。
鹿児島市 高野幸祐(73) 2006/8/19 掲載
鹿児島市 高野幸祐(73) 2006/8/19 掲載