はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

明かりが消えた

2011-01-25 21:53:11 | はがき随筆
 市内唯一の老舗デパート「都城大丸」が倒産。新聞の見出しが浮き上がって見えた。──絶句。都城の大きな明かりが消えてしまった。
 私が19歳の春、薩摩半島の片田舎から都城に出てきた。その時、大丸の通りは活気があって華やかだった。それまでデパートなどに触れることのなかった私は、高層の大丸が威厳を持って迎えてくれたようで、屋上を仰ぎながら明日からの生活を想像した。その通りは「中央通り」と呼ばれていることを数日後に知った。
 中央通りは国道をはさんで左右に商店街がずっと続く一直線だ。当時はまだ車はさほど普及していなかった。人の通りは信号が変わるとドッと流れだし、よそ見していると、すれ違いざまに人とぶつかりそうになった。夜になるとアーケードの街灯の連なりが面白く楽しかった。
 高級品を扱うデパートではあったが、給料をもらうと気が大きくなって、その時だけは財布のひもを緩めて足を向けることもあった。友人と待ち合う場所にも利用した。
 大手のスーパーの出店に押され、地元の商店は次々と幕を下ろしていく。でも大丸だけは市のシンボルとして輝いていてほしかった。八十余年も頑張って疲れたのだろうか。
 栄枯盛衰は世のならいではあるけれど、さらに重いシャッター通りと化してしまった。
  宮崎県都城市 津曲セツ 2011/1/24 毎日新聞の気持ち欄掲載

タイガーマスク

2011-01-25 21:45:23 | はがき随筆
 「巨人の星」「あしたのジョー」と並ぶスポ根漫画「タイガーマスク」。梶原一騎作。孤児院に寄付するため「虎の穴」の悪役レスラーと戦う伊達直人。
 ルール無用の悪党に正義のパンチをぶちかます。試合後に見せる哀愁を帯びた表情が、たまらなかった。「隣は何をする人ぞ」の現代社会。家族や地域における人の縁が希薄だ。リストラや若者の就職難。シャッター通りが目立つ不況。格差社会。 
 児童養護施設にランドセルを置き「おめでとう」の一筆で立ち去る渋い後姿。時空を超えて今よみがえる伊達直人の精神。日本人も捨てたものじゃない。  
  鹿児島市 吉松幸夫 2011/1/25 毎日新聞鹿児島版掲載

平佐西コーラス

2011-01-25 21:38:35 | はがき随筆
 偶然か、奇跡だろう。
 私の、つたない作詞曲「川辺川情歌」の合唱曲を、なんと、薩摩川内市の「平佐西コーラス」の31人に歌ってもらった。昨年10月は宝山ホールで、12月は薩摩川内市で。2回も。
 指揮者からの連絡で初めて知った演奏会。素晴らしい3部合唱。大きな拍手に、五木を流れる川辺川の哀愁を皆に共感してもらえた気がし、感激した。
 「はがき随筆」の仲間Mさんや俳人Sさんの応援もあり、夢のようにうれしかった。
 「平佐西コーラス」の合唱と友人の応援は、私に生きている喜びと元気を与えてくれた。
  出水市 小村忍 2011/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

旅の抄その2

2011-01-25 21:08:31 | はがき随筆
 12月2日夜、光の砂をまいたカイロに降りたった。
 朝。「見えた」と娘。まるで三角定規だ。ほんとにホテルの窓から見えるんだあ。
 昼、ギザへ。三大ピラミッドの一つ、クフ王のビラミッド。あまりの巨大さに感覚が麻痺してしまった。内部に潜入、4000年の刻を支え続け、機能し続けてきた堅固な石組みを、ぼう然と見上げた。
 夕べ、けだものとも人ともつかぬスフィンクスが問うた。「お前は何を見たのか」
 答えよう。「永遠のいのちを得たいとしう人間の強烈な願望の形を見た」  
  鹿屋市 伊地知咲子 2011/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載