はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

名字の変わった賀状に

2011-01-14 22:05:17 | 女の気持ち/男の気持ち
 今年も多くの年賀状を頂いた。その中に確かに見覚えのある筆跡、下の名前も頭にこびりついている女性からの1枚があった。
 「昨年は色々ご迷惑、ご心配をおかけしました。新しい職場で働いており体調も良好・・・」と、近況が記されている。
 昨年までは、倅との連名で届いた年賀状。名字は我が家のものだった。今年は名字が変わっている。隣に倅の名前もない。
 6年間の結婚生活。共働きの利を活かして二人名義でマンションも買った。子どもこそ出来なかったが、順調でリッチな生活ぶりに親としては安心していた。それまで不穏な兆候もなく夫婦の間にすきま風が吹いていようとは思いもしなかった。我々には遠く及ばない、二人にしか分からぬ理由があったのだろう。昨年初め、お互い大人の感覚で円満な離婚に調印した。
 確かな家庭で育てられ、看護師として嘱望された彼女。その聡明さ、利発さは舅の私からみても好ましいものだっただけに、残念に思う。彼女の助けを求める声や、倅の気持ちの揺れをもっと早く感じ取ってやれなかったか。親としての不甲斐なさに悶々とした一年を過ごした。彼女から新しい住所を記した年賀状をもらって、やっと少し胸のつかえが取れた。
 次は、彼女からも、倅からも、新たな幸せが訪れたとの報告を受けたい。
 人生いつだってやり直しは出来るのだから。

山口県岩国市 吉岡賢一 2011/1/14 毎日新聞「男の気持ち」 掲載

そろばん

2011-01-14 21:53:49 | はがき随筆
 今夜も傷だらけのそろばんを手に家計簿を付けていると声なき声がささやきかけてくる。
 そう僕、そろばんです。医療事務の仕事が始まった昭和50年からの付き合い。仕事も悪戦苦闘しつつ17年、頑張りました。教育の悩みや家計のやりくりに僕を振り回したり涙でぬれたり、とばっちりもしばしば。家計簿の帳尻が合わないと「主人へ」と記帳し、物を買ったようにして貯金ツボに入れたりしたことも知ってるよ! 玉が外れたのはお孫さんが僕に乗って滑ったからだよ。痛かったよな-。
 歴史を走馬灯のように語りかけるそろばんがなぜか愛しい。
  薩摩川内市 田中由利子 2011/1/14 毎日新聞鹿児島版掲載

夢の途中

2011-01-14 21:49:37 | ペン&ぺん
 新成人のNさんへ。
元気で素直な20歳の男性を紹介してくれて、本当に助かりました。
彼は新成人のアンケートにも、しっかり答えてくれたよ。「政治に関心はありますが、政治家は足の引っ張り合いしている悪いイメージが強いです」。そんな率直な回答をしてくれた。
 でも、サッカー部員の彼と話が盛り上がったのは、やっぱりサッカーの話。サッカーのことになると、声の張り、目の輝きが違ってきて、この子は本当にサッカーが好きなんだって分かった。
 昨年11月の高校サッカー福岡県予選。同点でPK戦になり、しかも決着がつかず、22人がゴールに向かって、蹴り続けた。「あれ、すごいですよね」「うん、うん」。そんな話で、盛り上がった。
 20歳。僕の長男も新成人。地方の国立大の2年生。お祝いに、エリック・クラプトンのCDを贈った。Nさん、クラプトンは 知ってるかな? 有名なギタリストで、歌手でもある。一番有名な曲は「レイラ」かな。長男に贈ったCDは、ブルース・シンガーに歌わせてクラプトン自身はギターだけを弾いている。その演奏が、すんごく楽しそうに聞こえるんだ。クラプトンって、結局、ギターが好きなんだよ。
 紹介してもらったサッカー部の彼と、僕の長男には共通点がある。長男はギターを弾き、バンドをやっているのだが、「どこに就職できるか分からんけど、ずっとギターは弾いていく」と言う。サッカー部の彼も「アマチュアチームでもいい。社会人になってもサッカーを続けたい」という。
 Nさん、これって大切じゃない? おカネを稼ぐだけが、大人になることではない。自分の夢を、ずっと持ち続けることが、きっと大事だよね。Nさんの夢は「世界を旅して、いろんな人と友だちになる」だね。あきらめないで。強く願えば、夢はかなうよ。きっと。
 鹿児島支局長 馬原浩 2010/1/11 毎日新聞掲載