はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「もう無いよ」

2011-01-19 21:41:06 | 岩国エッセイサロンより
2011年1月19日 (水)
   岩国市  会 員   山下 治子

ゴミ収集車が来なくなった年の瀬。庭の隅に穴を掘り残飯を捨てた。翌朝、それがほとんど無くなっていた。誰か片づけてくれたのかな、と思いながらまた捨てた。

その晩、何やら気配を感じ、台所の窓を少し引き外をうかがうと、何かが動いている。よく見るとタヌキが家族でがさごそと残飯をあさっていた。

そうか、やっとご飯にありつけたんだ。犬がいたころは来たことがなかったのに、今は安心して食べている。タヌキは悪さをするというが、お正月はいつもよりごちそうの残飯だ。三が日だけね、と今夜も捨てた。
  (2011.01.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
  岩国エッセイサロンより転載



創作の意欲を

2011-01-19 21:24:29 | はがき随筆
 本誌脳トレ川柳3段で有段者最高齢の故宮内正胤さんのことが紹介されていた。尺八や華道、中国語など多趣味ではあったけれど、脳トレ川柳は100歳から始め、投句を日課とされていたとのことである。
 「ベッド上タコに負けない管の数」は晩年の句とか。また、亡くなる3日前に書いた未投稿の句も紹介されていた。
 「脳トレでここまで生きて大往生」。年を重ねても死ぬ直前まで創作に挑戦された宮内さんに頭が下がり啓発される。 
 新年を迎えた。馬齢を重ねるのみでなく、今年こそ創作に意欲をもって生きていきたい。
  志布志市 一木法明 2011/1/19 毎日新聞鹿児島版掲載

タンスの中のふるさと

2011-01-19 21:04:20 | 女の気持ち/男の気持ち
 気になっていたタンスの整理をしていたら、きれいな白い布にくるまれた品が出てきた。はてな、何だろうといぶかりながら開いてみると、懐かしい四つ身の振り袖だった。ふるさと日田で過ごした幼き日の思い出を染み込ませて、幾星霜をひっそりとタンスの底で眠っていたのだ。
 山里にある日田の冬は厳しい。盆地特有の濃い霧が美しい日田杉を育み、城下町には清流が幾筋も流れて水墨画のようなたたずまいを見せる。そんなロマンチックな冬景色に包まれる家並みには、下駄の音がよく似合った。
 正月にはのんびり水車が回り、コットン、コットンと日がな臼の音が聞こえる広場で、男の子は竹馬やコマ回し、凧揚げに興じていた。かたや女の子は毬つき、お手玉、羽根つきにいとまがなく、振り袖を風にひらひらとひらめかせていた。ところが私の振り袖だけは、風が吹いてもなぜかひらめかないし、少し着ぶくれした感じだった。ただ疑問を口にすることはなく、歳月が流れ去った。
 風邪をひきやすい私のために真綿を入れて丹念に母が仕立てたこと、私が嫁ぐ日にタンスにしのばせたことを後から姉に聞かされた。
 親の心子知らず。今さらながら亡母の愛をかみしめる。ふるさとの思い出とともにそっとタンスの中に納めた。
 お母さん、本当にありがとう。
  福岡県春日市 吉満さかえ 2011/1/18 毎日新聞の気持ち欄掲載

金柑とヒヨドリ

2011-01-19 20:47:45 | はがき随筆
 「今年の金柑は小粒で色艶もあまりきれいではないから、小鳥の餌だね」。カミさんとそんな会話を交わした。まるでその話を聞いていたかのように、年も押し迫った強風が吹き荒れた日、大きく揺れる金柑の木にしがみついて、実を突っついているヒヨドリが1羽いた。
 風にあおられて枝が上がると全身が現れ、下がると見えなくなる。何もこんな日に来なくてもと思いながら、上がり下がりするところを見ていたら、急に大粒の雨が降り出した。洗濯物を取り込む騒ぎを横目に、ヒヨドリはキ、キーッと鳴いて飛び去った。忙中閑あり。
  西之表市 武田静瞭 2011/1/18 毎日新聞鹿児島版掲載 写真は武田さん提供

断・捨・離

2011-01-19 20:33:25 | はがき随筆
 最近使われている断捨離の表現は語感も良く仏教の教えの感覚がする。21年前この心境で大きく自分の人生を変えた経験があるだけに共感を持つ。今の年齢からすると、これが大切に思える。年賀を頂いた中に「高齢につき来年からの年賀はご遠慮します」。この言葉にも断捨離が含まれている。
 新聞に「定年を機会に断捨離の生活を目標に」とある。しかし、孤立する可能性もあり、物心両面の葛藤も見える。最後はその人の人生観に重なる。窓の外に降雪、寒気のせいか黄色に完熟を強めたキンカンがたわわに風に揺れている。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2011/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

坊ちゃん列車

2011-01-19 20:26:41 | はがき随筆
 松山城を見に行く時に「坊ちゃん列車」に乗った。1両だけの両側長椅子式。ぎゅうぎゅう詰めでつり革を探すが、高い位置に横棒が付いているだけ。背伸びしても、やっと指先が届くだけ。きっと漱石の時代、紳士たちはステッキを引っかけて、つり手としたいたのかもしれないなどと考えていると、横の外人さんは楽々と棒をつかんでいる。そうか、当時から外国製そのままを使っているのだ。それに当時はこんなに混むこともなくて、座れただろう。
 漱石や子規らが乗ったであろう電車。明治にタイムスリップ
  霧島市 秋峯いくよ 2011/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

雪ダルマ

2011-01-19 20:13:45 | はがき随筆
 暮れから正月にかけw鹿児島に淡い雪が降りました。明けて3日、どうやらチラチラとお日様が笑いかけてきました。
 寝正月を決め込んでいた私もいくらか気が晴れて、重い腰を持ち上げ、外に出て見ると、民家の屋根は真っ白でしたが、道の雪はもう溶け始めています。
 4.5軒先の門の前の雪ダルマも頭が半分溶けて、うなだれていました。出来上がったはなは、さぞかし元気だったはず。キャーキャー笑いながら家族総出で雪ダルマに群がっている姿が目に見えるようで、屋根の雪が落ちる音も温かく感じた正月でした。
  鹿児島市 高野幸祐 2011/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載
 

5㍉の神秘

2011-01-19 19:49:27 | はがき随筆
 その白い花が好きで植えたノイバラ。7年もたつと、もう私の背丈を超えている。
 その1本の枝の樹皮をT字形に切り開き、トーマスという黄バラの枝から削り取ったわずか5㍉の芽を埋め込み、テープで固定した。昨年1月、芽接ぎをしたのだ。
 春分の日を過ぎるとぐんぐん伸び出し、枝分かれまでし、見上げるほどに成長した。何という生命力だろう。
 立夏のころには、待望の花が開いた。風に揺れている花たちを眺めて、妻も私も笑った。
 「よしっ、今度は真紅のバラにしよう!」。二人で決めた。
  出水市 中島征士 2011/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

笑顔と声

2011-01-19 19:22:07 | はがき随筆
 元旦の早朝、屋根から落下した雪が山になり、年賀状の配達は不可能な状態だ。スコップで1時間近くかかり片づけ、その後、疲れ果てて寝込んでしまった。 
 3年間、頼り助けてもらっていたCさんのペースメーカーが12月初旬に停止。夜中に救急車、手術との連絡で退院の報まで、心配と自分の体への恐怖で、すっかり落ち込んだ。
 また、1人だけになったが、ペースメーカーに気を付け、体力にあわせて無理をしない目標は「笑顔と声を出す」に決めた。
 軒下のアロエの朱色の花が美しくまぶしい。
  薩摩川内市 上野昭子 2011/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はフォトライブラリより