はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

長い一日

2011-01-06 15:03:58 | 女の気持ち/男の気持ち
 年末、交通事故で折った足の骨を固定していた金具の抜針手術をした。
 車いすで手術室に入ると医師や看護師が何やら忙しく動き回っていた。2人がかりで「よっこらしょ」と小さな手術台に乗せられた私に、担当医が一つ一つ優しく声をかけてくれる。
 「海老のように丸くなって」
 「ハイ、消毒しますよ」
 「次は麻酔をしますよ、ちょっとチクッとしますから我慢してね」
 まるでだだをこねる子どもをあやしているようだ。
 下半身が少しずつ温かくなってきた。麻酔が効いてきたようだ。足を動かそうとするが、まったく動かない。しばらくして「さあ始めようか」との担当医の言葉に、「はい」と看護師の声が聞こえた。「いよいよか」と深いため息をついた。
 痛くもかゆくもない足元で数人の医師が手術を始めたようだ。寝ている手術台がかすかに振動する。
 「ドライバー取って」と担当医の声が聞こえた。
 「それは違う。うんそれそれ」と看護師に指示している様子がよく分かる。
 手術台の揺れがさっきよりも大きくなった。骨に固定していたねじを抜いているんだと思いながら、体は緊張していた。
 「金づち取って」と、また担当医の声が聞こえた。
 「ウッソー」と思った瞬間、カン、カン、カンと音が手術室に鳴り響いた。私は完全に体が固まった。
 長い長い一日だった。
  長崎市 小浜武蔵 2011/1/6 毎日新聞の気持ち欄掲載

大雪の朝

2011-01-06 15:02:16 | はがき随筆
 大晦日の早朝、外に白い気配がする寝室の窓を開けた。高台にある自宅前の道路はパウダースノーの絨毯のようだ。隣の駐車場は雪のプール状態だった。
 毎朝の習慣で玄関を開けポストに手を入れたが、感触がない。「そうだよな、この積もり具合では無理か」。今日は新聞が午前中に読めないと観念した。
 手持ちぶさたに週刊誌で時間をつぶし、めったにない雪景色をカメラに収めようと外に出た。玄関から道路に向かう雪に、真新しい靴跡があった。ポストを覗くとビニール袋に包まれた新聞が。このドカ雪の中を。
  鹿児島市 高橋誠 2011/1/6 毎日新聞鹿児島版掲載