谷津田の湧き水の誘導のポイント
水田としての機能を持たせるのには豊かな水があるだけでは不十分でその水の流速が浄水場のように緩やかで生き物が生息できる範囲内でないと緑藻類が発生しにくくなる。上からの湧き水の流れの道ができてしまうと、その場所だけが深くなり、イネの生育が均一にいかない。あるいは根の生育がいわゆる不耕起らしい根にならない。そこで上からの水田の水口からの取り込みではなく迂回した下の水田の水口からの水の取り入れを工夫してみた。その結果緑藻類の発生が2週間後には確認でき、水田全体に広がりを見せている。オーバホローして必要のない水が流れやすくするのも大切である。
田植え前は一端水を切る
谷津田では手植えを基本としているが、歩行用の田植え機の利用も行っている。以前の湛水化しない不耕起水田では専用の田植え機が必要であったが、秋からの湛水を行っている場合田面が軟らかくなっているので歩行用で低速、深植えの仕様で可能である。昨年は植えつけ本数を2~3本で粗植であったが欠株を考えるとコシヒカリでは4~5本、古代米では2~3本が多古の天井田ではよさそうである。田植え機を操縦するのには一端水をきって水位を下げた方が作業がしやすい。
桜宮自然公園をつくる会は平成16年環境省の里地・里山30選に選ばれ、県の「里山条例」に認定されたが、この認定は農地法に関係する谷津田の部分は対象とせず、里山の部分だけが対象となる法律で散策道の整備、山の下草刈りなどの施策、補助金の対象になるが、谷津田の道路、畦の補修といった部分には予算がつかない。今回農水省企画の田園都市再生コンクールで8部門の受賞のうちのひとつの対象になったが、折角県の里山条例がありながら縦割り行政で水田を対象としないといった歪んだ行政が行われている。
環境保全型の対象となる谷津田を含む里地・里山の維持管理を発展させるためには、谷津田が経営的には採算の合わない場所であるが、不耕起・湛水の栽培をすることで、特に古代米の導入で安定した栽培が可能であり、希少生物の復元、サギ、カモ、コウノトリ、トキ、サシバ、カワセミ、オオタカなどの夢とロマンの持てる環境づくりにつながっていく。湧き水豊かな谷津田で、慣行栽培では畑地化を進めてきたが、湛水化にすることで美味しい米、無農薬の米が可能になる。もちろん次世代にこの田園的環境を残していきたい。
遊休地の復元のポイント
ヨシ・ガマの除去には重機ブルトーザーによる根の除去を考えるのが普通であるが、まず6~8月のヨシ・ガマの生育の旺盛な時期に刈り払い機で刈り取ることで生育を大幅にダウンさせることが出来る。これは竹林での竹を抑える場合と共通している。その後11月にもう一度地表面すれすれで雑草を刈り払い、直後に湛水することで、より不耕起栽培を可能にする。その後5月の田植えまでにヨシ・ガマの根を掘り起こし地表面をトンビで平らにして田植えとなる。
平成16年からは天井田の丸ごとビオトープに手をつける。これまでは湿地・湛水化のみを進めてきたが、水田に手をつけ、不耕起栽培・湛水化を導入した。千葉県香取市で指導する岩澤信夫氏の指導する日本不耕起栽培普及会に所属するメンバーの協力で吉井光と私、鳥井報恩が協力することになり、今年で3年目になる。約10aからはじめすこしづつ休耕地の復元をはじめる。昨年平成17年にはその復元田に古代米ミドリマイを作付けしたがそのミドリマイは順調に育ち日照時間で50%程度の谷津田の不利な条件でもイネは倒れることもなく分けつも確保できコシヒカリとは全く異なっていた。2000年という歴史のなかで培われた遺伝子は遺憾なくその特徴が生かされていると感じた。戦後の50年コシヒカリ系が大勢を占めているとしても、それ以前の歴史の方がはるかに重みを感じる。多古の谷津田に適応して、天候不順のなかで不安なく生育するミドリマイの生育には驚いた。
復元にあたっては普及会の会員たちの何人かの若者や早期退職者など意欲のある人たちの協力を得てすすめている。
地元の古老というか経験豊かな知恵袋と奇抜なアイデアマンの岩澤信夫さんの知恵を生かして不耕起栽培は順調にいっている。谷津田の特徴を生かして湧き水が豊かでその水をイネ刈り後直ちに貯めることで畑雑草は抑えられる。藻類の発生については2年間の経験で、これまで発生が認められなかったのでその理由について考えていた。信州大繊維学部の中本信忠教授の緩速濾過装置の「藻類(メロシラ)の発生はゆっくりとした流速が必要」からヒントを得て水田の上にある溜め池からの水を波板で抑え畦をつくり迂回するように下から水田内に水が入るようにしたら、2~3週間後には藻類が発生しはじめた。
藻類が多く発生すれば植物性・動物性のプランクトンが活動しイトミミズやユスリカも日常化してトロトロ層の形成が促進され、不耕起栽培であっても、イネの生育は初期分けつを可能にする。
肥料としては米ぬか10aあたり50キロ程度で足りる。これも肥料というよりも藻類の発生を促し、イトミミズ、ユスリカの養殖という感覚で施している。
病害虫についてはもちろん無農薬であるが、稚苗の機械植えでなく成苗で4.5~5.5葉植えをすることで、健康な生育がはかられ病害虫にも5%レベルで小動物の餌として与える。それぐらいの太っ腹でいけば、多少やられても気にしなくなる。
里山に囲まれた水田は害虫の発生も多くイネの葉も食われるが、その分天敵になるクモ類やカエル、カマキリなどの活動も活発であり、全体としてはバランスのとれた関係が生まれる。