「いねとはいのちの根なり」
農業科学基礎<栽培>の授業
熊本・田中 之浩
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はじめに
昨年(2005年度)非常勤講師として熊本農高に勤務した。退職して6年がたっていて「いまさら」との思いであったが、他に見つからなかったようで再三の依頼に引き受けることになった。私の中には「今一度教壇に立てる」「これまで蓄えてきた私の想いの一端を生徒たちに伝えることができる」という嬉しい想いも少しはあった。
週に3日、9時間の授業であった。ここでは、畜産科の1年生の農業科学基礎<栽培>の授業について報告する。
熊本農高畜産科の1年生の農業科学基礎<栽培>は1単位で、それを総合学習の1単位と組み合わせて、2週間に1回2時間に1回2時間続きの授業として組まれていた。だから行事などで潰れると4週に1回しかできない時もあり、絶対的な時間不足であった。そこで出張など空きが出来たこのクラスの時間をもらって補った。その結果、年間で38時間の授業ができた。
授業のすすめ方
授業は資料のようにプリントを準備し、大体2時間で1枚を、できるだけ質問を多くして、ゆっくり進めるように心がけた。
授業の最後に、5分前後の時間をとり、その日の授業の感想をかいてもらって提出させ、次回までに全員に赤ペンで書き込みをして返却した。かなり大変であったが、2週に1回しか会えない生徒たちを理解するのには役立った。できれば教科通信というようなものを発行して、この感想や質問などを全生徒に返していければよかったと思う。
ところで、種まき、田植えなどの実習の準備や田植え前の耕うん、代かき、それに田植え後の管理はすべて農業科の作物担当にやってもらった。
種まきは、ポット育苗箱(1人1箱)に3粒づつ手でまき、水田の育苗床に名箱順に並べさせた。その他生徒たちのやった実習は田植えとイネ刈りだけである。
そこで授業の始めにできるだけ水田に連れていき、イネの生育状態を観察させるようにした。2週間、時には4週間ぶりに見るイネの生育状態に生徒たちはいつも驚いていて、その日の感想にそのことを書いていた。
イネ刈り実習は、特別に頼んで担当したこのクラスだけ自分たちで田植えした田んぼの一部を鎌で手刈りさせてもらった。これは生徒たちの強い要望があって実行したことであるが機械化された今の収穫作業を理解する意味でもよかったと思っている。
やってよかった授業のいくつか
(1)収穫したお米を生徒たちに
これは授業ではないが、収穫したお米を生徒一人1キロづつ持ち帰ってもらった。一人1キロでも42名いるクラスなので42キロである。作物担当の先生にはかなり無理なお願いをして実現した。
お米を持ち帰ったことについて取ったアンケート(資料)を見るとほとんどの生徒が「嬉しかった」と答えている。今時米1キロ位もらってもと思うかもしれないが、違うようである。自分たちの実習で生産されたものへの思い入れがあるのだと思われる。それは生徒たちの感想にもよく出ている。
また感想を読むと持ち帰ったお米を通して、家庭でいろんな会話が生まれているのが分かる。このことは、私たちにとっても大切なことを投げかけているように思われる。
農業高校では生徒たちの実習で生産されたものは、もっと生徒たちに試食させたり、よくできたものから家に持ち帰らせるようにすべきである。その中で、生徒たちは自己評価や自己肯定感をグンと高めていくことができるのではないかと思う。