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なぜ勉強するの?

 塾の生徒に、「どうして勉強するの?」と聞くと、
「合格したいから」
とか、
「受験があるから」
という答えが返ってきます。これはある意味正しいのですが、本当は全然正しくないのです。というのも
「では中学に入ったら勉強しなくてもよいか?」
という質問をすれば、子どもはみな、
「そんなことはない」
と思うでしょう。
 なぜ勉強するのかということが最近の子どもたちはわかっていないのだろうなと思います。それどころか大人も本当はわかっていないのかもしれません。

「歴史の年号なんて覚えたって、社会に出たら何の約にも立たない」
と言っている人はたくさんいます。年号を覚えるのは試験に対する対策だとしても、では歴史を勉強する意味は本当にないのでしょうか?

 本当は、勉強を始める前に、先生はこういう話を子どもたちにしてくれていると良いのです。これについては教師仲間でもいろいろ議論しました。別にこれが答えというものがるわけではありません。ただ、私はいつも子どもたちに勉強を教える前に、なぜ勉強するのかを考えてもらっていました。これは小学生だけでなく、中学生や高校生を教えているときもそうでした。そして私の考えを説明していました。

 私の考えはこうです。
 勉強するのは何も試験に合格するとかそういう問題ではありません。自分というものをしっかりさせるためにやるのです。人間は社会に対して何らかの役割を果たすために生まれてきています。二十世紀を眺めてみても、人間社会は確実に良くなってきていますが、それは時代時代でそれぞれの人間が、自分の役割を果たしてきた結果です。ではひとりの人間は何の役割をもっているかというと、これは自分で決めなければなりません。みんな顔や個性が違いますから、何が得意であるか、何をしたいのかはそれぞれの人間で全部違います。しかしそれがわかるのも自分だけですから、自分でつかまなければならないのです。
 そのためにはいろいろなことを理解しておかなければいけません。歴史も非常に大切ならば、生物学も非常に大事です。そういうことを理解しながら、自分の考えを深めていって、自分は何を果たすべきなのか、が次第に決まっていくのです。試験を受けて学校に行くのも、その過程のひとつであって、それが目的なのではありません。

 しかしこれだけでは誤解をまねくかもしれません。別に自分の職業を決めるだけのために勉強をするのではないのです。人間は社会の中で何らかの役割をもつわけですが、その役割を果たしていくためには力がなければなりません。その力というのは専門的な知識も必要でしょうが、それだけではなくいろいろな目にあってもそれを乗り越えられるような力が必要です。そういう力は人間が本当に勉強して、自分の頭でいろいろ考えてできてくるものです。これは言い換えれば自分をつくるということで、単に知識をもっているだけではしかたがないのです。

 学校の勉強は知識を教えることが多いので、どうしてもそうなりがちなのでしょうが、学校で学ぶことは知識以外にもたくさんあります。人間は生きていれば、いろいろな目にあいます。なぜこんな目にあわなければならないのかと思うこともあるかもしれません。しかし、そこで取り乱していても、解決にはなりません。なぜそうなったかを考え、そこから立ち直っていかなければならないのです。どういう心がけだったから、そうなってしまったのか考えて理解できれば、自分を変えるチャンスがきます。どういう原因があるからどういう結果になるのかということを知っていれば、心配せずに困難に立ち向かっていけるでしょう。そういう力は自分で考えて、本当に納得しなければ自分のものにできないものです。ですから学校に通うだけで十分というものではなく、学校を出た後も勉強は続けていかなければならないことになります。

 クラーク先生の「青年よ、大志をいだけ」という言葉はよく知られていますが、じつはこの言葉には続きがあります。
「お金や自分の得や、世間が名誉だというがその中身はなにもないことのために大志をいだくのではない。人間としてこうあるべきというすべてのことを達成しようという大志をいだけ」というのです。

「人間としてこうあるべき」ということを理解するだけでも、相当勉強しなければならないでしょう。私にしても当然まだまだわかっていません。ましてすべてのことを達成するために勉強するというのは大変なことですが、しかしこういう心がけをもつことはとても大切なことです。こういうことを考える機会を私は、お父さんもお母さんも子どもともってみたらよいと思います。どうして勉強しなければいけないのか、みんなで話し合ってみてはどうでしょうか。答えが出なくたっていいんです。でもそういう話し合いをしていくうちに、子どもは、
「やっぱり勉強しよう!」
と思うようになるものです。
「勉強しなさい!」
としかっているお母さん。ちょっと待ってください。お子さんは、なぜ勉強しなければならないのか、納得していますか?

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