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教育方針

慶応幼稚舎が以前出していた募集要項に、入学試験に対する幼稚舎の考え方が説明されていました。その中で「うちの子どもをとらないような学校なら大した学校ではないとどうして考えられないのでしょうか」という一節がありました。この考え方は非常に大切だと私は思うのです。

 

 本来受験勉強とは、子どもをよりよい教育環境の中で育てる目的で準備するものです。したがって結果として、子どもの教育にプラスにならなければ意味がないし、また準備する過程も教育的なものでなければいけません。しかし結果を急ぐあまり、いろいろな無理が横行しはじめると、子どもに好ましくない影響がでる場合があります。したがってそれを防ぐためにも、我が家の教育理念というような基本的な方針を、親としてしっかり持っておかなければなりません。

 

 例えば思いやりのある子どもにしようとか、いろいろなことに積極的に挑戦できるような子どもに育てようとか、自主性のある子どもに育ってほしいとか、そういうことはどなたも考えることだろうと思います。ところがこうした「理想の子ども像」の育成を望みながらも、一方で受験のことにとらわれ、子どもに勉強を無理強いする場合が少なくありません。

 しかしただ合格させるという目的のために、これらの教育方針を曲げる必要はないと思います。いろいろなことに挑戦できるようにしようと思えば、おけいこごとも大切な教育の場になります。ところが進学塾に通うために、それをすべてやめてしまうことは本当に必要なことでしょうか。もちろん受験勉強のために時間が必要なことは事実ですが、すべてを犠牲にすることはないはずです。

 

 また、他の人としっかりコミュニケーションを図れる力というのも、子どもの教育の上では大切です。そして子どもは、この能力を遊ぶことによって身につけていきます。子どもを遊ばせるということはとても大切なことなのですが、受験生が遊んでいると親は腹が立ってきます。これもどこかおかしいのです。

 

 以前私が担当した6年生がいました。志望校はお父さんが卒業した学校。そこに弟さんは小学校から入っているので、お母さんとしても何とかしたいと思っておられました。しかし、成績はなかなか上がらず、私どもの塾にお越しいただいたわけです。

 私は、彼を見ていて、自信のなさを感じていました。何をやるにつけても、彼には不安感がつきまとっています。本当は力があるのに、精神的に負けているようなそんな印象を受けました。私はお母さんに、面接時間をいただいて、こんな提案をしました。

「お母さん、彼、剣道をやりませんか? お近くに剣道の道場がありませんか?」

 進学塾の先生に、剣道をやれと勧められたお母さんもびっくりされたと思うのですが、私の意を汲んでいただいて、彼も納得して週2回剣道に通い始めました。

 ある日、彼に、

「どう、剣道は」

とたずねると、彼はニコニコしながら、こう答えてくれました。

「あのね、僕のメンでもけっこう痛いんだって!」

 

 彼は初心者なので、小学校の低学年といっしょに練習していました。とはいってももう6年生ですから、彼がメンを打つと、小学校低学年の子には痛いでしょう。でもそれが、結構本人の自信になっていったのです。

 彼はやがて自信を持ち始め、成績も上がっていきました。剣道の時間は勉強できませんが、その分彼は自分の器を大きくしていったのです。

 

 我が家としては子どもはこう育てたい、そのためにはこういうことをさせたい。こういう考えは親としてしっかりもつべきです。そしてその方針に従って家庭教育をまず充実させることです。その上で他の教育機会を与えるべきなのです。我が家の教育理念を変えてまで何かをさせようとするとき、同時に何かを得る機会を失わせているということに親は気づいていなければなりません。

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