「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-15 :門の部(その2) 「二十四 腕木門」「二十五 塀重門」

2014-02-26 10:56:27 | 「日本家屋構造」の紹介


今回は「二十四 腕木門(うでぎ もん)」「二十五 塀重門(へいじゅう もん)」の項。
今回も、現代文読み下しはせず、原文及び図jを編集・転載(不揃いや歪みがありますがご容赦ください)、用語についての註記と私なりの所見を付すだけとします。

はじめは「二十四 腕木門」の原文と図。

   註 腕木門とは、上図:第参拾図のような屋根付きの門。屋根を支えるための腕木があることからの呼称と考えられます。
      構造的には、冠木門に屋根を設けたと見なすことができるでしょう。
      腕木(うでぎ):霧除庇(きりよけ ひさし)などをつくるとき、柱から突出し、庇屋根を承ける桁・出桁を支える横木。
      上図では肘木も設けてありますが、霧除庇などでは設けない場合が多い(下記)。
      上図は腕木肘木とも柱に大入れとし、腕木上部にを打ち固定していると思われます。
        あるいは、肘木は柱に貫通させ、柱に渡腮で掛け、ニ方からの腕木で締めることで固める方法とも考えられます。
         腕木を一材とし、のように貫通させで締めれば、この程度の出ならば、肘木を設けなくてもよいはずです。
      通常の霧除庇は、肘木を設けず、腕木大入にし、腕木先端の出桁と、垂木(柱に設けた垂木掛に掛ける)で形づくる三角柱で形状を維持しています。
      これは、霧除庇部に簡単な立体トラスが構成されている、と考えればよいでしょう。
        ただし、群馬県の妙義山下での実施例では、春先の碓氷峠越えの強風で(現地では「吹っ越し」と呼んでいた)、ものの見事に吹き飛んでしまい、
        腕木大入部に地獄枘を設ける方法でつくり直したことがあります。



次は「二十五 塀重門」の原文と図。
  
   註 塀重門
      『中門の一。表門と母屋との間にある門。左右に方柱があって笠木はなく、扉は二枚開き。
      寝殿造の中門廊が塀になったところからの名称という。壁中門。平地門(へいぢもん)。』(以上「広辞苑」より)。
      『現今塀重門と称する門は、・・左右に方柱ありて、冠木なく、扉は二枚開きにして、井桁と襷の化粧木あるものなり。
      この種の門には控柱なきを普通とすなり。されど稀には控柱付きのもあり。かべちゅうもんを見よ。』(「日本建築辞彙」より)
      壁中門
      『古語なり。今いう塀重門に同じ。「家屋雑考」に「正殿の東西にある長廊下の壁を切通しにしたるを壁中門(へきちゅうもん)といい、
      また廊なくして築地ばかりなるを屏中門(へいちゅうもん)といい、又之を壁中門ともいう、武家には屋根なきを用いらるる例なり云々」とあり。・・・
      右の如く昔は門の位置より起りたる名称なるが・・・。』(「日本建築辞彙」より)
        屏=塀 なお、塀は和製漢字
     「・・・正殿の東西にある長廊下の壁を切通しにしたるを壁中門といい、また廊なくして築地ばかりなるを屏中門といい・・・」の個所、意がよく分りません。
     寝殿造では、長廊下の中ほどに設けられる門が中門です。
     「日本建築史圖集」所載の寝殿造当該部の図(「年中行事絵巻」より)を下に転載します。
        
        右側のが屋敷を囲む築地塀に設けられた東門(四足門)、その左手、斜めに走る建屋が中門廊、東門を入って正面の中門廊にあるのが東中門
        図の左端に西の中門廊西中門が見えます。
     ゆえに、この文は、中門廊に設ける場合を壁中門、前方を仕切るのが(築地塀も含む)の場合に設けるときは屏中門と呼ぶ、という意に解します。
     したがって、塀重門とは、屋敷内を奥:内:と手前:外:に、より明確に仕切るための塀に設ける門、と解してよいと思います。
       要は「内」を確保するための手段の一である、ということになります。
         ただ、表門を、このつくりにする例もあります。
       なお、塀重門塀中門の転訛でしょう。         
       また、仕切りのつくりは、築地にかぎらず、板屏、生垣など多様に考えられます。茶室への露地に設ける門もこの一つと言えると思います。
     扉の意匠が何に拠るのか不明ですが、他の門扉に比べると、強固に閉鎖する、という印象は強くありません。
     襷型井筒(=井桁)は、書院造や方丈建築の欄間などに見かける意匠です。そのあたりが造形の源かもしれません。

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以上で、「日本家屋構造・中巻・製図篇」の本文は終りです。
原書には、このあと、付録として「石材彫刻及び石工手間」「漆喰調合及左官手間」「住家建築木材員数調兼仕様内訳書」「普通住家建築仕様書の一例」が載っています。
分量は多いですが、興味深いので、全体を紹介するべく編集を考えます。少し時間をいただきます。     
     

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