「第Ⅲ章-4-1 古井家」 日本の木造建築工法の展開

2019-06-19 13:17:40 | 日本の木造建築工法の展開

PDF 「日本の木造建築工法の展開 第Ⅲ章ー4-1」A4版12頁

 

Ⅲ-4 中世の典型-4:千年家・・・一般の建物も、壁に依存していなかった 

 古代~鎌倉時代には、一般の住居の遺構が存在しないため、ここまでは遺構のある寺院建築など上層階級の建物を観てきました。

 一般の住居の現存最古の遺構は、中世末、室町後期の千年家と呼ばれている住居です。現在、兵庫県下に古井家箱木家の2戸の千年家が保存されています。

 この2戸の建物のつくりかたには、後の住居のつくりかたの原型と考えられる点があります。それは、飛貫(ひぬき)の活用です。詳しく観てみたいと思います。

 

1.古井家 室町時代後半     所在 兵庫県宍粟市安富  古井家は現地にて保存

 兵庫県下には、千年家と呼ばれる建設年代が中世まで遡る住居が多数存在していた。その理由として、中世、兵庫県下の農村部は財政的に豊かであったため、一時しのぎではない家屋をつくることができたからではないか、と考えられている。

 古井家は、姫路から20数㎞北に入った山間の地にあるが、一帯は古代~中世の瀬戸内鳥取をつなぐ重要な街道筋で豊かな地であったという。

復元 平面図

平面・断面共に日本の民家3 農家Ⅲより転載・編集

 

復元 桁行断面図  着色部は 足固貫(断面)、内飛貫小屋貫

 

 古井家は、上屋+下屋の典型的な架構。平面図の網掛け部が下屋。下屋の壁は大部分を土塗り大壁で囲う

 折置を架けた軸組を7列並べ、四周に下屋をまわす。柱間は均一の数字ではないが、桁行は約6尺5寸、行は約7尺を目途にしていたと推定されている。 礎石を据える地盤面が東へと傾斜。

 

モノクロ写真は、重要文化財 古井家住宅修理工事報告書より

 立地状況(南側から)           

 敷地周辺 右奥の茅葺は離れ座敷

▽ 修理時 南面  1970年(昭和45年)解体修理工事着手時の状況と復元後の写真。 ▽ 修理時 北面 

  

   

 復元後 南面 

 

 復元後 北面

写真は、重要文化財 古井家住宅修理工事報告書より

 

 敷地は東側半分を盛土で造成。修理時には礎石の不動沈下が著しく、周辺地盤のかさ上げにより四周の礎石は地中に埋もれ、の多くは根腐れを起こし、座屈や折損、仕口の変形などが見られた。                                  

  建設後、江戸時代に2回大きな改造が行なわれ、その後も改修、改造がなされている。

 

復元 梁行断面図 着色部材は、貫  日本の民家3 農家Ⅲより転載・編集    

 

壁の仕様

    

修理前 大戸口まわり                  復元竣工 大戸口

 ▽ 復元竣工 南面および開口部近影 板戸、明り障子片引き     日本の民家3 農家Ⅲより

  

 修理前  おもて南面

 

 復元竣工 おもて南面

モノクロ写真は、重要文化財 古井家住宅修理工事報告書より

 

 

の仕様  重要文化財 古井家住宅修理工事報告書より

 壁は大壁真壁があり、何れも江戸中期頃の改造以降のものであるが、下屋廻りにはにわ土間北側となんどの北及び西側に粗朶(そだ)小舞とした外大壁(江戸中期と推定)、にわ土間東側にやや新しい(江戸末期と推定竹小舞外大壁がある。

 

 粗朶(そだ)小舞の材料は長さ2~3cm・元径2~3cmのソヨゴリョウブ等延びのある雑木で、これを横間渡縦小舞に用いている。 註 粗朶:切取った木の枝のこと  ソヨゴ:モチノキ科の常緑樹  リョウブ:リョウブ科の落葉樹

  間渡縛りは柱の見込み両面へ竹箆(へら)様の釣子つりこ(幅1.5cm内外、長さ7~8cmの肉厚竹を方刃尖かたばとがりに削ったものを間隔45~60㎝に打込み、その柱外面へ付けた間渡を、釣子と縄掛け二巻きで縛りつける。

 小舞は縦を間渡の内側へ構目(かきめ)5cm内外に連れ巻きに縛りつけ、横小舞は径2~3cmの丸竹を縦と同様の構目で柱間3箇所程度構きつけ、隅では横小舞を柱角に沿って折り曲げ見廻しに通している。  註 構きつけ掻きつけの意と思われる。したがって、掻目は掻く間隔

 また小舞を柱に緊結する手法として、柱内側で柱頭部より約20cm下ほどの高さに丸竹を横に通し、その竹と柱外側の小舞を縄搦み(がらみ)した箇所もある。

 壁土は藁苆(わらすさ)がかなり多く切り込まれ、石粒も大分混入したものが塗られており、にわ土間には所々に方30cmぐらいの下地窓を明けている。

 

 地盤面との立上りには、見切りがなく、いわば地面がそのまま立ち上がる形になっている。復元では足固貫胴貫があるが、当初はなかったらしい。

 

(「第Ⅲ章ー4-1 古井家 復元後の内部写真」に続きます。)


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「第Ⅲ章-4-1古井家 復元後の内部写真, 参考」 日本の木造建築工法の展開

2019-06-19 13:16:50 | 日本の木造建築工法の展開

(「第Ⅲ章ー4-1 古井家 壁の仕様」より続きます。)

 

復元後の内部写真         重要文化財 古井家住宅修理工事報告書より転載、文字は編集

 

にわ~居室部境  にわの棟通りには、内法貫飛貫の2段のが入れられている。内法貫は、梁行桁行段違い。

 

 

にわ~ちゃのま  にわちゃのまの間には、建具はない。

 

  にわ~ちゃのま北西隅 水まわり

 

材料および材寸  :クリ 上屋柱 約14.8~16.5cm角 下屋柱 平均約12.7cm角  

梁・桁:スギ、一部ツガ、ヒノキ 上屋梁 平均約16cm×11.5cm 平使い 上屋桁 平均約14cm×11.5cm 平使い 束受地棟or丑梁約19cm×12cm  

:スギ、クリ  内法貫 約丈11.0~11.6cm×厚5,3~7.4cm にわ~ちゃのま境の例 上屋部で丈11cm×厚7.4cmある材を上屋柱の手前で片胴付に加工して厚5.0cmに狭め、下屋柱枘差し楔締め   飛貫 内法とほぼ同寸 にわ棟通りだけに入る。枘差し楔締め

継手・仕口 柱~小屋梁~桁 折置組柱 頭重枘   小屋貫継手 略鎌継ぎ(柱内)楔締め 柱~貫 楔締め

 

 

おもて 南面  南面の壁は外側大壁。下屋通りの壁には、足固貫、頭貫2段(後補)。

 

 

おもて 北面なんどちゃのま境   鴨居は、内法貫とは独立して取付けられている。このことから、を優先する古くからの架構法と考えられる。 方丈建築では、付長押で隠していることに留意。   

 

 

  復元組立中の床組

足固大引は丸太材。 足固は柱に枘差し

上屋柱下屋柱間は、足固材を上屋柱手前で幅につくりだし、足固貫として下屋柱に差し楔締めとしていた。

一般の大引は、なしで玉石上に直接載せている。この方法は、室生寺・金堂の当初部分(身舎・庇部)でも採られている。

 

ちゃのま 北面  が貴重品であった時代であるため、ちゃのまなんどの床は竹スノコとし、(むしろ)を敷いていた。 板張りの床はおもてだけ。

 

 

なんど~ちゃのま 境  内法貫下に鴨居を取付け、片引き板戸を設けている。

 壁のつくりかたからみて、当初の建物では胴貫はなかったものと推測される。修理時点では、後補のがあり、復元ではそれにならっている。 また、復元に際して、大壁部には帯鉄製の筋かいを入れたという。

  ちゃのま~おもて 境を見る  手前はにわ

 板壁は、柱間に横桟をやり返しで取付け、縦張り。 写真は重要文化財 古井家住宅修理工事報告書より転載、文字は編集

 

 

古井家住宅 間取りの変遷  外周の赤く塗った部分は土塗り大壁(壁の仕様は、前出)

 

 

古井家住宅 第一次改造の方法

 

日本の民家 3 農家Ⅲ(学研)より

 

 古井家では、建設以来400年を越える期間、上図のような梁・桁・差鴨居の新設による柱の撤去は行われているが、基本的な架構の骨格は当初のままで、内壁、外壁とも、用の変化に応じ、柱間は随時随意に開口の変更が行なわれている。

 このことは、古井家の架構では、壁部分は架構を維持するための役割を担っていないこと、すなわち、木造架構そのものによって維持されてきたこと示している。その点は、浄土寺浄土堂龍吟庵方丈などと、考え方は同じである。

 

  復元 架構組立中

重要文化財 古井家住宅修理工事報告書より

 

 

 

 

 架構模型 全景

模型では地盤面をつくらず、礎石で地盤高を調整した。 下屋柱には、貫を入れていない。

 

 架構模型 部分 

 

上屋柱下屋柱は、足固貫内法貫で縫うが、内法貫は、梁行柱通りすべてには入っていない。

 

 

参考 復元に至る考察      

 古井家住宅修理工事報告書には、復元決定に至る間の考察過程が、綿密に記されています(結果だけが述べられるのが普通)。 そのいくつかを以下に抜粋紹介します。記述中に出てくる番付は、下図の通りです。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

古井家住宅の修理工事および修理工事報告書の担当者

監修:工事監督 鈴木嘉吉  本文・写真・図面:工事主任 持田武夫  竣工写真:姫路市 八幡扶桑  大工棟梁:上月町 和田通夫 

 


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