信州・松代「横田家」-3・・・・その架構の考え方

2009-09-01 11:30:36 | 日本の建築技術
[文言追加15.18][図版改編 16.49]

「横田家」の「修理工事報告書」は、本文部分だけでも170頁余あり、他に写真・図版が80頁ほどもある「報告書」としてはきわめて大部です。もちろん本文中にも多くの「挿図」が載っています。
「挿図」のなかには、調査時の「野帳」とおぼしき図も多数あります。
今回は、そのなかから架構に係わる図を転載させていただきます。

上段3枚は、復元「断面図」です。それぞれに室名を追加してあります。
中段の3枚は、上から順に、軸部と横架材の取り合いを示した「架構模式図」、各柱の材種・材寸を記した「柱仕様図」、そして、土台の材種・材寸、継手・仕口を示した「土台伏図」です。
次は「柱の刻み」の詳細図(一例)、最下段は「貫」の伏図です。

「断面図」はどの「修理工事報告書」にもありますが、他の図は、普通は載っていません。

今回は図版が大量になるので「平面図」を省略しました。恐縮ですが先回の図版をプリントしてあわせてご覧ください。

この建物は、東西に長い平屋の茅葺寄棟の建屋に、南に「二階建て」を、北に「式台」になる部分を、それぞれ寄棟で付加した形になっています。
主軸になる寄棟平屋部には、束立ての小屋を載せる「上屋」に、「縁」や「押入れ」になる「下屋」がまわっています(「架構模式図」は、小屋組を載せる部分までの図です)。

この建屋の一つの特徴は、外周や間仕切位置を含め全体に「土台」を設置してあることです。
「柱」の立つ位置には「礎石」(径45cm×厚30cm程度)を据え、外周にはそれより小ぶりの「地覆石」の上に「土台」を据えています。
室内にあたる部分は大き目の礎石:束石を等間隔に並べ、その上に据えてあります。
「土台」は当初材が残っていて、材種・材寸は上の図に記されているように、クリが主で、幅が4~5寸、成・高さが平均して3.5寸の扁平な断面をしています。

「土台」の継手は、大部分が「腰掛鎌継ぎ」、「座敷」東の列に「追掛け大栓継ぎ」、「茶の間」と「勝手」の境に「金輪継ぎ」が使われています(「土台伏図」で相欠きの表記になっているところ)。
「土台」の直交箇所は、「平枘差し・割楔打ち」(「小根枘」の場合もあります)が主で、隅部では「角柄(つのがら)」を出して納めています。

「柱」も、ほぼ当初材が完全な形で残っていたとのことです。
「柱」の材種・材寸は、「柱仕様図」に記されていますが、大半がスギの「芯持材」、ほとんどが台鉋仕上げの3寸8分角以下という細身の材です。
「柱」の「土台」への仕口は「短枘」(3寸×1寸)が主で、「式台」正面両端などに「礎石建ち」の箇所があります。

軸部は「土台」と「横架材」の間に3段の「貫」を通して固めています。すなわち、「足固貫」「内法貫」そして「飛貫」です。
ただし、二階部分にはもう1段加わります。
ただ、足元では、柱間の長い箇所では「足固貫」に代り、3.5~4寸角のクリまたはマツの「足固」を差し渡しています。

「貫」の材種・材寸は、「足固貫」ではクリが主で、2.8寸×0.7寸程度の材を、梁行、桁行とも同じ高さでまわし、梁行では下楔、桁行では上楔とし、柱内で「略鎌:鉤型付き相欠き」、端部は「小根枘」で納めています。
「内法貫」は、材種はスギ、マツが主で、材寸、納まりは「足固貫」と同じです。

「飛貫」は、材種・材寸、納まりとも、基本的には「内法貫」と同じですが、ただ、端部は柱に「包枘差し」とのこと。
ところが、この「包枘差し」の様子が分らない。いろいろ調べましたが「日本建築辞彙」にもないのです。
私の推量では、柱を貫かないで納める単純な「枘差し」のことか?
と言うのは、この建物では腰の位置にも「貫」がありますが、その場合は、柱相互を固めるためではなく、壁の下地材として、すべて柱間に「包枘差し」納めとしている、という記述があるからです。つまり、柱を貫いていないのです。
どなたか、ご存知の方、ご教示ください。

以上をまとめれば、この建物は、土台建てで軸部を3段(~4段)の「貫」で縫い、それに小屋を載せた架構、と考えられます。
「土台」や「柱」など、ほとんどが当初材であることで分るように、この架構で、200年以上健在であったことになります。
しかも、その間、壁であった箇所が開口になるなどの改造が何度も行なわれています。そしてまた、地震にも遭遇しています。

このことは、この建物もまた、「古井家」や「箱木家」と同じく、しかも、それらに比べて細身の材にもかかわらず、「貫」で固めた架構で建ち続けてきたこと、
すなわち「立体に組まれた架構は頑強である」、という「事実」を如実に示している、一つの証である、と言えるのです。
要は、「壁に依存した工法ではない」ということです。[文言追加15.18]


もう一度、現在《主流》の「在来工法」の考え方、その根底の「理屈」を考え直す必要がある、と私は思います。

TVのコマーシャルでは、盛んに広い縁や開放的なつくりの建物が放映されます。それらは、多くは長い年月を経た建物です。そして、現在の「理屈」では「耐震補強」が必要とされる建物です。しかし、事実は、現在の建物よりもはるかに「寿命」が長いのです。地震でも持ちこたえてきています。

いま、「長寿命化」というと、すぐに材寸を太くすればよい、という風に考えがちです。
しかし、それは、誤り、誤解なのです。
4~5寸の柱で、細身の横架材でも、使い方次第で、丈夫で長持ちし、しかも使いやすい、改造も任意な建物がつくれるのです。
これが、「立体に組むことを信条としてきた日本の木造軸組工法」の特徴である、ということを、私たちは今こそ知る必要がある、そう私は思うのです。

なお、柱の刻みの図にある「待枘」や「横目違い」については、別途「補足」で説明します。
コメント (4)
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